営業利益3.5倍でも株価6.5%安――IHI決算、400億円を除いた「実力」を読む
8月5日、IHIが2027年3月期の第1四半期決算を発表しました。
売上収益は前年同期比10.9%増の3,745億円、営業利益は同250.5%増の732億円。通期の営業利益予想も2,400億円から2,500億円へ上方修正されました。
数字だけを見れば、文句のない好決算です。
ところが株価は、前日比188円安の2,691.5円で取引を終了。下落率は6.53%に達し、出来高も約4,902万株まで膨らみました。
なぜ、上方修正を発表したIHIが売られたのでしょうか。
今回の決算は、表面上の営業利益だけでなく、不動産売却益を除いた本業の利益、受注、キャッシュフロー、そして市場が期待していた水準を分けて考える必要があります。
営業利益732億円のうち、400億円は不動産売却益
まず確認しておきたいのが、営業利益の中身です。
IHIの第1四半期営業利益は732億円でしたが、そのうち400億円は東京都江東区の不動産譲渡による利益です。
不動産売却益を除いた営業利益は331億円。前年同期の208億円から123億円増えており、本業ベースでも約59%の増益となりました。
つまり、今回の決算を「不動産を売っただけ」と評価するのは正確ではありません。
本業も改善しています。
利益を押し上げた主な要因は、次の4つです。
民間向け航空エンジンの需要拡大
原子力事業の需要拡大
国内カーボンソリューション・原動機のライフサイクルビジネス拡大
車両過給機の販売価格改善とコスト削減
特に航空・宇宙・防衛では、売上収益が前年同期比21.0%増の1,547億円、営業利益が4.4%増の291億円となりました。原子力も、前期に受注した案件の工事が進み、下期に向けて売上がさらに拡大する見通しです。
本業は強いが、通期に対する進捗は「圧倒的」ではない
IHIは通期の営業利益予想を2,400億円から2,500億円へ引き上げました。
しかし、その内訳を見ると、
不動産売却を除く営業利益:1,500億円から1,570億円へ70億円増額
不動産売却益:900億円から930億円へ30億円増額
となっています。
第1四半期の本業営業利益331億円を、通期予想1,570億円と比べると、進捗率は約21%です。
一方、不動産売却益を含む営業利益732億円では、通期2,500億円に対して約29%まで進んでいます。
表面上は高い進捗ですが、本業だけを見ると「会社計画を大幅に上回る」と断定できるほどではありません。
上方修正も営業利益で100億円、率にして約4%です。市場が航空、防衛、原子力のさらなる上振れを期待していた場合、今回の修正幅は物足りなく見えた可能性があります。
注意点は、受注高15%減とキャッシュフロー
もう一つの確認点が受注です。
第1四半期の受注高は3,607億円で、前年同期比15.0%減少しました。
航空・宇宙・防衛の受注は前年同期比0.8%増と堅調でしたが、資源・エネルギー・環境や社会基盤の減少が全体を押し下げています。会社側は、防衛について下期に航空エンジンやロケットモーターの受注・売上が拡大すると説明しています。
したがって、受注減だけで成長鈍化と判断するのは早いものの、次の四半期以降に本当に回復するかは確認が必要です。
キャッシュフローも利益ほど強くありません。
営業キャッシュフローは432億円の赤字、フリーキャッシュフローは196億円の赤字でした。主因は棚卸資産の増加と税金支出です。不動産売却による収入があったため、投資キャッシュフローは236億円のプラスとなりました。
成長に備えて在庫や生産能力を積み増す局面では、運転資本が増えることがあります。
ただし、今後も利益が増えているのに営業キャッシュフローが改善しなければ、利益の質を慎重に見る必要があります。
なぜ「好決算でも売られた」のか
今回の株価下落について、会社資料だけから原因を一つに確定することはできません。
ただし、数字と値動きを合わせると、市場が見ていた可能性が高いのは次の点です。
第一に、営業利益732億円のうち400億円が不動産売却益だったこと。
第二に、本業利益は増えているものの、通期予想に対する進捗が約21%にとどまったこと。
第三に、営業利益の上方修正幅が100億円と比較的小さかったこと。
第四に、受注高が15%減少し、営業キャッシュフローも赤字だったことです。
IHI株は決算発表前の午前中に2,965円まで上昇しましたが、13時の決算発表後に売りが強まり、安値2,658円まで下落しました。終値は2,691.5円でした。
これは、決算が悪かったというより、好業績をある程度期待していた株価に対し、上振れの大きさが期待へ届かなかったと見るのが自然です。
Catalyst Radarが次に追う数字
今回の決算で、IHIの成長シナリオが崩れたとは考えにくいです。
民間航空エンジン、原子力、防衛という成長軸は継続しています。会社は民間エンジンの事業環境を踏まえ、航空・宇宙・防衛の通期売上収益を100億円、営業利益を70億円上方修正しました。
次の決算では、特に以下を確認します。
民間航空エンジン
スペアパーツや整備需要の拡大が続き、利益率まで改善するか。
防衛
下期に予定される航空エンジン、装備品、ロケットモーターの受注・売上が計画どおり立ち上がるか。
原子力
工事進捗による売上拡大が、継続的な利益とキャッシュフローへつながるか。
キャッシュフロー
増加した棚卸資産が売上へ変わり、営業キャッシュフローが改善するか。
不動産を除いた営業利益
通期1,570億円に対する進捗が、第2四半期以降に加速するか。
まとめ
IHIの第1四半期決算は、表面上の利益だけを見れば非常に強い内容でした。
ただし、営業利益732億円のうち400億円は不動産売却益です。
それでも本業営業利益は208億円から331億円へ増えており、航空エンジン、原子力、車両過給機を中心に、事業そのものは改善しています。
今回の株価下落は、業績悪化というよりも、期待が先行していたところへ、上方修正幅、受注、キャッシュフローが十分な追加サプライズにならなかった可能性があります。
Catalyst Radarとしての判定は、
業績方向は強い。だが、一時利益を除いた実力とキャッシュ創出力の確認が必要
です。
IHIを評価するうえで次に重要なのは、今回の732億円ではありません。
不動産売却益を除いた営業利益がどこまで伸びるのか。そして、防衛・航空・原子力の需要が、受注、売上、利益、営業キャッシュフローの順に数字へ表れるかです。

