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猪突猛進で悩む人が変わる、“止まってから動く”ことでうまくいく理由【能力再設計|猪突猛進編⑨】

登場人物

大地
営業職。
これまで「猪突猛進」「余計なことをする」と言われてきた。
しかし本人は悪意はなく、「早く動くことが正しい」と信じて行動している。
最近、「動く前に情報を受け取る」ことで結果が変わることを体感し、
自分の行動力を活かせる形が見え始めている。


結衣
事務員。
電話・来客対応を担当し、相手の感情を受け止めながら情報を整理している。
誰が、何に困っていて、どうしてほしいのかを言語化し、担当者に渡す役割。
見えにくいが、仕事の流れを支える重要な存在。


マスター
喫茶店の店主。
特別なことはしていないが、必要な情報を自然に把握している。
大地に直接答えを教えるのではなく、視点をずらすきっかけを与える存在。


あらすじ

前回、大地は自分の変化を少しずつ言語化し始めた。

速さそのものが問題ではなかった。
ただ、順番が逆だっただけだった。

“動く前に受け取る”という工程を挟むことで、
迷いが減り、結果が変わることを実感している。


今回の見どころ

この第9話では、

・以前なら飛び出していた場面で一度止まる選択ができる
・情報を受け取った上で提案を組み立てる
・相手も自社も納得する形で着地させる

が描かれます。


人は、

同じ場面に戻ってきたとき、
初めて自分が変わったことに気づく。


本編

午後の事務所に、
少しだけ張りつめた空気が流れた。

電話の音が、いつもより短く切れる。

誰かが小さく「え?」と声を漏らす。

何かが起きた時の、あの独特の気配。

大地は顔を上げた。


(……来たな)


体が自然と反応する。

こういう時、自分の出番だと感じていた。

すぐ動く。
現場に行く。
その場で何とかする。

それがいつもの流れだった。


「大地さん」


結衣の声がする。

振り向くと、少しだけ真剣な表情をしていた。


「ちょっと急ぎの案件です」


その一言で、体が立ち上がりかける。

いつもなら、そのまま外に出ていた。

でも今回は違った。


(……待て)


ほんの一瞬だけ、ブレーキをかける。

その一瞬が、以前よりも短くなっている。

でも、確実にある。


「どんな内容ですか?」


その一言が、自然に出る。

結衣は少しだけ頷いて、話し始めた。


・相手は納期に対して強い不満を持っている
・ただ、完全に怒っているというより「このまま進むのが怖い」という状態
・一度整理して、どこまでできるかを明確にしてほしい


大地は黙って聞く。

途中で割り込みたくなる感覚が、もうほとんどない。

頭の中で、少しずつ形ができていく。


(怒ってるわけじゃない)

(不安か)


その違いが、大きいことはもう分かっている。


「あと」


結衣が続ける。


「今回、無理に押し切られるのが一番嫌みたいです」


その一言で、方向が決まる。


(じゃあ、押さない)


以前の自分なら、早く決めることを優先していた。

でも今回は違う。

相手が嫌がることを避ける方が、結果的に早い。


「分かりました」


そう言って立ち上がる。

今度は迷いがなかった。

でも、焦りもなかった。


訪問先に向かう車の中で、大地は頭の中を整理していた。

何を言うか。
どこを確認するか。
どこを着地にするか。


(まずは……)


・不安の正体を聞く
・どこまでが許容範囲かを確認する
・こちらが出せるラインを整理する


その順番が、自然に浮かぶ。

前のように、現場で考えるのではなく、
行く前にある程度見えている。

それだけで、心の余裕が違った。


会議室に入る。

相手の表情を見る。

強くはない。
でも、固い。


(やっぱり不安だな)


そう判断する。


「本日はありがとうございます」


まずは軽く頭を下げる。

すぐに本題に入らない。

相手の反応を少しだけ見る。


「今回の件なんですが、まず一度整理させていただいてもよろしいですか」


その言葉に、相手が少しだけ頷く。


(入れた)


それだけで、空気が少しだけ柔らぐ。


「今ご不安に感じているのは、納期の部分が大きいと思うんですが」


言葉を置く。

相手が頷く。


「はい、そうです」


その一言で、軸が決まる。

ここからは早かった。


・どこまでなら許容できるか
・どこが一番困るのか
・何を優先したいのか


一つずつ確認する。

そのたびに、相手の表情が少しずつ変わる。

不満ではなく、整理されていく顔になる。


「こちらとしても、現実的に出せるラインを一度共有させてください」


そう言って、条件を出す。

無理に押さない。
でも、逃げない。

そのバランスが、前よりも自然だった。


話はそのまま進んだ。

どこで落とすかが見えているから、
余計なやり取りがない。

結果として、

相手も納得し、
こちらも無理をしない形で着地した。


会議室を出る。

ドアが閉まった瞬間、大地は小さく息を吐いた。


(……できた)


その一言が、静かに浮かぶ。


以前ならどうなっていたか。

想像できる。

すぐに行って、
謝って、
その場で何とかしようとして、

相手の不安を無視したまま進めていた。

結果、こじれていた可能性が高い。


でも今回は違った。

同じ場面。
同じような案件。

でも、やったことは違う。


“動く前に受け取った”


それだけだった。


車に戻る。

エンジンをかける。

ハンドルに手を置きながら、少しだけ考える。


(……そういうことか)


頭の中で、ようやく一つに繋がる。

自分はずっと、目的地だけを見て走っていた。

だから、途中で迷っていた。

でも今は違う。

ルートが見えている。
だから、迷わない。


「目的地だけ見てたから、ぶつかってたのか」


小さく呟く。

その言葉が、やけにしっくりくる。


会社に戻ると、結衣がこちらを見る。


「どうでした?」


大地は軽く頷く。


「うまくまとまりました」


結衣は安心したように息を吐く。


「よかったです」


その一言で、十分だった。


大地は自分の席に戻る。
パソコンを開く。

次の仕事が表示される。

でも、もう怖くなかった。


速さは、変わっていない。

でも、使い方が変わった。

ただ突っ込むだけじゃない。
通る道を見てから、そこに向かう。


大地はマウスを握りながら、静かに思った。


(前の俺なら、もう走ってたな)


でも今は違う。

走る前に、見る。
受け取る。
そして、走る。

それだけで、
ここまで違うのかと、
はっきりと分かっていた。


次回

ここで大地は、
“分かってきた”を超えて、
“同じ場面で違う結果を出せた”ところまで来ました。

次回はその先。
変わった自分を、自分だけで終わらせず、
周囲との関係や役割の中でどう活かしていくかが見えてくる段階に入ります。

速さを捨てなくてよかったと思えた日【能力再設計|猪突猛進編⑩】

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