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人は正論ではなく、自分の価値観で動く 【観察力編 第3話】

前回は、観察力とは細部を見る力だけではなく、相手の価値観に目を向ける力だという話をしました。

相手の表情を見る。
しぐさを見る。
言葉の違和感に気づく。

それも大切です。

ただ、本当に見たいのは、その奥にあるものです。

その人は、何を大切にしているのか。
何に不安を感じているのか。
何を守りたいと思っているのか。
どんな未来なら前向きになれるのか。

そこに目を向けることが、観察力の入口になります。

今回は、そこからさらに一歩進めて、

人は正論ではなく、自分の価値観で動く

という話をしていきます。


正しいことを言っているのに、届かないことがある

仕事でも、人間関係でも、こう感じることがあります。

「こっちの方が正しいのに」
「ちゃんと説明しているのに」
「どう考えても、この方がいいのに」
「なぜ分かってくれないんだろう」

こちらから見れば、話はとてもシンプルです。

このやり方に変えた方が効率がいい。
この確認をした方がミスが減る。
この習慣を入れた方が事故を防げる。
この商品を使った方が便利になる。
この提案を受けた方が、相手にとっても得になる。

だから、説明します。

理由を伝える。
メリットを伝える。
根拠を伝える。
必要性を伝える。

それでも、相手が動かないことがあります。

そんなとき、ついこう思ってしまいます。

「理解力がないのかな」
「やる気がないのかな」
「変わる気がないのかな」
「なんでこんなに分からないんだろう」

でも、少しだけ見方を変えてみると、別の可能性が見えてきます。

相手は、正しさを理解していないのではなく、
その正しさが自分の価値観とまだつながっていないのかもしれません。

人は、頭だけで動いているわけではない

人は、理屈だけで動いているわけではありません。

もちろん、理屈は大事です。

筋が通っていること。
合理的であること。
効率がいいこと。
間違っていないこと。

これらは大切です。

ただ、それだけで人が自然に動けるかというと、そうとは限りません。


人には、それぞれ大切にしているものがあります。

安心したい。
失敗したくない。
自分のペースを守りたい。
人から認められたい。
損をしたくない。
面倒を増やしたくない。
今までの自分を否定されたくない。
家族や仲間を守りたい。
自分らしくいたい。

こうした価値観は、外からは見えにくいものです。

でも、人はこの価値観を通して、言葉や提案を受け取っています。

だから、同じ正論でも、人によって受け取り方が変わります。

ある人には「なるほど」と感じる話が、
別の人には「面倒が増える話」に聞こえる。

ある人には「成長できる提案」に見えるものが、
別の人には「今までの自分を否定された話」に感じられる。

ある人には「安全のための確認」に見えるものが、
別の人には「また細かいことを言われた」と感じられる。

正論の中身が同じでも、受け取る側の価値観によって意味が変わります。

ここを見ようとするのが、観察力です。

相手が見ているものは、自分と同じとは限らない

こちらが見ているものと、相手が見ているものは違うことがあります。

たとえば、職場で確認作業を増やしたいとします。

こちらは、事故を防ぐために必要だと考えています。

ミスを減らしたい。
事故を防ぎたい。
あとで大きな問題にならないようにしたい。
みんなが安心して働けるようにしたい。

だから、確認を増やした方がいいと思う。

でも、相手は別のものを見ているかもしれません。

「また仕事が増えるのか」
「忙しいのに、そんな余裕はない」
「自分のやり方を否定された気がする」
「そこまでやって、何かあったら自分の責任になるのか」
「どうせ最初だけで、また続かないんじゃないか」

こちらは安全を見ている。
相手は負担を見ている。

こちらは改善を見ている。
相手は否定された感覚を見ている。

こちらは未来のリスクを見ている。
相手は目の前の面倒を見ている。

どちらが正しい、という話だけではありません。

見ている場所が違うのです。

このズレに気づかないまま、こちらの正しさだけを強くしていくと、相手はさらに受け取りにくくなります。

正しさを強くするほど、相手には圧に感じられることもあります。

だから、観察力が必要になります。

相手は今、何を見ているのか。
何を気にしているのか。
どこに不安を感じているのか。
何を守ろうとしているのか。

そこを見ることで、言葉の出し方が変わります。

正論が届かないとき、相手は守りに入っているかもしれない

人は、自分の大切にしているものが脅かされたと感じると、守りに入ります。

たとえば、こちらは改善のつもりで言っている。

でも相手は、

「今までの自分のやり方が否定された」
「自分ができていないと言われた」
「また責任を押しつけられる」
「自分の立場が悪くなる」

と感じているかもしれません。

そうなると、相手は提案の中身よりも、自分を守ることを優先します。

これは、相手が悪い人だからではありません。

人は誰でも、自分の大切にしているものを守りたいからです。

自分のプライド。
自分の経験。
自分の立場。
自分の安心。
自分のペース。
自分の居場所。

そこを守ろうとするのは、自然なことです。

だから、こちらが何かを伝えるときには、相手が何を守ろうとしているのかを見ようとすることが大切になります。

相手の守りたいものを無視したまま話すと、正論でも届きにくくなります。

逆に、相手が守りたいものを理解したうえで話すと、同じ内容でも受け取りやすくなります。

たとえば、

「今までのやり方が悪いという話ではありません」
「忙しい中でも、ここだけは外さない形にしたいんです」
「責任を増やすためではなく、あとで責任を背負わなくて済むようにしたいんです」
「全員に完璧を求めるというより、ミスが起きにくい流れを作りたいんです」

こう伝えるだけでも、相手の受け取り方は少し変わるかもしれません。

人は、自分にとって意味があると感じたときに動きやすくなる

人が動きやすくなるのは、自分にとって意味があると感じたときです。

それをやることで、安心できる。
それをやることで、自分の負担が減る。
それをやることで、大切な人を守れる。
それをやることで、自分の評価が上がる。
それをやることで、失敗するリスクが減る。
それをやることで、自分らしくいられる。
それをやることで、未来が少し良くなる。

こう感じたとき、人は前を向きやすくなります。

つまり、人は「正しいから」だけで動くのではありません。

自分の中にある価値観とつながったときに、動きやすくなります。

これは、営業でも同じです。

商品そのものがどれだけ優れていても、相手がそこに自分の意味を感じられなければ、欲しいとは思いにくいです。

「性能が高いです」
「便利です」
「安いです」
「効率的です」

これだけでは、まだ商品の説明です。

相手が本当に見ているのは、

それで自分の生活がどう変わるのか。
自分の不安が減るのか。
自分が大切にしているものを守れるのか。
自分が望んでいる未来に近づけるのか。

という部分です。

だから、売れる人は商品だけを見ていません。

相手が欲しがっている未来を見ようとしています。

この話は、第4話でさらに深掘りしていきます。

価値観を見ようとすると、責める言葉が減っていく

相手の価値観を見ようとすると、不思議と責める言葉が減っていきます。

「なんで分からないんだろう」
「なんでやらないんだろう」
「普通に考えたら分かるのに」

そう思っていたところから、

「この人は何を不安に感じているんだろう」
「何を守ろうとしているんだろう」
「どこが負担になっているんだろう」
「どう伝えれば、自分に関係ある話として受け取れるんだろう」

という見方に変わっていきます。

これは、相手を甘やかすということではありません。

相手の言いなりになるということでもありません。

ただ、相手を雑に扱わなくなるということです。

人は、それぞれ違う背景を持っています。

経験も違う。
不安も違う。
大切にしているものも違う。
何に反応するかも違う。

そこを見ようとせずに、自分の正しさだけで押してしまうと、相手とのズレは大きくなります。

逆に、相手の価値観を見ようとすると、伝え方に余白が生まれます。

この余白が、観察力です。

正論を捨てる必要はない

ここで大事なのは、正論を捨てる必要はないということです。

正しいことは、やはり大切です。

事故を防ぐこと。
ミスを減らすこと。
効率を上げること。
相手のためになること。
未来を良くすること。

こうした正しさを捨てる必要はありません。

ただ、正しさだけをそのままぶつけても、届かないことがあります。

だから、相手の価値観を見ます。

相手が何を大切にしているのか。
どこに不安があるのか。
何を守りたいのか。
どんな形なら受け取りやすいのか。

そこを見たうえで、正しいことを相手に届く形に整えていく。

これが、観察力です。

正しさを弱めるのではありません。

正しさを、届く形に変えるのです。

構造再設計では、人が動けない理由を見る

構造再設計メソッドでは、問題を気合いや性格だけで片づけません。

なぜ、その行動が起きるのか。
なぜ、分かっているのにできないのか。
なぜ、正しいことが続かないのか。
なぜ、提案が通らないのか。

その裏にある構造を見ます。

たとえば、確認をしない人がいるとします。

そこで、

「ちゃんと確認してください」
「確認が大事です」
「事故が起きたらどうするんですか」

と伝えるだけでは、なかなか変わらないことがあります。

その人は、確認の重要性をまったく知らないわけではないかもしれません。

ただ、

忙しいと省略してしまう。
確認する場所が曖昧になっている。
確認しても意味がないと思っている。
確認することで仕事が遅れるのを気にしている。
周りがやっていないから自分だけやるのが嫌だ。
今まで何も起きなかったから大丈夫だと思っている。

こうした構造があるかもしれません。

ここを見ずに正論だけを足しても、行動は変わりにくいです。

必要なのは、その人が自然に動きやすくなる形を探すことです。

確認するポイントを絞る。
やるタイミングを決める。
周りも同じ流れにする。
面倒ではなく、自分を守るための確認だと伝える。
失敗した後の責任を減らすための行動だと意味づける。

こうして、相手の価値観と行動がつながると、少しずつ動きやすくなります。

観察力は、人を動かす前に、人を理解しようとする力

観察力というと、相手をうまく動かすための力のように聞こえることがあります。

でも、今回の観察力は少し違います。

まず、相手を理解しようとする力です。


この人は、何を大切にしているのか。
何に不安を感じているのか。
何を避けたいと思っているのか。
どんな言葉なら受け取りやすいのか。
どんな未来なら前向きになれるのか。

そこを見ようとする。

そのうえで、こちらの目的と相手の価値観が重なる場所を探していく。

ここに、観察力の使いどころがあります。

相手を変えようとする前に、相手が見ている世界を見ようとする。

その姿勢があるだけで、言葉は少し変わります。
提案の形も少し変わります。
関係性も少し変わります。

そして、その小さな変化が、人が動きやすくなる道を作っていきます。

今回インストールする力

今回インストールするのは、

人は正論ではなく、自分の価値観で動く

という見方です。

人は、正しいことを言われただけで動けるわけではありません。
合理的な説明をされたから、すぐに前向きになれるわけでもありません。
メリットを並べられたから、すぐに納得できるわけでもありません。

その人の中で、

「これは自分にとって意味がある」
「これは自分の不安を減らしてくれる」
「これは自分が大切にしているものを守ってくれる」
「これは自分の未来につながっている」

と感じられたとき、人は少しずつ前を向きやすくなります。

だから、観察力が必要になります。

相手は何を大切にしているのか。
何を怖がっているのか。
何を守りたいのか。
どんな未来なら前向きになれるのか。

そこを見ようとすること。

正しさを捨てるのではなく、
正しさを相手に届く形に整えること。

これが、観察力の大事な使い方です。

人は、正論だけで動くのではありません。

自分の価値観とつながったときに、少しずつ前を向けるようになります。

次回予告

次回は、観察力編の第4話として、

「売れる人は商品を見ていない。相手が欲しがっている未来を見ている」

というテーマを扱います。

営業や商品説明でよくあるのは、商品の機能や性能をそのまま伝えてしまうことです。

「よく剃れます」
「時短できます」
「肌に優しいです」
「性能が高いです」

もちろん、それも大切な情報です。

でも、人が本当に欲しがっているのは、商品そのものだけではありません。

その商品によって得られる未来。
安心感。
自信。
清潔感。
人からどう見られるか。
自分がどう感じられるか。

そうした未来や感情を見ていることがあります。

次回は、髭剃りの例を使いながら、売れる人がなぜ商品ではなく、相手が欲しがっている未来を見ているのかを深掘りしていきます。

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