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海砂糖【シロクマ文芸部】

「海砂糖があればいいのにね」

夕日が沈みゆく海岸を見つめる彼女は、今まで見た事の無い表情をしていた。

「海砂糖って何?」

彼女はフフフと笑った。その笑顔で僕の問いかけをまるでティースプーンでくるりとコーヒーの中に砂糖を溶かすように、この海岸の雰囲気に消してしまった。

「海が何でしょっぱいか知ってる?海で別れたカップルの涙のせいらしいよ」

彼女はそう言うと、突然波の縁ギリギリまで走っていった。彼女が砂を踏む音が、何かが少しずつ壊れていく音にも聞こえた。

僕は彼女の後をゆっくりと追いかけた。右のポケットに突っ込んだ手はまだ出さない。

海の向こうに一隻の船が見えた。

彼女はその船に向かって大きく手を振った。その無邪気で無防備な背中へ静かに近寄った。

こうなったのも彼女のせいだ。

ポケットの中に突っ込んでいた手をおもむろに外へ出した。

そして握りしめていた発煙筒で煙をあげた。遭難7日目の事だ。

「やっと帰れるね」

彼女と私は嬉しさの余り、熱くキスを交わした。

少し海が甘くなったかもしれない。

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