見出し画像

世界の面白い言語集 39 3500年間、誰も読めない。古代クレタ島から届いた「解読不能」の挑戦状~線文字A(Linear A)

前回はネット上で自然発生した「ヴィオッサ」という現代の奇跡に触れましたが、今回は一気に3500年前の古代へとタイムスリップします。

舞台はギリシャ・クレタ島。ミノタウルスの迷宮伝説で知られる高度な「ミノア文明」が遺した、人類史上最強の宿題。それが「線文字A」です。



歴史の闇の中に、燦然と輝く「読めない文字」があります。

1900年、考古学者アーサー・エヴァンズがクレタ島で発見した粘土板には、奇妙な線で描かれた文字が並んでいました。

引用

後の「線文字B」がギリシャ語であると解読された一方で、この線文字A(Linear A)は、発見から120年以上経った今もなお、一単語として意味が確定していません。

1. 高度な文明、沈黙の記録。ミノア王国の繁栄を支えた「未知の言語」

紀元前18世紀頃、クレタ島にはヨーロッパ最古とも言われる高度な「ミノア文明」が栄えていました。

引用
  • 彼らは巨大な宮殿を建て、複雑な交易網を持っていました。その経営・管理、あるいは神への祈りのために使われていたのが線文字Aです。

引用
  • しかし、紀元前15世紀頃、火山噴火や他民族の侵入によって文明は突如として崩壊。文字の読み方を知る人々は、歴史の表舞台から完全に消え去ってしまいました。

2. 「読めるのに、意味がわからない」――線文字Bとの残酷な対比

線文字Aの最大のもどかしさは、「音の見当はつくのに、何語なのかさっぱり分からない」という点にあります。

実は、後継の文明が使った「線文字B」は、この線文字Aを流用して作られました。そのため、文字の「形」から音(発音)を推測することはある程度可能です。ところが、その音を繋げて読んでみても、ギリシャ語でも、ラテン語でも、セム語でもない。

線文字B

既存のどの言語体系にも当てはまらない「ミノア語」という孤立した言語が、そこには横たわっているのです。

3.粘土板に刻まれた「ワイン」と「合計」と「謎の単語」

解読は完遂されていませんが、統計的な分析や、後の「線文字B」との比較によって、いくつかの単語は「意味の正体」が見え始めています。

  • KU-RO(ク・ロ)=「合計」

    • 多くの帳簿用粘土板で、物資のリストの最後に数値と一緒に現れます。文脈から、英語の "Total" にあたる言葉であるというのが言語学界の共通認識です。

  • A-SA-SA-RA-ME(ア・サ・サ・ラ・メ)=「聖なるもの」

    • 宗教儀式に使われる石の器にのみ刻まれる定型句です。ミノア文明が崇めた「女神」の名前、あるいは「浄化された」といった宗教的意味を持つと推測されています。

  • 物資を表す記号(イデオグラム)

    • 文字の中には、ワインの壺、オリーブ、麦、羊などを直接描いた記号も混じっています。これらは言葉が読めずとも「何についての帳簿か」を雄弁に物語っています。


引用

【主な参考文献・ソース】

John Younger, "Linear A Texts in Phonetic Transcription" (University of Kansas)Gareth Owens, "Labyrinth: Mycenæan and Minoan Scripts" (Center for Cretan Literature)University of Cambridge "CREWS Project" (Contexts of and Relations between Early Writing Systems)

4. AIさえも突き放す。なぜ天才たちは敗北し続けるのか?

現代のスーパーコンピュータや最新AIをもってしても、線文字Aの解読は進んでいません。そこには物理的な高い壁があります。

  •  最大の理由は、同じ内容を別の既知の言語(ギリシャ語など)で書いた「対訳文」が見つかっていないことです。

  • 現存する粘土板の多くは、帳簿のような短いメモ。文脈から文法ルールを割り出すには、あまりに情報量が少なすぎるのです。

  • 文字は目の前にある。しかし、その背後にある「声」が完全に失われている。このもどかしさが、世界中の言語学者を今も狂わせ続けています。


解読されないからこそ、夢は終わらない

線文字Aが読めないということは、ミノア文明の人々が何を信じ、何に悩み、どんな物語を語っていたのかを、私たちはまだ「一言も知らない」ということです。

引用

いつか、クレタ島の土の下から「二言語併記の粘土板」が見つかった瞬間、人類の歴史は書き換わるでしょう。それまでは、この美しい線文字は、古代からのミステリアスな囁きとして、私たちの想像力を刺激し続けます。


いかがだったでしょうか?
このブログでは他にも世界の面白い言語を紹介しているので、ぜひご覧ください。


いいなと思ったら応援しよう!