#41 寝具を洗うことと、忘れること
夜中に、すごく嫌な夢を見た。
目がさめた瞬間、
心臓がまだ不規則に拍動していて、
喉の奥がカラカラに乾いている。
夢の内容は霧のように
消えてしまったけれど、
あとに残ったのは、
どうしようもなく退屈で、
どうしようもなく
汚らわしい感触だけだった。
シーツの冷たさが、
私の身体を突き抜けていく。
私は布団から抜け出し、
家中を歩きまわる。
蛇口をひねり、水で顔を洗う。
鏡のなかのわたしは、
昨日と同じ顔をしているのに、
どこか知らない他人のように見える。
こういうときは、
とにかく洗わなければいけない。
身体のなかの淀んだ空気を
入れ替えるように、
寝具をすべて剥ぎとるのだ。
枕カバーをはずし、
シーツをひっぺがし、
パジャマを脱ぎ捨てる。
それらを腕に抱えると、
ずしりと重たい。
昨夜の私がそこに染みついている。
洗うということは、
忘れるということだ。
私はそれを洗濯機に放り込み、
洗剤を注ぐ。
静かな家の中に、
水の流れる音だけが響く。
洗濯が終わると、
濡れた布たちをひとつひとつ
丁寧に広げて、ベランダへ干す。
枕カバー、シーツ、パジャマ。
一枚ずつ、空へかざすように。
風に揺れる湿った布を見ていると、
少しだけ胸の奥が軽くなる。
太陽の光が、まっさらな布の
繊維の隙間にまで入り込んでいく。
そうして、昨日までの、
あるいは夢の中の、
どろりとした時間が、
光によって透明に洗われていくのだ。
太陽がじりじりと
布を乾かしていくのを、
私は部屋の中でぼんやりと見ている。
空は青くて、風は穏やかだ。
取り込んだばかりの寝具は、
あたたかく、太陽のにおいがする。
新しいシーツをかけ、
枕にカバーを被せ、パジャマに袖を通す。
すべてが整った布団の上で、
私はふう、と息をつく。
これで大丈夫。
今日からまた、
わたしはわたしのままでいられる。
夜が来れば、
このあたたかい布にくるまって、
今度はきっと、どこにも繋がっていない、
ただの無色の夢を見るだろう。
そんなふうに思えることが、
すこしだけ救いだった。
今日も最後まで読んでくださって
本当にありがとうございます。
怖い夢を見たとき、ぜひお試しくださいね。
また会いましょう。では。
