【創作】青い雨 #シロクマ文芸部
青い雨を感じたのは2023年6月23日の午前5時過ぎのこと。梅雨の晴れ間、青空の下で猫の散歩をしていた僕の携帯が鳴った。未登録の番号だったが即受電した。
「福島太郎さんの携帯でよろしいでしょうか。東北病院病棟の木村と申します。これからお母さんの面会をしていただくことができます」
「ありがとうございます、直ぐに向かいます」
空を見上げた。百日紅の枝葉の先に見える爽やかな空から、青い雨がザンザンと降り始めたように感じた。
「これからお母さんの面会をしていただくことができます」
意味を尋ねるほど若くはない。覚悟もしてした。ただ、入院して3日目という事実に少し驚き、猫を抱えて家に戻りながら姉に電話をした。
コール音が虚しく響くだけだった。
『病院に来てください。電話をください』
LINEを送信し、財布と車の鍵だけを持って再び外に出た。
青い雨が身体を叩きつけてくるようだった。
夜間救急外来から病院に入り、迷路のような通路を迷わず進みナースステーションに顔を出す。
看護師と何を話したか覚えてはいない。
病室の母は静かに眠り続けているように見えた。酸素吸入器と心電図が動いている音で「自分は間に合った」と安堵し、姉からの折り返しが無い不安に包まれた。
時間が進むのが遅かった。
二年が過ぎた。
猫二匹と父との生活は静かに壊れながら続いている。
寂しいとは思わない、人でいる限り必然である、息子としてできる限りのことをした、と言い聞かせている。
晴れた日も雨の日も、起きて食べて動いて眠る。繰り返しながら生きていく。いつか自分が逝くその日まで生きていく。
父、猫たち、という順番を守ることが小さな目標だ。姉とはどちらが先でも構わないと思いながらも、見送って欲しい気持ちが少し上回る気がする。
寂しいとも悲しいとも思わないけれど、ふとした時に青い雨が降る。
あの朝と同じように濡れたままでいい。ビシャビシャでヨレヨレでクタクタな身体で、それでも生きていく。
雨は止むし、また降ることもある。
それを受け入れるくらいには齢を重ねた。
母に尋ねたい。
「幸せでしたか」
母に伝えたい。
「僕は幸せな人生でした」
永遠の青空の下で再会したその時に。
(おしまい)
#シロクマ文芸部
#創作
#何を書いても最後は宣伝
母と息子が命と向き合う姿を描いた作品が、こちらです。
Kindle版は「みくじさん」の「水の王冠」も収録されています。unlimitedに対応です。
いいなと思ったら応援しよう!
サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。
また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。
皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。