【サボテン君とキノコ君の物語】第31話 変わらなくていい朝
🌵これまでの物語の概要(第1話〜第30話)
砂漠のはしで、つい「どうせぼくなんて」と思ってしまうサボテン君。
迷い込んだキノコ君たちと出会い、心の色や“青の日”を知っていく。
頑張れない日も、立ち止まる日も、責めなくていい――そう気づいたとき世界の見え方が少し変わる。
感謝マンダラと心の取扱説明書で「戻っていい場所=基地」と合図を作り、やっと自分を守れるようになった。
けれど、これは終わりじゃない。“人生のシナリオ”の扉が、今ゆっくり開きはじめる。
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第31話 変わらなくていい朝
朝の砂漠は、いつも通りでした。
同じ空。
同じ砂。
同じ風。
なのに――
サボテン君の胸の中だけ、少し違いました。
「……今日、何もしなくていい気がする。」
そう言った自分に、サボテン君はびっくりします。
前なら、こう続けていたはずだから。
「でも、何もしないとダメになる」
「置いていかれる」
「ちゃんとしないと、もっと嫌われる」
そういう声が、いつも背中を押していました。
でも今日は、違う。
“押す声”が小さかった。
代わりに、胸の奥で、静かな声が言います。
――疲れてる。
――守りたい。
――今日は、戻っていい。
サボテン君は、胸に手を当てました。
「ただいま。」
基地の合図。
あの一言を言うだけで、呼吸が深くなるのが分かります。
そのとき、キノコ君が、ゆっくり近づいてきました。
子キノコ君は、その後ろでぴょこぴょこ。
「おはよう。」
キノコ君が言います。
サボテン君は少しだけ笑って、答えました。
「……おはよう。」
「今日は、進めない日かも。」
言った瞬間、また胸がきゅっとします。
――進めない自分を、言葉にしたら、
――嫌われるんじゃないか。
そんな昔からの怖さが、首をもたげます。
キノコ君は、すぐに否定しませんでした。
ただ、砂に指で小さな丸を描いて、言います。
「進めない日って、さ。」
「“止まってる”んじゃなくて、
“心が守ってる”日だと思う。」
その言葉に、サボテン君は目を瞬きました。
「守ってる……?」
「うん。」
キノコ君はうなずきます。
「サボテン君って、ずっと、守ってきたんだと思う。」
「失敗しないように。」
「迷惑かけないように。」
「期待されないように。」
「傷つかないように。」
サボテン君は、胸の奥がちくっとしました。
――そう。
ぼくは、守ってきた。
でもそれは、
“弱いから”じゃなくて、
“怖かったから”で。
怖かったのは、きっと――
誰かに嫌われること。
見捨てられること。
「価値がない」と言われること。
子キノコ君が、ぽそっと言いました。
「ぼくね。」
「サボテン君が止まるとき、
“だめ”って思わないよ。」
「だって、止まっても、サボテン君だもん。」
その言葉に、サボテン君の目が少し熱くなりました。
――止まっても、ぼく。
――進めなくても、ぼく。
フウリがふわっと風を送り、
ポロロが淡い光で応えるようにきらりと光ります。
そこへ、シン先生が現れました。
いつもの穏やかな顔。
「ええ朝やな。」
そして、サボテン君を見て言います。
「今日はな、
“進む日”やなくて、
“読む日”にしよ。」
「読む日?」
サボテン君が聞くと、
シン先生は砂の上に、指で一枚の紙みたいな形を描きました。
「人生にはな、
“見えへん台本”があるんや。」
「子どもの頃に、
生きるために作った台本。」
「しんどい時ほど、
その台本通りに動いてまう。」
サボテン君は、息をのみました。
――台本。
――見えない決まりごと。
それって、
いつもぼくが勝手に背負ってる
“ちゃんとしなきゃ”の正体かもしれない。
「でも先生。」
サボテン君は小さな声で言いました。
「台本って…変えるの?」
シン先生は、首を横に振ります。
「変えへん。」
「今日は変えへんで。」
「ただ、読む。」
「“あぁ、そう書いてあったんか”って気づく。」
「それだけで、心はちょっと落ち着く。」
サボテン君は、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じました。
――変わらなくていい。
――直さなくていい。
――責めなくていい。
今日は、読む日。
ただ知る日。
ただ気づく日。
サボテン君は、そっと頷きました。
「……ぼく、読む。」
その瞬間、砂漠の風が少しだけ優しくなった気がしました。
そして、ポロロが、
青でも橙でもない、
静かな中間色に光りました。
それはまるで、
次のページが開く合図みたいに。
――つづく。
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「どうせぼくなんて…」
そう思いながら、毎日ちゃんと頑張っている人にこそ、
知ってほしい場所があります。
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