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【📕小説:四字熟語】③ 「破顔一笑」

第三話「破顔一笑」



 そのカードは、明らかに今までとは違っていた。
 背景が金色に光り、手に取るとふわっと温かい風が吹いたような感覚。

 「“破顔一笑”……?」
 ノーマルドが首を傾げる。
 「“顔をほころばせて笑うこと”って意味だよね。なんか、前の二つより優しい感じする」

 「じゃあ、今日はナイスンからスタートしよか」
 俺(ハードン)が提案し、ナイスンがサイコロを手にした。



◆ナイスンのターン「破顔一笑」

 サイコロの目は「1」。カードは――まさかの再び「破顔一笑」。

 ナイスンは苦笑して言った。
 「さっき引いたやつだよね。なんか、これ……僕に必要なのかな」

 彼は少し黙ってから、語りだした。

 「中学生のとき、いじめってほどじゃないけど、ずっと無視されてた時期があってさ。自分がどこにも必要とされてない感じがして……毎日、笑えなかった」

 俺とノーマルドは、言葉を飲み込んだ。ナイスンがそんな過去を語るなんて、初めてだった。

 「でもある日、教室でひとりぼっちだった僕に、先生が“今日の放課後、ちょっと手伝ってくれない?”って声をかけてくれてさ。雑用だけど……なんかそれが嬉しくて。何ヶ月ぶりかに自然と笑ったんだよね」

 ナイスンは、ふっと微笑んだ。
 「そのときの笑顔を、“破顔一笑”って言葉で思い出したんだ」

 俺たちも、つられて笑っていた。
 温かい笑いだった。



◆ノーマルドのターン「一石二鳥」

 「俺の番だな」ノーマルドが振ったサイコロは「5」。引いたカードは、「一石二鳥」。

 「これ、ついこの前の話なんだけどさ」

 「就活の面接対策で“人前で話す練習”したくて、図書館でボランティア朗読に参加したんだよ」
 「そしたら、偶然、保育園のときの先生がいてさ。『あら、○○くん? 立派になったわねぇ』って」

 「なんかその一言が妙に自信になってさ。その後の面接、めっちゃ上手くいった」

 「目的は“練習”だったのに、思わぬ“応援”ももらって。これぞ一石二鳥ってやつ?」

 ハードンがぽんっと手を打った。
 「お前、実は持ってるタイプやな」



◆ハードンのターン「危機一髪」

 最後は俺だ。出た目は「6」。カードは――「危機一髪」。

 「うわ……これは俺向きのやつやな」

 「去年の修学旅行。夜中、友達とコソコソ抜け出してコンビニ行って、戻ってくる途中に先生と遭遇」

 「終わった……って思ったその瞬間、俺の靴が階段から落ちて、先生が『あれ、これ誰の?』って追いかけてる隙に、全員逃げ切った」

 「いや、靴投げて命拾いとか、ギリギリやん」
 「それは“危機一髪”というより、“靴一髪”やな……」

 3人で笑い合った。その瞬間、部屋の空気が、すごく軽くなった。



◆あのボードが光った

 ふと見ると、ゲームボードが淡く光っていた。
 「えっ……なんか、動いてる?」

 中央のマスに、文字が浮かび上がる。

 >「第四話:背水之陣」

 「うわ、次はガチっぽいぞ……」
 「背水の陣って、逃げ道を断って戦うってことだよね……」

 ノーマルドがつぶやく。
 「ちょっと怖いけど……でも、なんかやってよかった気がするよ、このゲーム」

 ナイスンもにっこりと笑って言った。
 「人生って、案外“言葉”で変わるのかもね」

 俺はふと、あの骨董屋のじいさんを思い出した。
 あの目が、今もどこかで見てるような気がした。



つづく

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