演劇部 ほおずきんちゃん台本
タイトル:ほおずきんちゃん世界を救う
(登場人物)
陽介 :高校2年生。進路に悩み、日々の生活に悩んでいる。
美咲 :不思議な雰囲気を持つ少女。実は鬼灯の力を持つほおずきんちゃん。
カラス男:カラスの姿をした謎の鳥人
中の人:陽介の中の人
中の鬼:陽介の中の鬼
場面1:教室
#陽介にスポットライトが当たっている。
陽介(モノローグ) 「俺の名は平陽介。平凡な高校に通う平凡な高校生だ。身長は173㎝、体重65キロ、顔は中の中の中。出席番号も26番という意味のない数字。平凡、絶平凡。なんなら苗字の平も平凡からとったんじゃないか。だったら名前を凡にすればまだ平凡じゃなかったのに。『はじめまして、平凡(たいらぼん)。よく平凡って言われます』ってつかみが取れたじゃないか。平凡な両親のせいで陽介になってしまった。平凡だ。平々凡々だ。昨日森の木にカブトムシがいると思って近寄ったらカナブンだった。十匹くらいのカナブンが平凡な僕にはカブトムシじゃなくてカナブンがお似合いだって。カナブンと一緒に樹液を舐めてればいいだろって森の木に馬鹿にされたみたいだった。ふざけるな!俺はカナブンじゃなーーーーい!」
#陽介、辺りを見回す。
陽介「すみません、自分のふがいない平凡さに平凡に興奮してしまいました。そんな平凡な僕の、非凡な一日のお話です」
#明るくなって、教室の中に入ってくる陽介。
陽介「はーあ。またつまらない一日が始まった。そもそも僕は何のために学校に通っているんだろう」
#【学生の本文は勉強】と書かれた細い幕が下りる
陽介 「はぁ、何か平凡じゃないことってないかなぁ」
美咲(教室に現れる) 「おはよう、陽介」
陽介「おはよ……う?」
美咲「なに? いつもみたいに元気に挨拶してよ! 『おはようかんはやっぱりこしあん?』って。嫌なことでもあった?しょうがないなぁ、この美咲さんに悩み事を相談しなさい」
#美咲は胸をドンと叩く
#陽介は美咲の様子をじっと見つめる
美咲「なに? なになに? 私の顔、何かおかしい? もしかして眉毛書き忘れた?」
#美咲は両手で眉毛を隠す
陽介 「あの……」
美咲「なによ、ジロジロ見ないでくれる?」
陽介「誰…?」
#美咲、大きな声で嘆く
美咲「ひどい。朝ベッドから起きたらノーメイクの女に誰っていうやつでしょ? 漫画で見た! 眉毛で私を認識してた訳? じゃあ私を認知するためのシンボルが眉毛ってこと? 眉毛なんて顔の面積からしたら10%未満なのに」
陽介「そうじゃなくて」
美咲「眉毛が10%以上あるってこと?もしかして私の顔は眉毛100%ってこと?」
陽介「そんなことは言ってない!」
美咲「じゃあ鼻毛?」
陽介「眉毛でも鼻毛でも耳毛でもない!」
美咲「じゃあ、何毛?」
陽介「毛から離れてくれ!」
#美咲、ハサミを取り出して髪の毛を切ろうとする
陽介「髪の毛を切り離すな!」
美咲「離れろっていうから!どうしたらいいのよ!」
陽介「知らないよ! そもそも、お前は誰なんだよ!」
#美咲はハサミを構えてニヤリと微笑んだ。
美咲「さーて、私は誰でしょう」
#美咲、ハサミをシャキっと切る仕草
#ハサミが空を切る音
#暗転
場面2:校舎の屋上
#明転
陽介「え? え? なんで?」
美咲「ようこそ屋上へ」
カラスが鳴く
陽介「どういうこと?」
美咲「このハサミで、あなたの時間をカットさせてもらいました」
陽介「うん、そういうことか。どういうこと?」
美咲「時計を見て」
陽介「え? 11時? いや、朝だろ今」
美咲「3時間くらい時間を切らせてもらいました」
#陽介は美咲を不審な目で見つめる。
#カラスが鳴く
陽介「お前、誰だ」
美咲「誰でもよくない? それより助けに来たんだけど」
陽介「何を?」
美咲「世界を」
#カラスが鳴く
陽介「ずいぶん大きく出たね」
美咲「だって、この後起こることを考えたら、そう言っても間違いじゃないから」
陽介「なに言ってるんだよ。この後何が起こるんだよ。今日は水曜日だから売店のサンドイッチ競争くらいしかないだろ」
美咲「【幸せ】って書いて、【知らない】って読むのよ、ってサレ妻が教えてくれた」
陽介「お前、絶対生徒じゃないな」
美咲「そういうお前、絶対生徒だな」
陽介「そうだよ!生徒だよ!」
#カラスが鳴く
美咲「そうね、あと1時間後までは生徒でいられるけど」
#美咲、さみしそうに屋上の手すりを掴む
#カラスが鳴く
陽介「うるさい! カラスのくせに!」
#カラスが鳴く
美咲「カラスだと思う?」
カラス男が現れる。体はカラスで顔は人間。口だけはくちばしになっている。
陽介「お前、ヒロト?」
#カラス男が頷く
陽介「いやいやいやいやいやいや。俺と同じくらい平凡でおなじみのお前が、そんな仮装してドッキリするなんて陽キャやる? 動画だろ? どこで撮ってるの?」
美咲「動画じゃないよ」
#カラス男、強く頷く。陽介はカラス男の顔をじっと見る。
陽介「いやいやいやいや」
#カラス男の体をじっくり調べる。
陽介「いやいやいやいや」
#カラス男のくちばしのつなぎ目を調べる。
陽介「いや…」
美咲「信じてくれなくてもいいけど、これは本当のこと。ヒロトくんはカラス男になろうとしてるの」
陽介「なんで?」
美咲「人は目の前に起きているにも関わらず理解できない事実を受け入れるのに時間がかかる。なぜ殺したんだ。なぜ不倫したんだ。なぜマスクをつけるんだ。そうやって自分を納得させる理由を見つけるまで事実が理解できないから手遅れになってしまうの。わかる?」
陽介「俺、もしかして人類代表として説教された?」
美咲「そろそろ人類じゃなくなるけどね」
陽介「それどういう事だよ」
美咲「鬼よ」
陽介「え?」
美咲「内面の鬼が表面化してるの」
#暗転
場面3:陽介の心の中
#陽介は下手で舞台を見ている。
#美咲は中央で向かい合っている二人の仲裁に立つ状態。
陽介(モノローグ) 「なんだこの感覚…?」
美咲 「ようこそ、陽介の心の中へ」
陽介 「ここは…?」
美咲 「これはあなたの心の中。悩みや不安が形を持って現れる場所よ」
#二人の男が喧嘩を始める。
男1「やめてくれよ」
男2「何言ってるんだよ、お前が望んでるんだろ」
男1「そういう意味じゃない」
男2「意味とか関係ない。平凡じゃいやなんだろ?」
#二人の動きが止まる。
美咲「紹介しまーす。こちらが陽介の中の人で、こちらが陽介の中の鬼です」
#二人が陽介に頭を下げる。
男1「中の人やらせていただいています。いつも外側の陽介さんには苦労かけっぱなしで申し訳ないです」
男2「中の鬼やらせてもらってます。そろそろ中の人と交代させていただきますので、これからよろしくお願い致します」
#陽介、社交辞令風に頭を下げる
陽介「ごめん、人類代表として理解が追いつかない」
美咲「だから、ここはあなたの心の中。悩みや不安が形を持って現れる場所よ。同じセリフ2回言うと混乱するからやめてもらえる?」
陽介「ごめん」
美咲「簡単に言うと、今ではこちらの中の人があなたを操っていました」
中の人「ども」
美咲「でも、これからは中の人に代わって中の鬼があなたを操ることになります」
中の鬼「ども」
中の人「いや、それはまだ決まってないでしょ!」
中の鬼「内定はいただいていますから」
#暗くなり、美咲にスポットライト
美咲「百年以上前の話。この学校が建っている場所は昔は鬼里と呼ばれていたの。昔話に出てくる鬼はこの里出身じゃないかって言われてる」
陽介「そんな事言われても」
美咲「近くに鬼無里村ってあるでしょ。あそこは鬼里の近くで人間たちが暮らしていたからそういう名前だったの」
陽介「そうなんだ」
美咲「人間の中には鬼が住んでるの。それが表に出てくると人間は悪事を犯してしまう。でも鬼は簡単には表には出れないわ。それは中の人が頑張ってるから」
陽介「理性みたいなのも?」
美咲「近いわね。でもこの土地には中の鬼を強くさせる邪気が蔓延っていたの。だからこの土地に住む人達は鬼化していた」
陽介「鬼化……?」
美咲「それもここ最近は減っていたの。邪気を抑え込んでいたから。でもその封印が昨日解かれたの。鬼里の深い森に邪気を封印し続けていたカナブンが何者かに殺されてしまっていた。そして森の木から鬼の邪気が漏れ始めたの」
陽介「えーっと……カナブン?」
美咲「古来から伝わる神の子と言われる神尊カナブンが、邪気の湧き出す入り口を塞いでいたのです」
陽介「カナブンは、十匹くらい?」
美咲「封印にまつわる十の文字の数だけカナブンが」
陽介「殺された?」
美咲「殺虫剤で一気に」
陽介「あああああああ」
美咲「どうしたの?」
陽介「いや、なんでもない。続けて」
美咲「そして、この学校には邪気のピークポイントがあるの。だから学校の生徒達はどんどん鬼化していくわ。当然、あなたも」
中の鬼「うおー!力がみなぎるううううううう」
美咲「ね」
陽介「鬼化したらどうなるの?」
美咲「人によるわね。さっきの人はカラスの鬼よ」
陽介「カラスの鬼?」
美咲「ちょっとだけ角が生えてたでしょ?」
陽介「そうだったっけ?」
#カラス男が陽介の元に飛んできて頭を見せる。陽介、つむじのあたりをかき分けるように見る。
陽介「ホントだ」
#カラス男は満足そうに鳴いて飛び去る。
美咲「というわけで、あなたの心のなかで中の人と中の鬼が戦っているのでごさまいます」
#雰囲気が変わって、ボクシングの試合風に
美咲「第一ラウンド開始!」
#ゴングが鳴る。
中の鬼と中の人が一発ギャグ対決。
毎回ネタは変える。
勝敗は1回ごとに観客の笑い声で決める。
もし中の人が負けたらそのまま次へ。
もし中の人が勝ったら調子に乗ってもう一個ギャグをやる。これは演出家が絶対につまらないやつを指定。そこで勝利を剥奪して中の鬼が勝利。
陽介「おい! 中の人!」
中の人「すみません、外の人……」
美咲「さて、これからあなたは鬼になります」
陽介「鬼か、鬼かあああああ。あ?」
#陽介、少し嬉しそうな表情。
美咲「どうした? 気持ち悪い笑い方して」
陽介「おれ、どんな鬼になる? カラス?」
美咲「鬼は心の中の写し鏡。カラスだけじゃなくていろいろな姿があるの。虎とか鯨みたいな動物もあれば、竜とか神だってあるんだから」
陽介「竜!それはヤバい」
美咲「テンション変わってるじゃない」
陽介「鬼。ありだな。おれ、どんな鬼になれるかな。場合によっては将来の自分として鬼になるキャリアプランも視野に入れて考えてみようかと」
美咲「あなたはね……」
#美咲、何かを取り出して調べる
美咲「ふうーん」
陽介「どんな感じ? 風神雷神みたいな感じがいいなぁ」
美咲「そうねえ、あなたは……赤鬼ね」
陽介「赤鬼?! 日本昔話的な?」
美咲「そうね、一番平凡な」
陽介「そんな」
美咲「体の色が」
陽介「真っ赤で」
美咲「パンツの柄は」
陽介「虎柄。知ってるよ! 地獄で働かされてるやつだろ? 桃太郎で最初にやられるやつだろ? ゲームで雑魚キャラとしてでてくるやつだろ?」
美咲「青鬼みたいにいいヤツでもないしね。平凡な鬼」
陽介「鬼、無し!」
美咲「心変わりはやっ!」
陽介「頼む、鬼にだけはなりたくない、中の人頑張れ!」
#中の人は中の鬼にプロレス技をかけられていて、ギブアップ寸前。
中の人「ギブアップのタオル投げてください!」
陽介「無理!」
中の人「お願いします!」
中の鬼「ギブアップさせるもんかぁ」
#中の鬼、力を込める
中の人「ぐわぁああああ」
陽介「ギブアップさせるもんかぁ」
#タオルを隠す
中の人「ぐわぁああああ」
美咲「もはや、あなたはすでに鬼ね」
陽介「はっ、まずい。このままでは身も心も平凡な鬼になってしまう。平凡ズだったヒロトにすらバカにされる」
美咲「さっきから気になってたんだけど平凡ズってなに?」
陽介「あんた、色々よく知ってるから鬼にならない方法も知ってるんだろう。助けてくれ」
美咲「いいよ」
陽介「え? 軽い。もっと無理難題を押しつけて俺を困らせて喜ぶのかと思ったら」
美咲「そんな性格悪くないよ」
#美咲はオレンジ色の頭巾を取りだす。
美咲「これをかぶせれば大丈夫」
陽介「なにそれ」
美咲「私は、貴方に命を助けられたあの時の…」
陽介「俺、鶴とか助けた覚えはないけど…」
美咲「ほおずきです。よく地元の悪友にはほおずきんと呼ばれています」
陽介「ほおずき?」
美咲「あなたは木に向かって何かを叫んだあと、こっちに向かって走ってきた。道に転がっていた私は貴方に踏まれる寸前でした。でも貴方は華麗に私だけを避けて走っていきました。あの時はありがとうございます」
#陽介だけにスポットライト
陽介(モノローグ)「たまたまだろ、それ。でも、利用するしかない」
#スポットライト戻る
陽介「たのむ、かぶせてくれ!」
#暗転
陽介(モノローグ) 「ほおずきんちゃんは学校の生徒全員にオレンジ色の頭巾、通常ほおずきんをかぶせて、鬼化した生徒を全て人間に戻した。また封印のカナブンは発見するのにも宝くじに当選する確率なんだけど、色々な手を尽くしてどうにかこうにか集めて再び封印した。現実と違ってお芝居って素晴らしい。そしてまた平凡な日々が始まった」
場面4:教室
#陽介、舞台上でスポットライト
陽介(モノローグ) 「俺の名は平陽介。平凡な高校に通う平凡な高校生だ。身長は173㎝、体重65キロ、顔は中の中の中。出席番号も26番という意味のない数字。平凡、絶平凡」
#陽介、観客席に向かって
陽介「でも、それでいい。平凡の平は平和の平。だって鬼に世界を征服されるよりはよっぽどましだから。僕は平凡であることを誇りに思っている! だから毎朝、学校に行く途中に森へ向かって叫んでるんだ。『ありがとうーーー!平凡ーーー!』」
#美沙が舞台上に駆け込んでくる。
美沙「陽介! 大変!」
陽介「久しぶり、どうし……」
美沙「また鬼が! 鬼が出る!」
陽介「え? どうして? カナブンはいるでしょ」
美沙「今度は邪気を封印していた鳩たちが、いなくなってしまったの」
陽介「なんで?」
美沙「毎朝、森に異様な叫び声が響いているの。その声のせいで鳩が逃げてしまったみたい!」
陽介「……」
美沙「鳩を一緒に捕まえて欲しいの!」
陽介「わかった! 任せろ! なんでも言ってくれ。美沙の力になるから」
美沙「さすが陽介!」
陽介「あと、なんかごめんな!」
美沙「どういう意味?」
陽介「気にするな!」
#陽介と美沙は手をつないで、封印の鳩を求めて走り出す。
(完)
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