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優柔不断で悩む人が変わる、“なんとなくの違和感”に名前がついた瞬間【能力再設計|優柔不断編⑥】

登場人物

ミオ
新人薬剤師。
確認事項が多く、止まりやすい。
「優柔不断」「遅い」と言われ、自分は要領が悪い人間だと思ってきた。
しかし最近、レイナの言葉によって、自分の見え方に別の意味があるのかもしれないと揺らぎ始めている。


レイナ
仕事ができる先輩薬剤師。
判断が速く、要点を押さえて進めるタイプ。
ただし自分とは違うミオの見え方にも気づいており、少しずつ伴走者として関わり始める。


ハヤト
速さ重視の男性薬剤師。
悪人ではないが言葉が雑で、現場の圧を象徴する存在。


あらすじ

「ちゃんと立ち止まって確認できるの、すごいと思うよ」

レイナの一言は、ミオの中に小さな揺らぎを残していた。

遅いのではなく、確認している。


そう言われても、まだ実感はない。

ある日、処方箋を見てまた手を止めたミオに、レイナが静かに問いかける。


「何が気になったの?」

その質問に答えようとして、

ミオは初めて自分が見ていたものを言葉にし始める。


薬歴。
前回処方。
用量の変化。
患者の年齢。
小さな違和感。

それらはただの不安ではなく、
ミオが拾っていた情報だった。


今回の見どころ

この第6話では、

・ミオが「何を見て止まっていたのか」を言葉にし始める
・レイナが伴走者として関わり始める
・優柔不断の中身が能力として分解され始める

という転換が描かれます。


これまでミオは、自分の反応をただ

「遅い」
「迷っている」

としか見れていませんでした。


でも実際には、

見えすぎるから止まっていた。

この構造が少しずつ見えてきます。


本編

レイナに声をかけられてから、数日が過ぎた。

薬局の忙しさは相変わらずで、
処方箋は今日も途切れなくカウンターに積まれていく。


ミオはその中の一枚を手に取り、

いつものように画面を開いた。


患者情報。
薬歴。
前回処方。


見慣れた画面のはずなのに、今日は少しだけ感覚が違う。


(立ち止まって確認できるの、すごいと思うよ)


レイナの言葉が、まだ頭の奥に残っていた。

あれから何度か考えた。

自分は本当に、ただ遅いだけなんだろうか。


それとも、何か別の理由で止まっているんだろうか。

答えはまだ分からない。

でも少なくとも、前みたいに
「遅い」で全部終わらせることはできなくなっていた。


その時、画面を見ていたミオの指が止まる。


(あれ……)


今回の処方は前回と同じ薬だった。

でも、用量が少し変わっている。

それだけなら珍しくない。

症状の変化かもしれないし、
医師の調整かもしれない。


けれど、薬歴を少し遡ると、
その患者はここ数か月、

似たような変動を何度か繰り返していた。


増えて、戻って、また少し変わる。

ミオは画面を見つめたまま、小さく眉を寄せる。


(なんだろう)


はっきり何が悪いわけではない。

でも、少し気になる。


患者の年齢。
前回の飲み方。
今回の量。


いくつかの情報が頭の中で並んで、
うまく言葉にはならないまま引っかかる。

そして、また手が止まる。


その時だった。


「何が気になったの?」


すぐ隣から声がした。

驚いて顔を上げると、レイナが立っていた。

ミオは少し慌てる。


「あ、えっと……」


レイナは画面をのぞき込むでもなく、
ただ落ち着いた声で繰り返した。


「今、どこが引っかかった?」


責める感じはなかった。

確認でも、指導でもない。

ただ、本当に聞いているだけの声だった。

ミオは画面を見る。


「その……」


言葉を探す。


「前回と薬は同じなんですけど、量が少し変わってて」


レイナは小さくうなずく。


「うん」


「それで……前にも何回か変わってるなと思って」


ミオは薬歴を指で追う。


「増えて、戻って、また変わってて……」


レイナは黙って聞いている。

ミオは少しずつ続けた。


「大きくおかしいわけじゃないんです。
 ただ、患者さんも高齢だし、こういう細かい変更が続いてると、少し気になって……」


そこまで言ってから、ミオは自分で少し驚いた。

今までなら、こういう違和感は
頭の中でもっと曖昧なまま沈んでいた。


でも今日は、少しだけ言葉になった。

レイナはそのまま静かに言った。


「なるほどね」


それから画面を一緒に見ながら、穏やかに続ける。


「ミオちゃん、それ結構いろいろ見てるね」


ミオは戸惑う。


「え……?」


レイナは指を折るように言葉を並べた。


「前回処方を見てるでしょ。
 用量の変化も見てる。
 それが一回じゃなくて、何回か続いてることも拾ってる。
 しかも患者さんの年齢まで一緒に見てる」


ミオは何も言えなかった。

レイナは少しだけ笑う。


「それ、ただ止まってるんじゃなくて、ちゃんと情報拾ってるってことだよ」


その言葉が、静かに胸に落ちる。

情報を拾っている。

ミオはその言い方を、初めて聞いた気がした。


今まではいつも、

遅い。
迷ってる。
考えすぎ。


そういう言葉でしか自分を見てこなかった。

でもレイナは、違う言い方をする。


「ミオちゃんってさ」


レイナは画面を見たまま言う。


「見えすぎるから止まるんだと思う」


ミオは思わず顔を上げる。

見えすぎる。

その言葉は、少し意外で、

でも妙にしっくりきた。

レイナは続ける。


「私だったら多分、そこまで細かく追わずに進んじゃうと思う。
 でもミオちゃんは、変化とか違和感をちゃんと拾ってる」


それから少し間を置いて、やわらかく言った。


「立ち止まれるし、確認できるし、違和感も拾える」


一つずつ、言葉が置かれていく。

立ち止まれる。
確認できる。
違和感を拾える。


ミオは、その言葉を頭の中でゆっくりなぞった。

今まで不安だと思っていたものが、
少しずつ別の形に見えてくる。


レイナは教科書みたいな説明はしない。

ただ、ミオが言ったことを
別の名前で返してくれているだけだった。


でもその「別の名前」が、ミオには新しかった。


「ただね」


レイナが少しだけ首をかしげる。


「多分、全部見ようとするから止まりやすいんだと思う」


ミオは小さく息をのむ。

その言葉にも、心当たりがあった。

気になると、全部確認したくなる。


一つだけ見ればいい場面でも、つい他も見てしまう。
それで情報が増えて、余計に止まる。

レイナは言う。


「たぶん今は、見えてるものに優先順位がまだついてないんだよね」


その言葉で、霧が少し晴れるような感じがした。

見えていないわけじゃない。


むしろ、見えている。

ただ、見えたものを
どう整理していいかがまだ分からない。


だから止まる。

ミオは画面を見つめたまま、小さくつぶやいた。


「……私、ただ遅いわけじゃないのかも」


自分でも驚くくらい小さな声だった。

でも、確かに口から出た。

レイナはそれを聞いて、少しだけ笑った。


「うん。たぶんね」


それ以上は言わない。

その言い方が、かえって心地よかった。


無理に励ますわけでもなく、
大げさに褒めるわけでもない。


ただ、見えていたものに名前をつけてくれる。

それだけで、胸の奥にあった重たい塊が
少しだけ形を変えた気がした。


処方箋をもう一度見る。

前回処方。
用量の変化。
患者の年齢。
小さな違和感。


そこにあるものは同じなのに、
さっきまでとは少しだけ見え方が違う。


不安だから止まるんじゃない。

見えているものが多いから、

止まっていたのかもしれない。


その考えはまだ小さい。

でも確かに、
「優柔不断」という古いラベルの端を
少しだけはがし始めていた。

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