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【創作】地球とグルグルバット #下書き再生工場

「今回の平和への動きを見ていると、ガイア理論を信じたくなるね」
 珈琲を片手にオフィスに入ってきた同僚が、朝の挨拶もそこそこに話しかけてきた。

 第二次世界大戦後、政治的・経済的イデオロギーから対立を深め、核や宇宙の開発競争を通じ覇権を争ってきたA国とR国。戦闘行為はないが、その激しい対立は「冷たい戦争」と称され、世界中を対立の渦に巻き込んでいった。
 そしてA国に隣接しながらR国陣営に属していたQ国に、核ミサイルを配備可能なミサイル基地建設計画が動いていることが暴かれたことで、A国陣営がQ国近海の会場封鎖を行い、世界中の誰もが「第三次世界大戦の勃発」を覚悟した。
 不測の事態により一人でも犠牲者が出れば報復合戦から一気に世界大戦に突入することが予想できた。

「お前らだけでやってくれ。負けた方が引けばいい」
雑に言えばこういう提案である、「両国トップによる競技の結果を踏まえ、負けた陣営の方から戦闘回避・核兵器廃絶を進める」とういう提案をA国陣営のF国とR国陣営のC国が共同声明として発表し、その競技としてN国の伝統遊戯とされる「グルグルバット」が提案された際、冷笑ではなく好意を持って世界のメディアと人間に迎え入れられた。
 両陣営の参謀的存在であるF国とC国を結びつけたのは「戦争になれば美味いものが食えなくなる」という危機感だったと伝えられている。

 永世中立国で開催されることになったA国R国の両大統領による「グルグルバット」、念のため説明すれば、地面に立てたバットに頭を着けた者がバットの周囲をグルグルと数回廻った後にゴールに向かうという競技である。日本のお座敷芸が発祥ともTV番組の罰ゲームが発祥とも言われているが定かではない。
 今回はバットから50m先にある「バーボン」か「ウォッカ」を飲み干した者が勝者とされた。両国を代表する二人の戦いは生中継で世界に配信された。

 威風堂々とした二人の男は、笑顔はないもののどちらからともなく握手を交わし、ゆったりとした所作でバットを受け取ると地面に立て腰を曲げバットに頭を着けた。
「レディ go!」
審判の声を受け、二人の体がグルグルと廻りだす。早いとは言えないがしっかりとした足取りで一回、二回、三回と廻り、先に五回転したR国大統領がバットから頭を離し走りだした。伝統的に体操やバレエが盛んな国だけに回転には強いのかもしれない。R国陣営の国民から大きな歓声が上がり、それが悲鳴に変わる。R国大統領の足はもつれゴールとは見当違いの方向に巨体をよろめかせた。
 遅れてきたA国大統領がふらつきながら横を通り抜けた時、A国陣営の国民から歓声があがった。しかしその速度は酔っ払いのような千鳥足で、決して早くはない。

 両大統領の魂と尊厳、両国の威信を背負った短く長い戦いに決着の時が来た。

 先にゴールに辿りついた大統領がグラスを手に、咆哮をあげる。後は飲み干すだけである。
 世界中が息を飲んだ。
 しかし大統領はグラスを見つめたまま動かなかった。いやグラスの向こうにいる、もう一人の大統領を見つめていたのかもしれない。
 国のトップとして絶対的な権力と絶望的な孤独を理解し合える唯一の存在。お互いに平和を目指して戦いに挑んだ。倒れ、傷つきながら這い上がりゴールを目指し続けた戦友。
 そこには勝者も敗者もいなかった。

 二人の大統領はくしゃくしゃの笑顔で涙を流し、抱き合い、お互いを称えた。
 そして、グラスを手に腕を交差しながらバーボンとウォッカを同時に飲み干した。

 冷戦は終わり、世界に平和が訪れた。

「こんな奇跡が起きたのは、地球(ガイア)が世界を守るために『大いなる意志』を示したとしか考えられないよ」
 俺は珈琲を飲みながら応えた。
「愛は地球を救うならぬ、地球(ガイア)とグルグルバットが世界を救うか。まぁ馬鹿らしい似非科学だけど、信じるのは君の自由さ。母なる地球にバットボーイズが叱られて兄弟喧嘩を止めたフェアリーテイル、嫌いじゃいよ」
 今朝の珈琲はいつもより、ちょっぴり甘さを感じた。
(おしまい)

本田すのうさんの企画に参加です。

#下書き再生工場
 お題は「蒔倉 みのむしさん」の『地球とグルグルバット』ですが、再挑戦でした。

#何を書いても最後は宣伝
フェアリーテイルと言えば、こちら。


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