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日没のリインバース 第十八話 「邂逅」

「使者がお見えになりました」
 
 伝令役が扉をノックする。俺と親父は一瞬だけ顔を見合わせた。そして親父の低い声が響くと、戸が開き、使者が姿を現す。そして、俺たちを一瞥した後にすぐさま声を発した。

「よう。お主ら、時間がないんじゃろ?ワシらの提案はたったのふたつ。まずはシナン軍と同規模の戦力の提供じゃ」

 通された使者は道化師ではなかった。かといって死神でもない。黒いローブは相変わらだが、狐の面を被っており、身長が低い。見た目だけ見れば幼い印象を受ける。しかし、なんと言ってもその古風で艶のある声音に加え、ローブの間から垣間見える桜色の髪の毛がツインテールになっており、中身が女性であるとわかった。一瞬カンナを連想してしまう。
 
「貴様らの目的は?」

「折角の好意でワシが話を端折ってやっておるというに……まあよい。どうなってもワシには関係ないしの。ワシはツクヨミじゃ。涅槃ニッヴァーナの一員。ルナンとは長い長い付き合いなんじゃがな……お主らは知らんのか?」

 ルナン最高神の名前を騙るとは、不敬というべきか不遜というべきか……。親父もそのことに思い至っているようで怒りを隠しきれていないが、なんとか堪えている。俺たちが黙って首を横に振るとツクヨミは続けた。

「話にならんの。まあよい。目的じゃったか。単なる興味本位じゃよ。ワシらとしてはこんな片田舎の些細な戦、どちらが敗戦しようと構わん。じゃが、どちらがうまく使いこなすのかには興味がある。それだけのことよ」

 つまり、俺たちは実験台ということか。人の命をなんだと思っているんだ。いや、こいつらはきっとなんとも思っていない。15万人もの命、いやシナンの兵士も含めればそれ以上だ。それを単なる興味本位で……。いったいその興味のせいで何人が死んだと思ってる。俺は怒りが沸々と込み上げてくるのを必死になって抑え、平静を保とうと歯を食いしばり、硬く手を握りしめた。そして黙って2人のやり取りを聞く。

「対価はなんだ。タダでとは言うまい」

「対価か。とりあえず今お主が扱える資金を全て差し出せ。額はたかが知れておるがな。もしお主らが打ち破ったならば、あとで聖主のやつにでもタカれば良いじゃろ。あとの対価はもうひとつの提案に関係しておる」

 聖主陛下にタカると言ったのか?本気で言っているのだろうか。まあ、冗談を言うような連中ではないだろうが……。それにしてもズケズケとなんの配慮もない。本当に傲慢だ。

「分かった……それでもうひとつの提案というのは?」

「うむ。そこの坊主を涅槃に加える。対価はそれ以上不要じゃ。その分働いてもらうがの」

 俺はいまいち提案が飲み込めず、思わず眉根を寄せて考え込む。俺を涅槃に加える?一体どういうことだ?言葉の意味はわかる。だが全く理解はできない。疑問ばかりが頭を駆け抜けていく。どういう思考を経てもその結論には辿りつかない。

「バカな。トバリがなぜ貴様らなんぞに加わらねばならん?」

「お主が知る必要はないことじゃ。それと、もし断ると言うならこの話は無しじゃの。お主らの同胞に仲良く滅びてもらうのはもちろん、お主らもこの場で殺す」

 その「殺す」という言葉とともにツクヨミの魔力が解き放たれ、親父の顔にも困惑と驚きとが混じったような緊張が走った。確実に殺されると本能が脅威を知らせ、思考が一瞬停止する。それでも習慣的なものからか、俺と親父は魔法武器を手に持ち反射的に身構えていた。

「ほお。反応は悪くないの。取るに足らんがな。それで?答えはどうなんじゃ?お主が来るだけでよいなど、これ以上ない条件じゃと思うがな」

「貴様らに息子は渡せん。殺せると思うならばやってみるがいい」

 戦闘体制に入ろうとする親父を制して俺は叫ぶ。

「待て親父!俺は、いく」

 親父は驚きと怒りを滲ませつつ俺を睨みつける。狐の面を被った女はそれを手を組んで眺めていた。楽しんでいるに違いない。でも言うべきことは言わなくちゃならない。感情はもちろん否定しているが、この取引は確かに破格だ。俺一人が奴らの元へ行くだけで良いのだから。それに、奴らに接近できるまたとない機会とも言える。これは逆にチャンスでもあるのだ。仲間になるというのは最悪だが、カンナのことを知るには致し方ない部分もある。
 
「戯けたことを抜かすな。奴らは母さんの仇だぞ?お前の恋人の仇だろうが?」

それも事実だった。母さんは奴らの攻撃に巻き込まれて死んだ。カンナを誘き出すための空爆。暇つぶしや単なる興味本位で戦争をするような、あまりにも人の命を軽く見ている連中だ。それでも、俺はこいつらに接近するためだけに今まで軍人として生きてきた。それに……。

「だけど、俺が行かなくちゃみんな死ぬ。国のために命を張れといつも言っているのは親父だろ!」

「悪魔に魂を売るなど、ルナンの民としてあるまじき外道だ。お前がやろうとしていることは国への裏切り行為に他ならん!」

「このままじゃみんな死ぬんだぞ!俺は、俺にできることだったら、なんだってやってやる。悪魔に魂を売ってでも、救える命は救いたい。それに……」

 続けようとする俺の話を遮って親父は怒鳴った。

「バカが!まだ死ぬと決まったわけではない。ここに居るのは有能な兵士たちだ。奴らのカラクリもわかっている。この女狐を叩き斬り、シナンの猿どもを上回る策を練れば、この状況など打開できる。今までも幾多の窮地を乗り越えてきたのだ。お前の力など借りる必要はない」

 話が平行線になりかけている。この間にもシナンは刻一刻と迫っている。前線にいた兵士も壊滅し、空爆部隊も全滅。今までの敵とは訳が違うのだ。それに、この目の前の女……明らかに道化師や死神よりも格上だ。俺たち2人でも勝てる保証はない。いや、まず間違いなく殺されるだけだ。全てが瓦解するか、俺一人が奴らの元へ行くか。合理性で見れば明らかにも程がある。バカはどっちだ。そう言いたくなる。

「面倒じゃの。ワシを本当に叩き斬れるかどうか、軽く試してみるか?小童」

「そうだ……貴様を切り伏せれば全て済む話ではないか。一騎打ちをしろ」

「やめろ親父!」

 だが親父は話を聞くことなく、土の刀を抜き放って斬りかかった。とんでもない集中力から放たれる無駄のない美しい太刀筋だ。仮面の首を刎ね飛ばすようまっすぐに伸びる刀身が超越的スピードで迫る。俺の反応速度をはるかに凌駕している一閃だ。初めてみる親父の技。磨き抜かれた一撃。しかし、それは狐の面が生み出していた赤い扇によって容易く受け止められていた。魔法無力化すら使う必要がないとでも言うかのように。
 
「凡な者の剣にしてはなかなか良いの。じゃが……ワシには届かぬな」

 親父は声を張り上げながら第2、第3の太刀を見舞う。型通りではあるが、本当に美しく洗練された動きだ。威力も速度も凄まじいことは間近で見ていればわかる。型を知っている俺であっても決して受けきれない親父の本気。それでも、蝶のように舞う扇によって、それらの凄まじい剣技はことごとく弾かれていた。軽くあしらわれているようにしか見えない。それほどまでに実力差は歴然としていた。

「こんなところかの。少しは身の程を知れ」
 
 たったの一振りだった。俺には動きを目で追うことすら叶わなかった。凄まじい剣戟の間の刹那。弾かれた直後のほんのわずかな綻び。その1秒にも満たない時間で、親父の両手は切り取られ、魔力によって集められていた魔素たちが宙を舞っていた。親父は驚きに目を見張ったあと、すぐに顔をこわばらせ、蹴りを放つ。両手を失ってなお失わない闘志に脱帽せざるを得ない。しかし、それはあっけなく止められ、扇から生まれた風魔法によって投げ飛ばされた。親父はそれでも立ちあがろうとしている。

「もういい!やめろ!俺は行くと言っているだろ!ここで親父が死んだら何にもならない」

 俺は親父の前に走りでると、ツクヨミに向かって告げる。

「俺をさっさと連れて行ってくれ。俺はお前らに加わる」

「トバリ……恥を知れ……!」

「まあ、それ以外の選択肢はないじゃろ。行くぞ。ついて来い」

 ツクヨミがそう言うと次元の裂け目のようなものが出現した。これを潜れば、もう戻ることはできないだろう。でも、行くしかなかった。奴の言うとおり、選択肢などないのだ。親父もみんなも、ルナンだって俺が救ってみせる。どんな犠牲を払ってでも。
 
「待て!トバリ!」

「さよなら、親父」

 俺は呟いてゲートを潜った。その時、どうしようもない恐怖を感じて身がすくむ。自分の体が一度溶けてなくなった後に、もう一度生まれ直したような感覚だ。そして、その後に待っていたのは、奴らの住まう塔だった。

 ――

 もう戻れない。隊員たちにも、親父にも会うことは難しいだろう。だが未練はそこまでない。俺が軍にいた理由は奴らに近づくことだった。だからここでならハッキリするはずだ。彼女が最後に言いかけた言葉とその意味。そしてカンナは何者だったのか。もしかしたら何処かにまだ……それは希望的観測すぎるだろうか。

 俺は目の前に聳える塔を見上げる。その塔は塔と言うにはあまりに異形だった。高さはどれほどあるのか、少なくともルナンにはこの高さの建造物は存在していない。一階層目の直径は、視界では捉えきれないほど大きい。こんなものが世界のどこかにあるなど聞いたことはない。世界中どこへでも人類が行ける時代で、この異様な建物が見つからないなどということがありうるのだろうか。そんな疑問が一瞬で脳裏を掠めつつ、奴らに関して考えても、考えるだけ無駄だと思い直す。そんなことよりも現実と向き合わなくてはならない。俺はこれからどうなるのだろうか。歩き出す小さな背中を追いかけて話しかける。

「親父たちの元に、支援はされるんだよな?」

「ああ。そうじゃの。援軍がすぐ到着するじゃろ。まあ、生き残れるかはあやつら次第じゃな」

 あまりにもことが速すぎる。前もってここまで想定済みと言ったところだろう。だが、選択肢を突きつけているようでいて、そんなものは最初からない。全て奴らの手の平の上なのだから。

「どうせ軍の上層部にでもすでに話は通してあったんだろ」

「ああ、もっと上位の連中に話はとっくにつけてある。ま、ワシが出向いたのも出来レースじゃな」

「そんなところだろうな……それと、なぜ俺がお前たちに招かれた?」

「それは中で話す」

 その後は黙ってひた歩き、巨大な門の前に着いた。ツクヨミが手をかざすと門はひとりでに開き始める。魔法を使ったようにも見えなかったが、もはや受け入れるしかないと諦めた。俺は異形の建物へと足を踏み入れる。

 それと、同時に天井に埋められた光の魔晶石が輝きを灯し、内装が顕になった。外見の仰々しさとは打って変わって、列強諸国にあるという城のような内装だ。秩序だった柱の連なりと、突き抜けるような階段。置かれている多くの高級感漂うソファやテーブル。大理石の床に赤い絨毯。広大すぎて全ては把握できないが、パッと見ただけでも洗練されたセンスを感じる。俺は彼女の後をついて階段の横を通り抜けると、扉がいくつかあり、扉の上部には魔法陣が光っている。

「俺たちはどこへ向かっているんだ?」

「会議室にて涅槃の数名が集まっておる。そこでお主にも諸々を伝えるというわけじゃな。全く。ワシが出向くことになるとは思わなんだが、まあ今回ばかりは仕方がないの」

「わかった……その部屋というのはこの扉の先というわけか」

「何を馬鹿な……ああ、エレベーターなぞ知らぬか。とりあえず乗れ。この箱で八十階層までいく」

 扉の先は小さめの部屋が1つあり、扉のそばにある壁には、魔法陣に加えて六十一から八十の範囲で数字が記されている。スイッチのようになっているらしく、ツクヨミが八十の場所にある魔法陣へと魔力を流すと同時に、この部屋自体が急速に上昇していくのが肌で感じられた。意味がわからないことばかりだが、既に慣れてきつつあるのが恐ろしい。そして、俺の乗る小部屋が動きを止めて扉が開いた。

「さ、着いたぞ。お主の見知った顔もいるじゃろうて」

 円卓が置かれた大部屋。そこには数人の黒ローブの連中が既に椅子に腰掛けていた。道化師と死神、それに加えて見知らぬ仮面の人物が2人。一人は黄色く太陽が描かれた仮面、もう一人は十字架の仮面だ。太陽はつまらなさげに卓上に頬杖をついており、十字架は腕を組んで姿勢良く座っている。

「ほれ、連れてきてやったぞ。小僧、名乗れ」

 そう言うとツクヨミは俺を残して、奥の空いている席にどさと腰掛けた。とりあえず名乗るべきだろうな。それにしてもなんという圧だろうか。緊張を振り切るようにハッキリと告げる。
 
「長月トバリだ。だが、なぜ呼ばれたのかすらわかっていない」

「どうもどうもトバリさん!先日は楽しかったですねぇ。またお会いできて嬉しいですよ。実のところアナタにきてもらうのは、ワタシが提案したんです。それもそのはず、どうやらアナタは涅槃に入る資格がありそうなんでねぇ。ロンギヌス、使っていたでしょう?」

 その言葉を聞いて少し考える。ロンギヌスは単なるブラフだったとここで明かしてもいいだろうか。あの魔法が涅槃に入るための基準になるものだとすれば、俺はその資格など持っていないことになる。そしてここは敵地であり、資格なきものは死ぬことになるだろう。ここで俺が選択したのは沈黙だ。おそらく道化は色々と話したがるだろう。俺が発言するにしても、まだ出ている情報が少なすぎる。
 
「……ふむふむ。話したくない、と。今更今更ムダですけれどもねぇ。サリエルさんとワタシはハッキリ見ましたから。あれはすなわちアナタがアカシックレコードにアクセスしたことがあるという紛れもない証拠でしょう。だからこうしてお呼びたてしたわけです。わざわざわざわざ」
 
「ワシの推測じゃが、この小僧はまだアクセスしたことはないぞ。此奴の男親の腕をぶった斬ったんじゃが、反応できてすらおらんかったしな。それに、ログに残っておらんじゃろ」

「ワタシのことはどうかジョジョとお呼びくださいツクヨミさん!まあ、おっしゃる通りでそれはそうなんですよねぇ。ロンギヌスだけを使えたというのはおかしいと言えばおかしい。我々と戦った時も光魔法と闇魔法を両方使用できていたことや、アンダカさんの武器を使っていたことくらいしか特別なところはなかったですし」

 早速ボロが出てきたようだ。下手に隠し立てするよりは先手を打つ方がいいかもしれない。
 
「いいか、はっきり言おう。ロンギヌスとか言ったか。あれはハッタリだった。前に見たことがあったから、形だけを真似して生み出した紛い物だ」

 道化師はあからさまに驚いた素振りをして椅子を蹴飛ばし立ち上がっているが、他の面々は特段のリアクションもない。おそらく過去にもこの道化師が同じようなミスをしたのだろうなと想像される。

「ま、そんなところじゃろうな。大方、アンダカが死んだ時に居合わせたんじゃろ。ワシのバカな娘子が使ったのはハッキリしておるし。それくらい予想済みじゃからわざわざワシが出向いたんじゃ」

「ああ、そんな!まさかのよもや!ワタシの勘違いということですか?なんとなんと」
 
「落ち着け道化。だがな、こやつにはアクセスコードが刻まれておるはずじゃ。お主、カンナと交わったじゃろ?」
 
 娘……?と言うことはカンナの母親?呆けてなんの言葉も出せずにいると道化師が楽しそうに口を挟む。
 
「なんとなんと!であれば!でしたら!ワタシの見る目に狂いはなかったわけですねぇ!それどころか想像よりも面白い展開です。ああ愉悦愉悦!」

「うるさいぞ道化。まあ答えんとも良いわ。闇魔法の使い手で光魔法が使えるなど涅槃の者以外で例はないからな。十中八九混ざっておるよ。よもやカンナの魔力が馴染んでおるのは驚きじゃがな」

 黙っているうちに話がどんどん進んでいく。こいつらの話はいつもこうだ。心の奥に浮かんだ一番の疑問を口にする。こいつらはきっと知っている。その確信があった。

「カンナは……生きて、いるのか?」
 
 一番知りたかったこと。あの日、空に散っていった彼女は二度と姿を表さなかった。俺はずっとその後を追ってきた。気がついたからだ。彼女がいない世界では、生きている意味がほとんどないのだと。魔法学者になりたかったのも、結局はカンナに認めてほしかったからだ。ただ褒められたかった過去の延長に過ぎなかったのだと、いなくなって実感した。あれだけ興味のあった勉強への熱意もまるっきり消えた。あるのは喪失感や虚無感とでも呼べる感覚だけ。魔素はほとんど揺れなくなった。外部へ反応するための器官か何かがすっぽりと抜け落ちたように。彼女の残した言葉だけを頼りに、ただ強さだけを欲して、人を殺して、この5年は生きてきた。真相を突き止めるために。

「死んだ。だが、他の世界では生きているとも言える」

「どういう意味だ?」

「どこから説明すべきか難しい問題じゃな。とりあえずアクセスすれば自分で疑問は解けるじゃろ。やり方を教えてやる」

「そうそう!今までの疑問がぱあーっと吹き飛びますよ!そして我々の仲間となるわけです。晴れてね!」

 アカシックレコード。この世の法則だとか言っていたか。本当に俺にそんな力があるのか?

「なに、簡単じゃよ。お主の魔力には特殊なコードが埋め込まれておるからな。目を閉じて、魔力を臍下丹田に集めるだけじゃ。そうすると全身が魔素の揺らぎに段々と飲み込まれる。その先にあるのがアカシックレコードじゃ。一度接続さえしてしまえば、自分で切らん限りはいつでも繋がれる」

「最初だけ難しいんですよねぇ。とてもとても。おひとりの方がやりやすいでしょうし、ゲストルームを使っていただいてはどうですか?」

「そんな必要があるか?一瞬でできたがの?」

「それはツクヨミさんだけですよ。最初は何時間、下手すれば何日間か迷走して瞑想し続けるんですから。でしょうみなさん??」

「俺様はイージーだったぜ。雑魚には難しいかもしれんがな」

「法への接触は神聖なる儀式であり神との謁見。ゆえに一日は与えても良いかと思います。それで無理ならば使徒たる資格なしとして断罪しましょう」

 太陽、十字架が会話に加わる。どうやらできなければ”断罪”されるらしい。とにかく試してみるしかない。いったいどんなものなのかは全く理解できていないが。

「まあなんでも良いんじゃが、とりあえず今日一日かの。明日の朝までで12時間ほどか。それで無理ならば死んでもらう。仮にも娘子が見そめた男じゃし大丈夫じゃと思うがな」

「なかなかに皆さま手厳しいですねぇ。まあ仕方ありませんか。ではお部屋へはワタシが案内しましょう」

 そう言って立ち上がった道化師に案内されて、エレベーターとやらで六十五階層に下ろされると、そこには大きな部屋が用意されていた。

 「では、明朝お迎えにあがります!それまでにアクセスしてくださいねぇ。殺さなくてはならなくなりますから。誠に誠に残念ながら。やり方は先ほどツクヨミさんが言っていた通り。まずは魔力を一点へと集中させてください。最初は手なんかがやりやすいでしょうねぇ。その感覚を丹田で行うだけです。まあ簡単簡単。アナタならきっとできますとも!保証は致しませんがね」

「とにかくやってやる。もしできなければ俺は死んで、ルナンはどうなる?お前らの援軍や技術提供は受けられるのか?」

「ああ、ルナンですか。まあ、敗戦して多くの死者が出るでしょうねぇ。アナタがもし涅槃に入れればその限りではないでしょうが。ま、そんなことは今考えるだけ無駄でしょう。失望させないでくださいよ」

 道化師の声音が厳しいものになる。ルナンの動向などには心底興味がないのかもしれない。だが、俺がうまくやればルナンを守ることに少しの可能性はあるらしい。それよりも俺は死ぬことになるわけだが。どちらにせよやるしか選択肢はない。こいつらの力の秘密がわかれば何かしらの機会は得られるだろう。

「わかった。もう出ていってくれて構わない。時間もあまりないしな」

「ええ。それじゃあ、楽しみにしておりますよ。ふふふふ」

 歩き去っていく姿を見送って、俺は一人高級感のある部屋で座禅を組む。魔法の修行を思い出すな。魔力を扱うのには慣れてきた自負がある。なんとかやってみせる。そうして魔力を指に集中することから始めたのだった。

 


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