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#体は心の容器です 第四話 汐里【note創作大賞】

汐里(1)

 モーリーはドアの前に書かれているICUの文字をじっと見つめていた。ドアが開いて看護婦が出てきたので声をかけた。
「すみません、従兄弟なのですが病状は大丈夫ですか?」
「意識は戻りました。後ほどご親族様にはご説明させていただくので、そちらの椅子でお待ちください」
 看護婦は廊下の脇にある安物の椅子を指さし、ナースセンターのある方へ急ぎ足で向かっていった。モーリーは椅子には座らず、そのまま病院を出た。

 自宅に戻ると、モーリーは父親の部屋に入り、壁に飾られている汐里の写真を見つめた。その後ヘッドマウントディスプレイを装着した。
 事務所は夕暮れの海辺だった。
「ダモさん、いる? 設定変えてくれない?」
 海に映る夕日が変形し、なにがいい? という文字になった。
「なんだろ、明るい場所がいいな」
 モーリーの言葉で、夕暮れの海辺から烏賊釣り漁船の上に変わった。烏賊釣りの灯が辺りを照らしていた。
「明るいけどさ…」
 モーリーは漁船の上でため息をついた。海面かダメ? と言う文字がピチピチと跳ねた。
「なんでもいいや、もう。愛慕呼んでくれる?」
 突然、海面からサメが飛び出し、甲板に乗っかった。そしてサメは尾びれを足のように使って器用に立ち上がった。
「呼んだ?」
「正確に言えば呼ばれたけど何か話があるのか? だろ?」
「いらついてるね。何かあったんだろ、モーリー」
 モーリーはアイボの言葉を聞いて、軽く深呼吸をした。
「俺、心交換師をやめる」
 アイボは軽く頷いた。
「いいぜ」
「軽いな」
「だって、俺は手伝いませんかー?って言われただけで、やめるなら手伝いをやめるだけだから」
「ワンチャン、止めてくれると思っていたが」
 アイボが笑った。
「止めるわけないだろ。モーリー、死ぬほど頑固じゃん。いや、死んでも頑固だな。お前だったら火葬にしても骨の代わりに頑固が残ってる。そうだ。汐里には言ったのか?」
「汐里の意識は戻ったから、次に事務所にきたら言うわ」 
「それがいい。ダモ、お前はどうだ?」
 海からイカが飛び出して、イイヨと言う形を作りながら再び海へ潜った。
 モーリーは杖を軽く振ると、海面のイカを一杯捕らえた。
「なんでやめるか聞かないのか?」
「そうだよな。汐里の体盗んだ犯人みつけるまでやめないって言ってたろ」
 モーリーは頷いた。
「そうだよ。犯人見つけるまではやめない」
「ということは、そういうことか?」
 愛慕は嬉しそうにヒレをパタパタさせた。そしてそのまま海に飛び込んだ。
「そういうことだよ、愛慕」
 モーリーは愛慕が泳ぎ続ける海をじっと見続けた。 

 
 汐里の視界には、模様も何もない無機質な天井が広がっていた。ICUであると認識するのには数分必要だった。
「汐里さん、起きた? 良かったです。先生呼びますね」
 看護士の声だ。どうやら汐里は二週間ほど意識がなかったようだ。自分ではそんな認識はないが、十年ぶりに目を覚ましたときも同じだった。
 その後現れた医者によると、容体は落ち着いたとのことで午後にでも通常の病室へ移動すると説明した。汐里はあまりICU感を味わえなかったなと思いながら看護士に移動された。
 しかし今までと違ってピービー音が鳴る機械と何かのが腕に注入されている管をつけられていた。機械は何か不穏な音を定期的に発している。
 看護士は心配ないというが、今まではつけなくて良かったのだから、実際には体が悪くなってきていると言うことだ。

 汐里は死が少しずつ自分の身に近づいていることを感じ始めた。体が盗まれて以来、すでに何回も泣いた。怖い。自分が消えてしまうという事象がたまらなく怖い。今ではモーリーに心交換してもらえるという希望があったから、どこかでその恐怖を鍵のかかったロッカーに閉まっておけたのかもしれない。
 一方で汐里は思っていた。生きるとしたら自分はなにが出来るのだろう。オーボエは吹けないし、恋愛には興味が無い。家族には会えないし、友達もいない。でも漠然と生きたいと思う気持ちだけが残っている。ふと汐里の目には、窓際に飾ってある透菜にもらったサボテンが目に入った。

【心交換師事務所 雲の上】
 空を泳ぐいわしを見ながら、雲の上に汐里とモーリーが立っていた。
「ちょっと汐里が何を言ってるのかわからない」
「もう一度言うよ。植物にも心があるって知らない? 毎日植物にグチを言うと心が疲弊して植物は枯れていくんだって。これは植物に心がある証拠なの」
 白鳥姿の愛慕が雲の中から顔を出した。
「知ってる!」
「でしょ? だからサボテンにも心があるの」
 モーリーは足元の雲をちぎって愛慕に向かって投げた。
「だからといって、サボテンと心を交換するとか意味が分からない」
「私は親も友達もいないし、恋愛も要らないし。毎日青い空を見ているだけで幸せだから。私はサボテンと心を交換して、サボテンになりたい。毎日、光合成したい」
「お前を助けたくてずっと探してきたのに」
「ありがとう」
「これから幸せになって欲しいんだよ」
「ありがとう」
「だって、10年近くしか生きてないじゃないか」
「ありがとう」
「光合成して何になるんだよ」
「地球温暖化解消?」
 汐里は屈託のない笑顔を浮かべながら、手に持っていたサボテンをモーリーに渡した。
「大事なお願いがあります。一生育ててね。モーリーより長生きするかもしれないけど」
 汐里は満面の笑みを浮かべた。雲が「やめとけ」という形に変わった。
「ほら、ダモもやめとけっていってる」
「すぐ死ぬ人間と心を交換する相手なんて見つからないって言ったのは、誰だっけ」
 モーリーは唇を噛んだ。汐里はまっすぐにモーリーを見つめた。その目は嘘偽りない本気の目だった。モーリーは汐里に対して懇願するように訴えた。
「俺、わかったんだ。犯人」
「そうなの?」
「だから犯人を捕まえて汐里を元に戻したら、交換師をやめる」
「どこにいるの?」
「それは……誰なのかはわかったんだけど、どこいるかがわからない」
「私、今すぐ死ぬかもしれないんだよ? そんなの待てない。だから、サボテンと交換して。明日でいいから。それでさ、万が一私の体見つけたら、元に戻してよ」
 汐里は、まるで透菜達を元気づけるかのように病院に咲いていたひまわりを思い起こさせる笑顔をモーリーに向けた。
 

 汐里(2)

 汐里がベッドから体を起こして壁を見つめていると、廊下から深く帽子を被ってマスクをした一人の男性が入ってきた。初めて見る顔だが、まるで汐里のことを昔から知っているかのように近づいてきた。
「誰?」
 男性はピタリと足を止めた。そして汐里の質問に答えた。
「あなたに用事が」
「私は用事ないですよ。ここから出て行ってください。人を呼びますよ」
 汐里はナースコールのボタンに手をかけた。男性は落ち着いた様子で汐里に答えた。
「用事がないかどうかは、俺だけがわかっているはずだ」
 聞き覚えのある口調だった。汐里は頭の中に浮かんだイメージと全然違うことに驚きながら、質問した。
「もしかして、モーリーさん?」
 怪しげな風貌の男は、ぶっきらぼうに頭を下げた。

 汐里は驚いていた。想像していたよりモーリーの見た目が年上だったことを。
「あのさ、やっぱりおっさんじゃない」
「おっさんじゃない!」
「じゃああれだ。この間教わった言葉。そう、加齢」
「そんな言葉、教わらなくていい」
「関係ないけど部屋の中では帽子取ってくれる?」
「なぜ」
「学校で教わらなかった? お家の中では帽子を取るって。マナー違反」
「もし私が頭を見られたら死にたいくらい恥ずかしいとしたら、それを無理矢理取れという事こそがマナー違反じゃないのか? 全然論理的じゃない」
 汐里は面倒くさそうな表情をしながらモーリーに手招きした。
「なんだ?」
 モーリーの言葉を無視して手招きを続けた。
「なんだよ」
 モーリーは仕方がないという表情をして汐里に近づいた。汐里はニヤリと笑って帽子のつばを握ろうとした。しかしモーリーは華麗に交わした。
「素早いね、おじさんなのに」
「加齢でも素早さパラメーターは落ちてないからね。というか加齢じゃない」
「それより早く心交換してよ」
「だから、交換しに来た」
 そしてモーリーは窓際に置いてあるサボテンを手に取り、汐里の横に置いた。
「これに交換するんでいいんだろ」
「そう、ありがとう」
「手、出せるか」
 汐里はモーリーに向かって手を伸ばした。モーリーは抵抗されなかった事に少し動揺した。ぎこちない手つきで汐里の手を取った。
「もしかして女の子の手を握るのはじめてだったりする?」
「お前の手を握るのは、これで二回目だ」
「え?」
 汐里はモーリーの言葉の意味が分からず、返す言葉が出なかった。モーリーはそんな汐里の様子を無視して、汐里の右手の生命線を指差した。
「ここから心を抜き取っていく」
 汐里はモーリーに握られている自分の右手をじっと見た。
「ちょっと待って」
「なんだ? やっぱりやめるのか?」
「やめない」
「じゃあ」
「サボテンってトゲがあるから誰も触れないでしょ。となると最後に触れた人間の手がモーリーになるのかって」
「愛慕でも呼ぶか?」
「一緒だよ」
 時間はどんな人間にも平等に流れている。ただ今だけは二人の間に流れる時間が、スローになっていた。
 モーリーは汐里の目を見ずに言った。
「毎日、水はあげるからな」
「高いやつね」
「え? 水道水じゃダメか?」
「ダメ。富士山とかの湧き水がいいな」
「水は水だろ。そもそも味わからないだろうし」
「嫌だ、富士山! 阿蘇山! 南アルプス!」
「山なら何でもいいのか」
 汐里は目に涙を浮かべながら、笑った。
「じゃあ、始めるぞ」
 モーリーは汐里の右手の生命線に人差し指を当て、そのまま右手を強く握った。汐里は今までの事を思い出しながら、ゆっくりと意識の扉を閉めていった。

 しばらく時間が経ったのだろうか。汐里は目をゆっくりと開けた。自分が寝ていた病室にいた。視線の先にベッドがあった。サボテンにも目があるのかと不思議に思った矢先、目の前に布団を膝の上までかけた汐里が見えた。
 慌てて鏡に目をやった。間違いない。この体はモーリーの体だ。
「なんで?」
 汐里はサボテンの植木鉢を掴んだ。するとさっきまで自分の体だった女が話し始めた。
「サボテンには、まださせないよ」
「なんでよ!」
「帽子とマスクとってみな」
 汐里はそっと帽子とマスクを取った。そして鏡を見つめた。見た事のある懐かしい目だ。いや、見覚えがあるどころじゃない。汐里は生まれてからずっとこの目を見てきた。いや、愛情をもってこの目に見られ続けてきた。
「……お父さん? どういうこと? モーリーが私のお父さんって?」
「俺は子供の頃に殺された。でも殺された瞬間に犯人の心と入れ替わった」
「え?」
「汐里のお父さんは俺の家族を殺した犯人だ」
 汐里は力が抜け、床にそのまま座り込んだ。
「嘘だ……」
「これは事実だ」
「嘘、嘘……」
「でも汐里を車で轢いたのは、俺の親父だ」
「え……」
「たぶん、復讐だよ」
 汐里は大きく首を横に振った。
「なによそれ、わかんないよ」
「俺も、わからない……ただ汐里のお父さんは俺と心交換をした後に、ごめんよって言った」
「なんで?」
「わからない」 
 汐里の姿をしたモーリーは、突然激しく咳込んだ。
「しかし、よくお前平然としていられたな。肺がむちゃくちゃ痛いぞ」
「大丈夫?」
 汐里は痛がるモーリーの背中をさすりながら、モーリーに言われたことを考えていた。
「あともう一個わかった事がある。俺と汐里は昔からの知り合いだ」
「そうなの?」
「あの日、家に帰ったあとのお母さんのプリン、美味しかったか?」
 モーリーは飛行機の翼のように手を横に広げた。汐里は、丸い目を更に丸くして驚いた。
「もしかして、森くん?」
 モーリーは恥ずかしそうにゆっくりと頷いた。
「汐里に手伝って欲しい事がある」

 汐里は自宅への道を歩いていた。自宅へ戻るのは、あの事故の日から初めてだった。正直なことをいうと、自分ではない姿で自宅に戻るのは少し気が引ける。しかしモーリーが事件の真相がわかるかもしれないというので、帰ることにした。
 モーリーがクラスで隣に座っていた森くんだったというのは衝撃だった。小学校の時の森くんはもっと明るい男の子だったはずなのに。なぜあんなに理屈っぽい人になってしまったのだろう。この十年で森くんはどんな経験を積んだのだろうか。
 汐里は懐かしい思いで玄関のドアを開けた。昔はテレビがつけっぱなしのリビングで明るい声の母が迎えてくれていた。しかし今日は電気すらついていない。汐里は母親の事を一瞬思い出したが、渋谷の顔が浮かんできてため息をついた。そして、家中の電気をつけた。
「ただいま」
 汐里の声に返事は戻ってこなかった。子供の時みたいに父も母もいない。二度と両親がこの家で待っているということもない。気がついたら汐里は泣いていた。しかしその涙に気づいてくれる家族はどこにもいなかった。
 二階の階段を昇り、父の部屋のドアの前に来た。

 ――お父さんの部屋の中を見て欲しい。

 モーリーの言葉を思い出しながら父の部屋のドアを開けた。中は子度の頃に入ったことのある父の部屋ではなかった。部屋一面に子どもの時の汐里の写真が所狭しと貼られていた。生まれた時にベッドで寝転ぶ姿、壁につかまって立ち上がる姿、理由は分からないが号泣している表情もある。幼稚園、小学校、産まれてから十歳になるまでの全てがそこにあるかのようだった。
 
 ――どうしてもわからない事があるんだ。汐里ならわかるかもしれない。

 机の上のパソコンに向かって、電源をつけた。そしてモーリーに教わっていたSNSのアカウントを開いた。ログインIDはキャッシュで入力されているが、パスワードが空欄になっている。

 ――絶対に汐里に関係する言葉がパスワードになっているはずだ。

 慣れないキーボードを人差し指で叩きながら、思いつく限りの言葉をパスワードに打ち込み始めた。

汐里(3)

 電気の消えて暗くなった病室へ、一人の黒い影が忍び込んできた。黒い影は息をひそめて、ベッドで寝ている患者に悟られないようにゆっくりと窓際へ近づいていた。そしてカーテンが少し開けられ、月が見えるように置かれているサボテンにゆっくりと近づいた。
 ベッドで患者が寝返りを打った。瞬時にしゃがみ、患者に診られないように隠れた。そして寝言のような声が消えて、寝息に戻ると再び立ち上がった。除草剤と書かれたボトルをサボテンの鉢に傾けた。
 
 突然、病室が朝になったかのように一瞬で明るくなった。
「サボテンになにか用事ですか?」
 ベッドから体を起こした女性は、サボテンのそばに立っている人を指さした。その指の先にいる人間は右手に持っていた薬剤の容器を背後に隠した。そして少し後ずさりする様子を見せた瞬間、病室の出口へ走り出した。しかし病室のドアの前には一人の男が立っていた。
「逃がしませんよ」
 男は忍者のように素早く背後に回り込むと、逃げようとしている人物を捕らえた。そして手に持っていた薬剤の容器を叩き落とし、首を押さえて逃げられなくした。薬剤の容器には除草剤と書かれていた。捕らわれた人物は必死に逃げようとするが、男の力から逃れることができない。
「逃げられませんよ。これでも村のボディビルディングで優勝したことがありますからね」
 汐里の姿をした女性は、鼻先で笑った。
「村を笑いましたね。そんな失礼な事をするのなら、この人逃がしちゃいますよ、モーリーさん」
 そして男は捕らえた人物の被っている覆面を脱がせた。短めの髪が後ろで結ばれていた。その顔を見ると、汐里の姿をしたモーリーはやっぱりという顔をした。
「子供の頃から汐里は顔が変わらないな」
 女の顔は、モーリーが汐里の父親の部屋で見た顔と同じ顔をしていた。そして小学校の時に隣に座っていたあの顔と同じだった。
「ようやく会えた。体泥棒さん」

 汐里は昔の自分の顔写真に囲まれながら、思いつく限りの言葉を試していた。しかしどれもパスワードとしては受け入れられなかった。
「森くん、わかんないよ」
 椅子に力強くより掛かって背後の壁を見つめた。一枚の写真が目に入った。父と幼稚園時代の汐里が公園の砂場で遊んでいる時の写真だ。
 父との遊びを思い出していた。父が砂場の山に大好きな人形を隠し、汐里がそれを掘って見つける。山を作って人形を隠しては、人形を発見する。たったそれだけのことだが、とても楽しかったのを覚えている。そしてその遊びの終わりはいつも同じだった。

 汐里が山の中を探しても人形が見つからなかった。父にちゃんと隠したのかと文句を言ったら、人形は既に家に帰ったという。そうすると父と手を繋いで家に戻る。そして汐里の部屋に行き、父から教わった言葉をベッドの毛布で不自然に盛り上がった箇所に向かっていつもの言葉を叫ぶ。

 汐里はハッと思い出した。その単語をキーボードで一文字ずつ入力した。

「でておいで」

 【e】のボタンを押すと、SNSの画面が立ち上がった。汐里は画面向かって拍手をした。そしてモーリーに言われていた、怪しいDMが無いか確認を始めた。
 このアカウントが家族を殺した犯人であるとバレていたからなのか、誹謗中傷のDMが沢山並んでいた。その中のメッセージを一つ一つ確認していった。森くんの言葉を思い出しながら。

 ――お前の父親を殺害まで至らせた悪魔のようなアカウントがいるはずだ。それがヒントになるはずだ。

 汐里は一時間以上DMを見続けた。そしてあるアカウントで手を止めた。
「なにこれ」

 そこにはこう書かれていた。

 【全部嘘だよ、バーカ】

 アカウント名は、窓。

 汐里の姿をしたモーリーは、愛慕が捕まえた女をじっと睨んでいた。女は汚い口調でモーリーに向かって叫んだ。
「だましたな、お前モーリーか」
「口悪っ」
「うるせえな!」
 モーリーは胸の辺りの痛みを堪えながら、悪態をつく女へ冷静に語りかけた。
「最初に騙したのは、お前だろう」
「うるせえな」
 モーリーは会話をしながらも呼吸することすらかなり辛かった。しかしようやく見つけた犯人を逃がすわけにはいかない。モーリーは女に語り始めた。
「ずっと監視していたって事だ。気づかなかった」
 女は暴れようとするが、男が抑え込む力が強く、少しも動けない。モーリーは床に落ちている除草剤を指さした。
「わざわざ病室に忍び込んできて、そのサボテンを枯らしてどうするつもりだった? もしかして、そのサボテンの中に誰かいると思ったか? その事を知ってるのは、ごく限られた人間なんだよ」
 モーリーは女の顔を両手で掴んだ。
「あの事務所にいたのは、俺と汐里と愛慕。あと一人だよな、ダモ」
 女は何も知らないと言いたげな表情で、モーリーの視線をそらした。

#創作大賞2024
#ミステリー小説部門


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