673.あの生活に、戻りたいと思えなかった。
朝、目が覚めた瞬間に思う。
今日こそ、決めようって。
布団の中で、
天井を見ながら、
もう何度目かわからない問いが浮かぶ。
本気で、やるの?
成功する保証なんてない。
むしろ、
うまくいく確率のほうが低いって、
どこかでわかってる。
でも。
給料は安定している。
でも、その毎日は綱渡りみたいだった。
生活は回る。
肩書きもある。
周りから見れば、ちゃんとしてる。
だけど。
このままずっと、
あの生活に戻る未来を、
想像できなかった。
育児と家事が加わった毎日を、
また必死に回し続ける自分を、
思い描けなかった。
今のままでも、なんとか生きてはいける。
崩れはしない。
でも。
このまま何年も続けたら、
心が、少しずつすり減っていく気がした。
やりたいことを、
いちばん若い“今”やらなかった後悔が、
静かに積もっていく気もしていた。
それでも。
勝算が薄いほうを、
あえて選ぶって、
そんな覚悟、いる?
できる?
安定を手放してまで、
リスクを背負ってまで、
今じゃなくてもいいかもしれない未来に、
賭けるの?
ノートを開いて、
メリットとデメリットを書く。
書けば書くほど、
どっちも正しく見えてくる。
今のままの安心と、
まだ見ぬ未来。
どっちも、手放したくない。
やらなかった後悔より、
やってうまくいかなかった現実のほうが、怖かった。
その時はまだ。
だから今日も、
決められなかった。
相手を握ったまま、
本当はやってみたかった人生も、手放せなかった。
そんな自分に、
ちゃんと気づいているのに。

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