氷織屋先生と白犬 3.白犬【創作大賞2024】
Room A REC 越生 草樹
【氷織屋が死んだの日のこと】
越生草樹です。
僕らはいつも通りに生活を続けることが最も重要だった。普段と異なる行動を取ることは疑念を招くからだ。計画通りに行動すれば、全てが順調に進む。その日、僕はただそれだけを思いながら過ごした。
僕は塾に行ってから、コンビニに寄ってドーナツを買う。そして家に帰ってゲームをする。それがいつもの僕だ。だから僕は正確にそれをこなした。一つだけ違うことと言えば、母から聞いた担任が死んだというニュースに全力で演技すること。それだけだ。うまくできたかはわからないけど、多分問題ないと思う。
次の日は学校の前に記者みたいな人たちが沢山いた。しかし僕たちは既に対策は十分に行っていた。正直言うと、驚くぐらいシナリオ通りにすべてが進んでいた。嘘だろって思うぐらい。誰も氷織屋先生の通り魔殺人が綿密に計画された殺人とは疑っていない。まさに完全犯罪が行われていることを感じていた。ただ、一つだけシナリオと違うことがあった。白犬の元気がなくなった。完全犯罪には少しの歪みはあってはならない。
白犬の記憶を、消さなくてはいけない。いや、白犬そのものを消さなくてはいけない。
21:46
Room A REC 石徹白 康一郎
【白犬がいなくなった日のこと】
石徹白康一郎です。
確か音楽の授業だったと思う。いつもは教室の後ろの方で座っている白犬がいなくなっていた。最初に気がついたのは宇佐見だったよね。慌てて教室を探したのだがいなかった。教室にいるときは首輪をつけて机に結んでおくルールにしていたはずなのに。誰かがつけ忘れていたんだよ。ホント、あれ誰? 今、謝ってください。
その日はクラスの全員で学校中を探したけども白犬は見つからなかった。このまま夜になったらどうなるか心配だった。正直にいうと、僕が何か白犬にイタズラをしたとか疑われるかもしれないと。前の日は僕の家に連れて行ってたから。なにもしてないって。
学校から少し離れたところにある公園の近くで、ベンチの方を見ると白犬らしき姿が見えた。僕はベンチに向かって走った。そこにいたのは白犬だったけど白犬は足に怪我をしていた。誰にやられたのかはわからないが、許せなかった。
白犬は何か怖い目に遭ったのか、丸くなって震えていた。だから僕は白犬を抱きしめた。白犬はかすかに震えていた。いったい何があったのか僕にはわからなかったけど、とにかくもう大丈夫と思いながら他の皆が来るまで優しく抱きしめていた。
僕が白犬を守ってあげなきゃ、この恐怖から救ってあげなきゃ、そう思った。だから僕たちが白犬を始末してあげないとかわいそうだ。
21:53
Room A REC 銅口 昭朝
【白犬の会議のこと】
銅口昭朝です。
逃がすか、食べるか。それが僕たちに与えられた二択だと学級委員が言った。
先生が亡くなった後、私たちのクラスの意思は学級委員を中心に決めることになっていた。クラスの皆は匿名で学級委員に提案をして、それを学級委員が整理して皆に展開する。匿名なので実際に方針案を考えている人は誰なのかはわからない。でも最終決断は皆で決める。だから、すべての責任は全員で持つことになっている。
そして今回の会議は、学級委員が最終的にこの案を提示した。
氷織屋先生が言っていた。完全犯罪は、完全な犯罪のことではない。証拠が見つからない犯罪のことだって。私たちの唯一の穴は白犬だ。いつか白犬の異変からなにかがこぼれてしまうかもしれない。
そもそも白犬と違って僕たちには未来がある。白犬に未来はない。卒業したら捨てられてしまう運命だ。私たちが責任をもって白犬の命をどうするかを考えなければならない。それは飼い主としての責任だ。
逃がすか、食べるか、どちらにするかは白熱した議論になった。逃がしたら結局どこかで見つかるかもしれない。証拠を残さずに消すには食べるのが一番だ。骨の処理方法なんていくらでもある。
意見は完全に二つに割れた。でも徐々に皆が冷静に自分たちの未来のことを考えた。白犬がかわいそうという気持ちはみんな持っていたはず。僕だってそう思った。でもそれは、養豚場の豚の話を聞いた時のかわいそうと同じだ。僕たちは矛盾している。
ただ、一つ分かっていることがある。かわいそうという感情は僕らの未来を明るく照らしてくれるわけじゃない。
元々白犬は私たちと同じじゃない。人と豚が違うように、私たちと白犬は違う。違ってしまっている。
最後にポツリと波江がつぶやいた言葉で皆の心が動いた。
「私、普通に卒業したい。来年普通に大学生活送りたい」
このセリフですべてが決まった。僕たちは普通の未来を守るために、世の中で行われている普通の手段をとることにした。
そして僕たちは解体班、調理班、保管班、運搬班、実行班に分けた。
僕は運搬班だった。
21:59
Room A REC 宇野山 天美
【調理班のこと】
宇野山天美です。私は調理班でした。
白犬を食べるために私たちは歴史の本を調べた。当然料理本にレシピなんて載っていないので、昔の歴史の本に調理方法が載ってるのではないかと思って調べた。AIにも聞いてみたが断られた。しかしネット上に何か掲載されているのではないかと調べた結果、とある国のサイトで調理方法が載っているのを見つけた。正直、気持ち悪くなった。でも、これを気持ち悪いというのであれば、毎日牛や豚を殺している人に失礼だ。白犬の命に真剣に向き合うために、私は真剣に向き合った。あれ? 私おかしなこと言った? なんちゃら構文みたい?
もう、それぐらい、真剣だったの。でも調べ始めて一時間もしたら、気持ち悪さは一切なくなった。人間というのはこうして感情をコントロールできるのかと驚いた。
私たちは生きるために白犬の命をいただく。いただくには敬意と愛情をもって向き合わなければならない。料理人というのはこんな気持ちなのか。命をいただくのだから、とりあえず焼けばいいか、みたいに適当な料理をするなんて失礼だ。奪った命に対して敬意を表して、最高の料理に仕上げなくてはいけない。レシピはバズるためじゃなくて、命を慈しむためにあったんだって思った。
え? 慈しむ。 い、つ、く、し、む。知らない? はい、そこ来月大学生なんだけど、大丈夫ー?
じゃあこんなのは?
料理は、命への感謝状。
拍手ありがとう!
そう、私たちは全員が白犬を口にすることを考えた。だから美味しく作らなければいけない。それが私たちのためにもなるんだし、白犬のためになるはずなんだから。白犬だって、美味しく食べてもらえるならよろこんでくれるはずだ。そして白犬の走る姿は私達の脳裏に、白犬の味は私達の舌の上に宝物のように残り続ける。
22:09
Room A REC 笹橋 偉青
【バーベキューのこと】
同じく調理班の笹橋偉青です。
えーっと、最初は何話すんだっけ。そうだ。肉屋の息子で解体班の鳴鬼が肉の保管を協力してくれた。ワラオバで使うからと言えば、親を説得するのは簡単だったらしい。とはいえバレてはいけないので解体は証拠か残らない場所でやったそうだ。僕はどこでやったのかも、どうやったのかも知らない。内蔵とか骨とかどうしたんだろう。俺達は切られた肉しか見てないからなぁ。肉屋だからなんとかなるのかな。
どーせ、聞いても教えてくれないんでしょ? わかった。聞かないよ。
調理班はいろいろな料理法を考えた結果、肉の臭みを抑えたスパイスを使って、直火で焼くのが一番美味しいだろうという結論に達した。そこで肉の旨味を増幅させるミックススパイスを手作りした。配合は僕のオリジナルで、結構自信作だった。
そして文化祭の打ち上げとして、クラスのみんなで足摩川に集まった。
さっき岩府が言ってくれたけど、文化祭のワラオバは最高に盛り上がった。担任が死んだのに担任の霊を登場させるなんて不謹慎という声もあったけど、僕らは逆に氷織屋先生のために登場してもらったという想いが強い。氷織屋先生も僕たちのクラスの一員なんだから。生きてるか死んでるかなんて大した問題じゃない。だって氷織屋先生は僕たちの中で生き続けるって言っていたし。学級委員は学内のパンフで「先生も天国で笑ってくれるはず」とインタビューに答えていた。さすが学級委員。
炭火に火をつけて、網の上に肉を置いた。
普通のバーベキューと何も変わらない。玉ねぎもトウモロコシもお肉も焼いて食べる。僕たちは白犬との楽しかった日々の思い出話をしながら、バーベキューを楽しんだ。
あ、当然ノンアルコールです! 言っとかないと。 あ、動画消すから大丈夫か。
そしてこの日、白犬との思い出は全て胃の中に消えた。
22:16
Room B REC
屍で飾られたカラオケパーティは既に十人を超えていた。マイクを持つ者、コップを持つ者、リモコンを持つ者、それぞれがカラオケを楽しんでいるようだった。ただし全員がまるで時が止まったかのように動かなかったが。
また静かにドアが開いた。中に入ってきた女性は生臭い匂いに眉をしかめた。その瞬間、首に痛みを感じて右手を伸ばすと、刃物のようなものに触れた。そして首からシャワーのように血が噴き出た。
そして自分の首が刃物に刺されていることに驚く間もなくその場に崩れ落ちた。人間は首の頸動脈を切られると、十数秒で気を失って失血死する。
女性の背後にいた黒い影は倒れた女性の足首を乱暴に掴み、血の海の中を王が君臨するかのごとく引きずった。ミラーボールの青い光が女性の顔を通過した。その表情は、悪魔に凝視されたかのような恐怖の顔をしていた。
22:22
Room A REC 清札 爽示
【白犬を連れて帰ったこと】
清札爽示です。
なんで俺がこの話するんだよ。井先だろ、これ。俺は本当に反対だったんだよ。皆、それだけは覚えておいて。
井先が白犬を家に連れて帰った次の日、井先が休み時間に俺のところに来て、こっそり耳元でささやいた。すげー気持ちよかったぜって。そして教室の後ろの椅子に座っている白犬を指さした。白犬はこちらの視線に気が付いて、目線を反らした。井先によると、もうすでに家に連れて帰った奴はほとんどが同じことをしたらしい。だからみんなが家に連れて帰ろうと取り合いになっていると聞いた。
俺は信じられなかった。お前ら全員クズだよって思った。でも井先は言った。「ペットと遊んで何が悪い? じゃあお前も今度一緒に来いよ」って。
氷織屋先生が白犬を最初に連れてきた日、俺はネグレクトという言葉を初めて知った。うちは両親ともに優しい。そんな親がいるなんて信じられなかった。
確かに高二あたりから白犬は学校で見かけないなとは思っていた。先生が橋の下で拾ったときには、すでに言葉がしゃべれなくなっていたそうだ。先生は浮浪者にしか見えない【かわいそう】にすら見放されている白犬を、なんとか助けたいと。
でも、先生は自分の学校の生徒を自宅へ連れ込むのはさすがに問題があるから、みんなのペットとして飼おうと言った。でも人間じゃなくて私たちのクラスのペットだ。だから名前からにんべんを取って白犬と呼ぶことにしようって。
俺、中学の頃に同じ部活でさ、チョコレートもらったことあるんだよ。別に好きってわけじゃなかったけど、気にはなってたんだ。
でも先生が人間じゃなくてペットなんだという言うんだから、それが正しいはずだって理解した。そして一週間後に井先の家に行った。その日の夜、僕は白犬に夢中になった。井先と一緒に。乃梨菜という彼女がいながら。ごめん。
白犬は喜んでいるように見えた。俺には。誰がなんと言おうと。その姿を見て豚のチョコチップちゃんの話を思い出した。
俺はできるだけ自分の家に白犬を連れて帰るようにした。そりゃお前らにイタズラされるのは嫌だったから。でも毎日は無理だし、独り占めするなって笹橋にも殴られた。
連れて帰れなかった日は、白犬はみんなのペットなんだってずっと自分に言い聞かせていた。あと、ごめん。白犬の動画を見ていた。もう消したよ、本当だって。動画撮るなって約束だったのは知ってたけど、つらかったんだよ俺。
22:23
Room A REC 木束地 麻凜
【白犬にやらせたこと】
木束地麻凜です。
白犬はなにかショックを受けて話すことができなくなったんじゃないかって先生が言ってじゃん。だから私たちは白犬のためを思って色々と体験させてあげたんだって。だって白犬がかわいそうじゃん。昔みたいにしゃべれるようになってほしいじゃん。
誰だっけ、日加利だったかな。オモチャを持ってきたの。違う? 佑珠伎だっけ? 私じゃないよ。佑珠伎だ! 思い出した。自分で使うのは怖いからって言ってたじゃん。でも白犬の反応ヤバかったよね。あんなになっちゃうなんて。日加利もあの後使ったっていってたけど。
正直、もっと刺激を与えたほうが白犬のためだったかもしれないよね。私だって白犬を食べる前に声を聴きたかったな。私なんか白犬とカラオケ行ったことあるんだよ。白犬結構歌美味かったんだから。ボカロ系だったかなぁ。マジで上手かった。白犬、なんであんなになっちゃったんだろうね。親ガチャ失敗ってやつか。かわいそう。
そういえば誰だっけ。カップルで寝取られプレイしたとか言ってた変態いたよね。はい、この中にいるんじゃないの? 手を挙げてー? 清札くーん? もう出て行った? 私、乃梨菜から色々と聞いてますけどー?
22:34
Room A REC 百津 仁智
【人の殺し方】
百津です。
僕は特訓班に任命された。
まず特訓班は人の殺し方を調べることから始めた。人の殺し方なんて調べるのは簡単だ。インターネットは悪魔の仕組みであるというのは、ある意味正しい。決して普通に暮らしていては知ることができない知識が手元で入手することができる。
静脈の中で一番皮膚が薄い場所
殺害後に声を上げられない方法
意識を失うまでの時間
血の付いた刃物のぬぐい方
僕らは得た知識をもって人間を殺害する方法を教え込んだ。毎日、毎日。以前やっていたお遊びはすべてやめて。白犬は着実に上達していった。正面にいる相手に、3秒で背後に回って頸動脈を切る動作をすることができるようになった。
心神耗弱な人間が犯罪を犯しても、無罪となる。ということは、心神耗弱な人間を殺害犯に仕立て上げることができれば、たとえ捕まったとしても無罪になる。つまり、それは完全犯罪だ。しかも喋ることもできないし、文字を書けなくなつむているなら伝える術がない。
それが氷織屋先生が認めた僕たちの方法だ。
一か月の特訓を経て、白犬は簡単に人間を殺害できるようなスキルを身に着けた。そして僕たちは白犬を試すことにした。
誰で試したかについてはここで話すつもりはない。ただ、橋の下が少しだけきれいになったはずだ。
あと知ったのは、浮浪者が釣りの途中で川に落ちてもニュースにならないことだ。
22:45
Room B REC
部屋の中央には、魚がザルにまとめて積まれているかのように、屍が山のように積まれていた。そして屍の山をゆっくりとミラーボールの赤や紫の光が照らしていた。それぞれの屍の目は、まるで魚のように開いているものもあれば、閉じているものもある。屍から流れ出ている血は、床一面を覆いつくしている。まるでカラオケを楽しんでいるかのようにソファに座っているように配置された死体は、彼らには選べなかった幸せな未来の空間を作り上げていた。
突然、ディスプレイが点灯し、音楽が流れ始めた。その曲を歌う人はどこにもいない。イントロが終わり、歌が始まるべきとこになっても誰の声も聞こえない。
曲が流れる中、かすかに屍の山からうめき声が聞こえた。それは消えゆく命が最後の思いとして発している声だった。黒い影はソファの死体に持たせていたマイクを奪い取ると、うめき声をあげている顔の横にマイクを近づけた。言葉にもならない声は、マイクを通してエコーのかかった音で部屋に響き渡った。
何を発していたのかは分からないが、それが歌ではなく、その人の人生の最期の言葉であったことは確かだ。曲が終わったとき、画面には採点が表示され始め、62点が出た。まるで、その声を発した人の人生が採点されたかのように。
黒い影は立ち上がると、照明のスイッチに手を伸ばした。ミラーボールの照明は消え、部屋は真っ暗になった。部屋の中で光っているのはマイクのLEDやテレビの下に設置されている装置の光だけだった。
部屋は再び静寂が支配していた。
ドアがゆっくりと開き、黒い影は何かを求めるように部屋の外へ出て行った。
22:50
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