ロボットなんて大っ嫌い!
お嫌いですか、ロボットは?#20 トップエリートの凋落
――いらっしゃいませ。
マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。
――おや、早くも手には扇子ですか?
ここのところ暑くない? 電車の中も暑くて、暑くて。暦の上では「穀雨(こくう)」も過ぎて、昔なら田植えの準備を始めるころのはずだよね。今年はサクラの開花も早かったし、季節が前倒しだから、夏が来るのは例年よりも早いかもしれないね。
――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。今夜のおすすめは「鴨肉ロースト・ベリーソース」か、いいね。カモねぇ、カモと言えば思い出すよ。カモのマークの「ダックス運輸」の案件を。路線トラック会社の典型例だったって聞かされたなぁ……………。
日本には大小合わせ、全国に6万社以上の運送会社がある。軽トラック1台と携帯電話を手に、一人親方で荷物を運ぶ個人事業主から、自社だけで5万台のトラックを持つ最大手の運送会社までさまざま。この10年ほどは事業者数こそ横ばいだが、1980年代末からの規制緩和を受け、30年間で4万社から1.5倍へと拡大を続けた業界でもある。
カモのマークの「ダックス運輸」は大阪・船場に本社を置き、業界でも10指に入る、取扱貨物量で8位に付ける大手運送会社だ。創業は1936年で、52年に神戸・大阪~東京間に日本初の定期路線便を運行させ、長距離路線運送業界の草分けと言っていい業界の老舗だ。
長距離運送と一言で言うが、貨物自動車運送事業法第2条6項に定められた「特別積合せ貨物運送(特積み)」が許可された会社は、全国に280社ほど。6万社の中でも野球で言えば1軍、サッカーならJ1に相当する、業界ピラミッドの頂点に立つエリート会社だった。
「だった」というのは理由がある。規制に守られた時代の特積み許可は、申請したってそうそう下りない、いわば既得権益。特積み以外を「一般貨物運送事業者(一般)」と呼ぶが、今や規制緩和で誰もが特積み並み、特積みのような長距離輸送が可能になったからだ。
しかも10年前までは一般への新規参入も多く、運賃競争でかつての特積みの価値は、荷主との交渉では役に立たず、会社と従業員のささやかなプライド程度に下がっていた。
ダックスの大星渉社長は、その状況を苦々しく思っていた。ただ指をくわえていただけではない。主要都市に置いた支店や傘下の営業所などでの荷物の積み降ろし業務を自動化し、労働集約型の労働形態から脱皮し、業務の効率化とコストダウンを図ろうと考えていた。
具体的には、各拠点でのトラックへの荷物の積み下ろし、積み替え、倉庫への一時保管の作業を、物流の自動化機器やロボットの導入で自動化できないかと考えた。2003年だか04年ごろの話だ。
ヤマト運輸や佐川急便、日本郵便などの最大手の企業では、一部で導入が始まり、作業の一部ではアーム型の産業用ロボットの導入も始まっていた。業界6位以下の大手でも、導入の検討が始まっていた。大星社長も「バスに乗り遅れるな」と部下にハッパをかけた。
当時のウチの会社の先輩にも、大星社長から声が掛かった。当時のSIerは物流現場なんて、ほとんど手つかずの業界だったけど、善は急げと現場を視察した。別の先輩は参考として、最大手の一角で、業界4位の東濃エクスプレスの導入現場も視察させてもらった。
仕事の流れ、具合的な作業の流れは、最大手も大手も変わらない。集荷した荷物を、東京や大阪などの行き先別に仕分け、行き先ごとにまとめられた荷物を長距離輸送の路線便に積み替える。路線便で支店に到着した荷物は、例えば南港支店なら、市内中心部の船場、町工場の多い東大阪、郊外の枚方などの営業所行きの便に積み替え、営業所から配達される。
規模の大小に関わらず、作業の流れは同じ。ただし、ダックスの現場を見た先輩と、東濃エクスプレスの現場を見た別の先輩では、見た風景が全く違った。最大手が物流の自動化機器やロボットを導入して、どんどん効率化を進められるのに対し、中堅はもちろん大手でもなかなか自動化を進められずにいた。最大手と大手では違う点が1つあった。荷物の形状だ。
最大手のヤマト運輸や佐川急便では、書類サイズのビジネスレターや宅配便、大きな荷物と言っても、せいぜい電子レンジぐらいの大きさの段ボールサイズがメイン。中には規格外のサイズの荷物もあるが、まあ例外だね。荷物は車輪の付いたコンテナボックスに収められ、荷降ろしや積み替え作業も楽なんだ。女性や高齢者のパート従業員でもこなせた。
ところが「最」が外れた大手になると、形状が変わる。コンテナボックスに収まらない荷物の比率が高くなる。中堅クラスでは、そもそもコンテナボックスさえ使っていない。表現は雑だが、運送業界で「ガラ物」と呼ばれる「大きくてかさばる」「小さくて重い」などの規格外の荷物が多い。ドラム缶や鋼材、袋物、中には自転車なんてのもまれに見かけた。
ここから先は
よろしければ、ぜひサポートを。今後の励みになります。
