巣立ち
― 親元を離れた十五歳 ―
第一章 受験から逃げた十五歳
十五歳。その春、私は親元を離れた。
鳥が巣立つように、自分の力だけで生きていく人生が始まった。
あれから五十五年。
振り返れば、私の人生は、あの日から始まっていた。
私は昭和三十年に生まれた。
私が中学校を卒業する頃には、「金の卵」と呼ばれた集団就職の時代は、少しずつ終わりを迎えようとしていた。それでも私は十五歳で中学校を卒業し、親元を離れて東京へ就職した。
職人の世界では、中学校卒業で働くことは珍しいことではなかった。しかし、世の中は確実に変わり始めていた。高校へ進学することが当たり前になり、大学へ進む人も増えていた時代である。
私は勉強が嫌いだったわけではない。
ただ、高校受験という壁に挑む前に、自分から逃げてしまった。
「働けばいい。」
当時は、それで十分だと思っていた。
十五歳の私は、その選択が何十年もの間、心に残り続けるとは思ってもいなかった。
人生は、一つの選択で決まるものではない。
それでも、自分で挑戦する前に逃げたという事実だけは、心の奥にずっと残り続けた。
「あの時、高校を受験していたら、私の人生は違っていたのだろうか。」
その問いを、私は何度も自分に投げかけた。
あの時は逃げた。
でも、その逃げた自分が、一生許せなかった。
