タンパク質は結局1日何g? 計算機と「手のひら」で解決する
「タンパク質、大事って言うけど、結局1日どれくらい摂ればいいの?」。この素朴なモヤモヤに、今回はきっちり答えを出します。エピソード78では、ネパール社会起業家のななみさんを迎えて、タンパク質の量、そしてその燃料をどう筋肉に変えるかまでを深掘りしました。タテキは、コーデックスとAIを使って、体重と目的と活動量を入れるだけのタンパク質摂取量ガイド(計算機)を作りました。約100本の論文を踏まえた無料ツールです。
◼︎SHOWノート
この要約ノートでわかること
ご自身の1日のタンパク質量の決め方(座りがちな人、運動する人、筋肉をつけたい人で変わります)
食べすぎても、その中身次第で「脂肪に乗るか、筋肉に乗るか」が変わるということ
筋肉痛にならなくても筋肉は育つ、その理由(メカニカルテンションとボリューム)
睡眠不足での筋トレが、なぜ最悪の投資効率なのか
握力やIGF-1といった数字が教えてくれる、動ける100歳のための設計図
当番組はメディカルアドバイスではありません。腎臓や肝臓に疾患がある方、妊娠中・授乳中の方、何か治療中の方は、必ず専門家にご相談ください。
1. 結局1日どれくらい? まずは基準を知る
社会人の多くにとって、出発点になる数字があります。日本は、先進国のなかでもっとも座っている時間が長い国とも言われます。そういう生活のなかで、まず下回ってはいけないラインです。
座りがちな人の最低ラインは、体重1kgあたり0.8g。60kgの人なら、最低48gです。ただ、この0.8gは「不足を防ぐ最低限」であって、「最適」ではありません。体内のアミノ酸がタンパク質合成に使われるか分解されるかを利用して必要量を測る方法(指標アミノ酸酸化法)などのデータでは、0.8gよりも多めに摂った方がよい、という結果が出ています。健康な若年層でも高齢者でも、男女いずれも1.0〜1.2g程度を支持する統計があります。日本の教科書でよく見る「体重×1g(60kgなら60g)」は、その意味で妥当な目安です。
なぜ最低ラインだけでは足りないのか。それを鮮やかに示したのが、次の研究です。
【研究データ1|同じ食べすぎでも、脂肪に乗るか筋肉に乗るか】
健康な男女25人を対象に、摂取エネルギーの5%・15%・25%をタンパク質から摂る3グループに分け、約40%のカロリー過剰(1日あたり約950kcalの上乗せ)で8週間、過食させた研究があります(過食時の食事タンパク質量と体組成の関係:ランダム化比較試験)。結果が示唆的でした。体脂肪の増加は3グループでほぼ同じ。つまり、脂肪が増えるかどうかは「カロリー」で決まりました。一方で、低タンパク群は除脂肪量(脂肪を除いた体重、つまり筋肉など)が0.70kg減ったのに対し、標準タンパク群は2.87kg増、高タンパク群は3.18kg増えました。同じだけ食べすぎても、タンパク質の割合次第で、その上乗せが脂肪に乗るか筋肉に乗るかが変わる、ということです。
「食べすぎたら脂肪が増える」というイメージは半分正解で、半分は不正確です。正確には、増えるカロリーぶんの中身にタンパク質が多いと、体脂肪は増えにくく、除脂肪量が増えやすい。この構造を理解しておくと、増量も減量も設計しやすくなります。
ちなみに「タンパク質は1回に20〜30gしか吸収されない」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、大量に一度に摂取しても吸収される、というデータも出ています(この点はエピソード35で深掘りしています)。1食あたりの上限を気にしすぎるより、1日の総量と、それをどう分けるかを考える方が実務的です。
2. 活動量別の目安と、「手のひら」という物差し
ここからは活動量で変わります。十分なカロリーを摂っている前提(体重が増えも減りもしない状態)で、運動する人が筋肉を維持するなら、体重1kgあたり1.2〜2.0gが目安です。これはAmerican College of Sports MedicineやThe Academy of Nutrition and Dieteticsといった団体が示してきた範囲です。アスリートは、普通の人のおよそ2倍が目安、ということになります。
幅が広いのは、全員がボディビルダーや、朝から晩まで部活に打ち込む高校生ではないからです。バイオハッカーとしては、真ん中あたりの1.6g前後にセットポイントを置いてみてはいかがでしょうか。筋肉を増やしたい人なら2.0〜2.4g、パワーリフターになると3.3gという数字もありますが、これはかなりの量です。ここで大事なのは、研究データ1の構造です。タンパク質を摂れば摂るほど筋肉がつく、というより、カロリーが黒字(増量)でもタンパク質が高いほど余分な脂肪がつきにくい、という理解で食べる、ということ。ボディビルの選手は増量期と減量期を分けますが、多くの人にとっては、徐々に脂肪を燃やしながら筋肉をつけて、気づいたら少し筋が入ってきた、という進め方の方が現実的です。
では、毎食どう量るのか。いちばん身近な物差しは、ご自身の手です。手のひらは、だいたい体表面積の1%にあたると言われています(火傷の重症度を測る「手のひらの法則」もこれを使います)。手は体に比例しているので、量りとして使えるわけです。目安はこうです。
・タンパク質(肉・魚など)は、手のひら1枚分(指を含まない、パーの部分)で1サービング
・野菜は、握りこぶし1個分 ・炭水化物は、片手でひとすくい
・脂質は、親指1本分
まずはよく食べるものを写真に撮ってAIに尋ね、おおよその量を把握し、慣れてきたら手で測る。ストレスなく続けられるのが、この方法の良さです。女性の場合は、生理周期も加味できます。特に後半の黄体期はエネルギー需要が上がるので、筋肉の維持や減量中、更年期の方などは、指も含めた1.5倍くらいを目安にしてもよいかもしれません。食べる順番(タンパク質や野菜を先に、炭水化物を最後に)も、食後のだるさや血糖の安定に役立ちます。
3. 燃料を筋肉に変える メカニカルテンションとボリューム
タンパク質を120g食べても、それが筋肉として残る人と、そうでない人がいます。何がそれを分けるのか。鍵は、メカニカルテンション(筋肉にかかる張力)です。筋肉に負荷をかけ、それに逆らって収縮させると、微細な損傷が起き、回復の過程で大きくなる。これが筋肥大です。
ここでひとつ、よくある思い込みを外します。筋肉痛にならないと筋肉は増えない、と感じていませんか。実は、そんなことはありません。重さと努力(限界への接近)の掛け算で、フォームを保ったまま「これ以上できない」ところまで追い込めば、筋繊維に十分な刺激が入ります。痛みは、成長の必須条件ではないのです。
では、どれだけやればいいのか。出たばかりの大規模な解析があります。
【研究データ2|伸びを決めるのは「ボリューム」、頻度ではない】
2025年12月に発表された、筋トレの量・頻度と筋肥大・筋力の関係を調べたメタ回帰分析(筋トレのドーズレスポンス:週あたりの量と頻度が筋肥大・筋力に与える影響)です。67の研究、2,058名(男性79.1%、女性20.9%、平均年齢約25歳)を統合したもので、ボリューム(週あたりの総セット数)が筋肥大と筋力の両方を高める確率は100%、つまりやればやるほど伸びる、と示されました。ただし伸びには頭打ち(逓減)があり、特に筋力で顕著です。そしてもう一点が重要で、頻度は筋力にはやや効くものの、筋肥大にはほとんど影響しませんでした。
これはどういうことかというと、同じ総ボリュームなら、週1回でも週3回でも、筋肥大はほぼ同等ということです。腕立て10回3セットを月曜にまとめてやるのと、10回1セットを月水金に分けるのは、筋肥大の観点ではほぼ一緒。だからこそ、ご自身のスケジュールに合う頻度を選べばいい。実装の目安としては、週あたり10〜20セットをひとつの目標にすると組み立てやすいです。重い重量でないと筋肉はつかない、というのも誤解で、限界近くまで追い込めれば、中程度の重量(おおむね8〜12回で限界がくる重さ)でも筋肥大は起こります。20回、30回と続く重さは、筋トレというより有酸素運動寄りになっていきます。
4. 睡眠なくして、筋トレなし
結論から言います。睡眠不足での筋トレは、最悪です。いくらタンパク質を摂っても、いくら追い込んでも、土台が崩れていると報われません。
【研究データ3|たった一晩で、合成は落ち、ホルモンは崩れる】
健康な若年成人13人を対象に、一晩の完全な徹夜と通常睡眠を比べた研究(急性の睡眠不足が骨格筋のタンパク質合成とホルモン環境に与える影響)では、たった一晩眠らなかっただけで、翌日の筋タンパク質の合成が18%低下しました。あわせて、血中のコルチゾール(ストレスホルモン)が21%増加し、テストステロン(男性ホルモン)が24%低下しています。被験者数は少ない研究ですが、一晩の徹夜だけで、筋肉が育ちにくく、分解されやすい状態(アナボリック抵抗)に傾く、ということです。
つまり、ボリュームを増やそうと無理に筋トレを足すより、寝る時間を増やす方が、投資効率はずっと高い。慢性的な睡眠不足(5時間など)も同じ方向に働きます。「寝るために運動する」くらいの感覚で、睡眠を最優先にしてください。
5. バイオハッカーの視点 炎症、IGF-1、そして握力
我々はフィットネスチャンネルではないので、最後は長寿とアンチエイジングの視点から、健康診断にも出てくる数字を3つ見ておきます。
ひとつ目は、CRP(C反応性タンパク)という炎症マーカーです。運動すると炎症が上がるのでは、と思うかもしれません。ハードなトレーニングの直後は、確かに一時的に上がります。けれど大事なのは、慢性的なベースラインの方です。
【研究データ4|続けている人は、炎症の土台が下がる】
高齢者を対象に筋トレと炎症マーカーの関係を調べたメタ分析(高齢者における筋トレがCRPと炎症性サイトカインに与える影響:ランダム化比較試験のシステマティックレビューとメタアナリシス)は、18のランダム化比較試験、539名を統合しました。結果、筋トレはCRPを有意に低下させ(効果量マイナス0.72)、しかも年齢・方法・強度・頻度・期間によらず低下が見られました。一時的なスパイクはあっても、長期的に見れば、運動は炎症の土台を下げてくれる、ということです。
ふたつ目は、IGF-1(インスリン様成長因子1)です。これは「大きくなれ」というシグナルを出す、筋タンパク合成を促すホルモンで、筋トレを激しくやる人ほど高くなります。ただ、ここに長寿の観点からの注意点があります。
【研究データ5|「大きくなれ」のシグナルには、影もある】
遺伝情報を使った因果推論(メンデルランダム化)の研究(IGF-1と部位別がん:メンデルランダム化研究)では、遺伝的に予測される血中IGF-1値が、大腸がんと関連していました。一方で、前立腺がんや乳がん、その他のがんとの因果関係は結論が出ていません。「大きくなれ」というシグナルが強いほど、もし異常な細胞があれば、という懸念です。これは観察的な手法による示唆なので断定はできませんが、漫画のキャラクターのような極端な筋肉量を目指す方は、こういう側面もある、と頭の片隅に置いておく価値があります。我々が目指すのは、年を取っても動ける体であって、正常範囲での維持です。健康診断でCRPやIGF-1が極端に高ければ、それが慢性的な炎症なのか、それともイベントに向けて一時的に追い込んだ結果なのかを見分ける、その材料になります。
そして三つ目、最後はこれです。なぜ筋トレをするのか。夏の水着姿のため、というのも立派な理由ですが、長期目線のバイオハッカーには、もっと強い動機があります。
【研究データ6|握力は、寿命のインデックス】
約190万人(おおよそ200万人)の男女を対象にした大規模なメタ分析(見かけ上健康な集団における筋力と全死亡:約200万人のシステマティックレビューとメタアナリシス)では、握力が高い人は低い人に比べて、全死亡リスクが31%低い(ハザード比0.69)という結果でした。女性ではさらに強い関連で、40%低い(ハザード比0.60)。握力は、筋肉のインデックスと言っても過言ではありません。年を取っても腕に力が入るというのは、神経伝達がうまくいっていて、重いものを持ち上げる生命力がある、ということ。これは約190万人のデータが語っています。
スクワットがいい、デッドリフトがいい、という話の前に、まず大事なのは、ジムに行かなくてもご自身の体型を維持できるスキルを持つことです。出張先のホテルにジムがなくても、公園や自宅で体調を保てる。腰痛に悩む方は、公園の鉄棒にぶら下がって、おちょぼ口でゆっくり長く息を吐く。横隔膜が収縮して上に、重力で下に引っ張られ、硬くなった腰がストレッチされます。言い訳をせず、スクワットと腕立て、そして懸垂ができなくても「ぶら下がる力」を持つ。これが土台です。
まとめ&誤解の整理
今回の内容で、よくある思い込みを5つ整理します。
「タンパク質は1回20〜30gしか吸収されない」→ 大量に一度摂取しても吸収されるデータがあります。1食の上限より、1日の総量と分配が大切です。
「食べすぎ=必ず脂肪が増える」→ 同じ過剰カロリーでも、タンパク質割合が高いと増えるのは主に除脂肪量で、体脂肪の増加は同程度だったというデータがあります。
「筋肉痛にならないと筋肉は増えない」→ メカニカルテンションと限界への接近が重要で、筋肉痛は必須条件ではありません。
「重い重量でないと筋肉はつかない」→ 限界近くまで追い込めれば、中程度の重量(8〜12回)でも筋肥大は起こります。
「頻度を上げるほど筋肥大する」→ 同じ総ボリュームなら、週1回でも週3回でも筋肥大はほぼ同等です(頻度は筋力にはやや効きます)。
今回の「最小投入・最大効果」は、ご自身の数字を知り、手で測り、土台を守る、この3点です。
まず、タンパク質摂取量ガイドで、ご自身の1日のタンパク質量を出します。次の2週間は、手のひらを目安に、それを3食へ分けて摂ってみてください(たとえば最低96gなら、1食あたり30gちょっとを3回)。きっちり量らなくて大丈夫です。手のひら1枚分のタンパク質、握りこぶし1個分の野菜、という感覚を掴むことが目的です。続けられて、体型も維持できるセットポイントが見つかったら、あとは微調整するだけです。
そして、筋トレを足す前に、まず睡眠を確保してください。一晩の徹夜でも合成は落ちます。筋トレは週あたり10〜20セットを目安に、限界の手前で終える。痛みや重さを追いかけるより、ボリュームと睡眠を整える方が、ずっと効きます。なお、いまマンジャロなどのGLP-1(いわゆる痩せ薬)を使っている方は、筋肉量が著しく落ちやすいので、タンパク質は多めに。タテキとしてはおすすめはしませんが、使う場合はとくに筋肉貯金を意識してください。
リスナーには人生の先輩方も多いので、最後にこれだけは。筋肉量の低下は、早期死亡リスクとも関係します。だからこそ、難しく考えず、まずはご自身の数字を知って、手のひらで測って、しっかり寝る。それだけでも、土台は大きく変わります。
スクワットがいい、デッドリフトがいい、という以前に、ジムに行かなくても満足できる体型を保てるスキルと、ご自身に必要なタンパク質量を知ること。動ける80歳、90歳、100歳を目指して、一本のロープで人生を繋いでいきましょう。次回は、今回つけた筋肉を土台に、体脂肪燃焼にフォーカスします。筋肉があるほど脂肪は燃えやすいので、まずは筋肉貯金から。
それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう。
