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「茹でガエル」のまま死んでいいのか?~スタートアップと大企業、VC不在と上場、私企業と公的機関、日本と世界を繋ぐ舞台裏~

スタートアップ企業の成功に、VCの存在は不可欠ですか?
スタートアップ企業のライフサイクルは、起業→早期IPOがベストですか?
そもそも日本のスタートアップ企業が単独で大きな成功を収め、高い流動性で上場維持が可能なスペースは十分ですか?
死ぬ前に人生を振り返ったときに、「シェア争いで勝った!」「金持ちになれた!」で笑って死ねますか?


私は「すべてNo」だと思う

私は普段、公の場で特定のスタンスをとりません。
大きな主語で語ることもしません。
Xも公式発信偏重で、リプ欄も限定し、DMもみません。
常に予防線を張ったコミュニケーションをとっています。
得るものよりも、失うものの方が大きいからです。
大企業の権化である金融機関の中でうまく生存するために、角を矯めて(丸めて)きたキャリアも大きく影響しています。

そんな私ですが、今日は皆さんにお伝えしたいことがあり、筆を執っています。
トランプ関税でマクロ経済の前提は大きく崩れ、
東証グロース市場の上場維持基準は大きく見直され、
国内外のFinTech企業の多くは金融機関の傘下に入り、
AI Agentの商用化により”面取り合戦”の競争条件は大きく変化、
そんな中でも「重要インフラとルール」を海外が握っている構造は変わるどころかますます不可逆になり、
「茹でガエル」が如く衰退市場とともに緩やかに死んでいく。

客観的に考えれば考えるほど、日本人としての未来に希望が持ちづらい。

だからこそ、
「こんな考え方をもった奴もいる」
「この男程度でもこんなことができるなら、自分にもできるに違いない」

と知ってほしい。

冒頭のそぼぎ(素朴な疑問)に戻ると、私は
VC不在の方が成功できるスタートアップ企業は、いる。」
起業→早期IPO以外の選択肢は、ある。」
"重い産業"を動かせば、大きなインパクトは残せる。」
今日よりも明日はもっと良くなる!と思いながら死にたい。」
と思っています。

表向きの小綺麗な話ではなく、これまであまり語ってこなかった本音や失敗談も含めて、「なぜ、そう思うに至ったか?」についてお話しさせてください。
長くなりますが、最後にどんでん返しもありますので、お付き合いいただけると嬉しいです。



まず、お前は「何者」か?

前置きが長くなりました。
私はプログラマブルな信頼を共創したい、Progmat, Inc.(プログマ)代表の齊藤と申します。

Progmatは、新しいグローバル金融のインフラを創っている集団です。
2023年10月に創業、設立から1.5年が経過し、業務委託メンバーを含めて30名弱のスタートアップ企業です。

2025年4月、資金調達(プレシリーズA・1st Close)を実施しました。
金額は非公表ですが、株主構成/出資比率は開示している珍しい会社です。
(といっても官報で決算公告は出していますので、数か月後に調べれば調達規模も推測可能なのですが)

株主構成/出資比率を開示しているのは意味があります。

  • 株主はキャピタルゲイン目的のVCではなく、「市場共創パートナー」として戦略目的で出資いただいている金融機関/事業会社です。

  • 筆頭株主のMUFG(三菱UFJ信託銀行)の出資比率は設立時でも上限49%(連結子会社に該当しない水準)、今回の資金調達を経て42%に低下、今後のラウンドで比率は更に下がっていきます。

  • MUFG以外の各社持株数も、特定の色がつかない「中立性」を担保するバランスにしています。

  • 特に、3メガバンクグループや農林中金グループを含む、信託ライセンスを有する銀行各社が名を連ねているスタートアップは唯一無二です。

  • 日本取引所グループ(JPX)と並んでSBIさんのロゴがありますが、「大阪デジタルエクスチェンジ(PTS)」の持株会社である「SBI PTSホールディングス」であり、証券会社としてのSBI証券ではありません。(現時点では、あえて特定の証券会社から出資いただいていません

  • 全役職員向けにストックオプションを付与しています。

元々私はMUFGの人間でしたが、出向でも転籍でもありません
Progmatの設立にあたり、自らの希望=自己都合(退職金半減!)で退職した、後ろ盾のない一スタートアップの人間です。


キャリアの失敗と「捲土重来」

捲土重来は「一度勢いの衰えた者が、後々勢力を取り戻して巻き返す事」を意味する四字熟語だ。
捲土は砂ぼこりが巻き上がる様を、重来は一度収まった・過ぎ去ったものが再びやって来る事を表す。
人間の生き様や振る舞いを砂嵐になぞらえて表現したものである。

Weblio辞書「捲土重来(けんどちょうらい)」

スタートアップとしてはあまり類を見ない形態、大企業社員/銀行員としてもあまり類を見ないセカンドキャリアの人間ですが、ここに至る道は決して平坦なものではありませんでした。

私は若手銀行員時代に二度ほど「×」をもらっています。
銀行の人事制度はなぜか皆さんお好きなのでご存じだと思いますが、一度の「×」ならまだしも、複数の「×」をくらうと一般的には「終わり」です。

事実、私は同期と比べて昇格も遅れました。花形部署の最前線からも外されました。大企業に入社した方なら誰しも、特に若い頃は同期の中での相対的なポジショニングを意識していたと思いますが、当時の私のプライドはズタズタでした。
あまりに悔しくてトイレで声を殺して泣いていたのを今でも憶えています。
20代半ば頃の、”まだ何者にもなれていない”時代です。

もちろん、辞めようと考えました。どうせ社長になれる可能性がないのなら、会社に留まって努力する意味がどこにあるのか、当時は全くわからなかったからです。

そんなときに、とある大先輩からもらった言葉が「捲土重来」です。
転ぶことは誰でもあるし、運もある」
「ただし起き上がるかどうかは運ではなく意志、お前はどうする」
というメッセージでした。
当時の私を突き動かしたのは、理想論や未来観といったポジティブな感情ではなく、「いまに見てろ…」という怒りにも似た感情でした。

元々ストイックな性格で猛烈に働くタイプではありましたが、更に輪をかけて目の前の仕事で「比肩する者がいないレベルで圧倒する」ことを徹底するようになります。


2つの「ターンアラウンド」

結果として、”禊を終える”ために配属されたバックオフィスで、多くの経験と人生の転機を掴むことになります。

ミッションは、150名ほどのバックオフィスの立て直しでした。部長直下、使えるリソースはエンジニア1名、という本業事務ですらないアドホックな仕事なわけですが、「部署=1つの中小企業」「部長=中小企業の社長」「自分=ターンアラウンドの密命を受けて派遣されたコンサル」と勝手に自分の中でマインドセットを作り上げることで、異様なモチベーションでこの仕事に取り組みました。

それまで金融知識や法人営業一辺倒だったのですが、”ターンアラウンド”を成すために、経営論や組織論、ナレッジマネジメントやリスクマネジメント、ITエンジニアリングやプロジェクトマネジメントといった知識を貪るようにインプットし、現場で即実践するという貴重な経験を積むことができました。これまで無駄としか考えていなかった、銀行内の規則規程といった文書体系、表彰制度や評価基準、予算が決まっていくプロセスや勝ち取るロジック、といった”ゲームのルール”を把握していったのもこの頃です。

約2年に亘る部署の皆さんのご理解とご協力が奏功し、このバックオフィスは毎期社内表彰を獲れるまでに”ターンアラウンド”しました。

ここでの仕事を全社に横展開していくにあたり、新たに立ち上がったIT企画部署のスターティングメンバーとして呼んでいただいたことで、私のキャリアは「企画職」に転じることになります。


スタートアップ界隈のキラキラ感への羨望と「生存戦略」

この時点で2015年~2016年で、金融業界では「FinTech」が流行り言葉となり、AI(当時は機械学習中心)やブロックチェーンを武器とした数多くのスタートアップ企業が勃興していました。
金融機関の中の人々は、機会と脅威の両面で注視し、スタンスを見極めているような状況です。

私は「チャンスだ」と思いました。
キャリア的に既に失敗し、失うものは特にない私が、大きく挽回できるとしたらこれしかない。社内に誰も有識者がいない分野であれば、少なくとも社内では唯一無二の存在になれるかもしれない、という思惑です。

アサインされたプロジェクトは選り好みせず徳を積み、社内の信頼残高を十分に高めたうえで、手を挙げてシリコンバレー視察の機会を得ます。そして視察レポートの勢いのままに「FinTech専門部署の設立と全社的なPDCA運営」を提言するに至ります。
そして2016年12月に「FinTech推進室」を設立していただき、1人目の専任担当者に就いたのでした。

この過程で私の心の中にあった本音は、焦燥感でした。
「これからの銀行が生き残っていくためには!」といった高尚な焦りではありません。社外で大活躍する、同年代のスタートアップ社長の圧倒的強者感に対する、”まだ何者でもない自分”への劣等感です。

「今さら純粋なスタートアップの世界では勝てない自分が、大企業の中でキャリアを積んできたという”違い”を武器に変えられないか…?

そんな生存戦略として編み出した苦肉の仮説が、「イノベーション=クリエーション×オペレーション」という分解式だったのです。


「逆張り」のイノベーション

新事業あるあるの1つに、「アイディアソン」や「新事業提案制度」があります。だいたいコンペの末に担当役員がGo/No Goを決めるアレです。

正直にいって、私はこの営みに大きな違和感がありました。
というのも、この手のやつで「優勝」以上に大きなインパクトを残した事例が全然無かったからです。
率直にいえば、”イノベーションごっこ”だな、と感じていました。

この違和感をヒントに、では何が不足しているのか?を言語化してみたのが次の分解式です。

つまり、「オペレーション」の理解と掛け合わせが甘い。
「クリエーション」は華々しく・面白く・飛びつきやすいが、「オペレーション」は地味で・つまらなく・調整が面倒くさい。「オペレーション」だけでは現状の延長線上の未来しかないが、「クリエーション」だけでも結局何も成せない。
前述のバックオフィスでのターンアラウンド経験や、企画部署でのプロジェクト経験から、自分の中では非常に腹落ち感がありました。

この式を起点に、思考を進めます。
それぞれの要素の担い手が誰か?によって、4象限(実質3象限)のアプローチに分解できます。

ここで肝になるのは「オペレーションの担い手」です。
「クリエーション」も「オペレーション」も小組織で完結するパターンは、特段論点がありません。「起業せよ、以上。」です。
「オペレーションの担い手」に大組織が絡むパターンでは、変数も論点も多くなります。あえてこのアプローチを採る理由がなければ、わざわざ選択しないでしょう。

そこで冒頭のそぼき/伏線の1つでもある、「そもそも日本のスタートアップ企業が単独で大きな成功を収め、高い流動性で上場維持が可能なスペースは十分ですか?」の問いが重要になります。

どこで戦うか?(=どこで戦わないか?)の戦略を考えるうえで、2つの軸が重要だと考えています。

  • 「インパクト/モメンタム」の大小

  • 「既存構造/レガシー/慣性」の大小

1点目は前述のイノベーションの定義式のとおりです。
ややユニークかもしれないのが、2点目の「慣性」の方です。
物理法則と同様、ビジネスの世界でも「現状を踏襲し変化を嫌う力」を感じることはありませんか?スタートアップの中にいると感じづらいと思いますが、大企業や公共機関の中で働く皆さんは毎日悩まされていると思います。
ソレです。(もっとも、後者はポジティブにいえば「安定している」ともいえるのですが)

この組み合わせにより、4象限の領域に分解できます。

2016年から続く私の仮説は、最も美味しい”ホワイトスペース”(インパクトが大きく、慣性が小さい)は、もう食い尽くされてしまっているのでは?ということでした。典型的にはインターネット勃興期や、モバイルアプリ勃興期における、Web/アプリを起点にスケールが可能なB2CやC2Cビジネスです。

だとすると、選択肢は「ニッチ/ローカル」か「重い産業」かの2択で、イノベーション≒大きな変化を起こせるのは、後者しかないと考えました。
「重い産業」を動かすことは、すなわちこの産業の中の「既存の存在」である大組織や行政を巻き込むこと(大きな構造変革)と同義です。

これを踏まえて、先ほどのアプローチパターンのマトリクスに戻ります。
「オペレーションの担い手」は大組織だとすると、選択肢は「クリエーションの担い手」をどちらが担うか?です。

「大企業の中でキャリアを積んできたという”違い”を武器に代えられないか…?」という問いに戻ると、大企業内でクリエーションの旗振りをしていた当時の私のポジショントークは明らかです。
「クリエーションも大組織内で担った方が、実は近道である」という逆説を証明する。それが”何者か”になるための存在証明でした。


「重い組織」を動かす

産業を動かすということは、構成員である組織を動かすということです。
組織を動かす力学を考えるうえで、2つの軸が重要だと考えています。

  • 「組織的な慣性(前例踏襲度)」の大小

  • 「意思決定のドライバー/感応度」の違い

1点目は前述のとおりです。
2点目を言い換えると、「リスク回避的」か「チャンス選好的」かの違いです。失うものの大きさにより、2つのパターンに分かれます。

つまり、重い産業≒重い組織を動かすためには、「リスク回避の力学」と「組織的な慣性の力学」をハックすることが有効です。
(一般的なスタートアップやキャリア失敗済みの私は、相対的に失うものが少ないので、「チャンス選好的」かつ「慣性も小さい」といえます)

この力学を理解したうえで、組織を巻き込んでいくストーリーを考えます。
新事業担当組織では、「これまでのわが社にはない、斬新な事業アイディアを出せ」とか「●年後に●●億円儲かる事業はなにか」という発破がかけられがちですが、私は別のアプローチを採りました。

というのも、上記のような掛け声を信じて取り組んだ結果、「わが社がやる意義は何か?」とか「●●億円儲かる根拠は何か?」的な正反対の声が出てきて、着手さえできず潰されるのが心底ムダだと思うからです。

私は逆、つまり「既存事業から近い」かつ「儲かるではなく、やらないと損する」という領域だけを選択してきました。「何もしないと、足許が脅かされますよ」という切迫感は、「リスク回避的」な大組織に対しては取り組む意義として有効です。これを「機会費用(将来逸失費用)」といいます。

「機会費用」は大きければ大きいほど有効です。
失うかもしれないものを大きく見せるうえでは、できるだけ視野を広げ、時間軸を長くとり、全体像を大きくとらえて意義を語る必要があります。これを「着眼大局」といいます。

取り組む意義の理解は得られたとして、ここから実際に動かしていくうえでもう1つ重要な概念が「サンクコスト(回収不可費用)」です。
基本的に「現状を踏襲し変化を嫌う力」が強い大組織において、動き出しのエネルギーが高すぎると、梃子でも動きません。「どうなるかわかりませんが、100億円と10年の投資が必要です」と言われて、Goの判断をしろという方が酷かもしれません。(サンクコストとして100億円と10年が費消されることが今確定するからです)

そこで、まずフェーズを細かく切って小さな仮説の検証を目的とすると、判断しやすい(決裁レベルも低い)投資の形に変換できます。これを「着手小局」といいます。(経済理論っぽくカタカナでいうと、リアル・オプションを持たせる、ともいえます)

いざ始まると、今度はなかなか止まらないのも「組織的な慣性」の力です。小刻みに「既成事実」を積み上げていくと、今度は「サンクコスト」が大きくなっていきます。ここまで来てやめると「サンクコスト分を取り戻せる可能性はゼロ」ですが、先に進めると「取り戻せる可能性はゼロではない」ため、組織内で”実質的に不可逆”な状況を創り出すことが可能です。
着手前の状況と比較すると、プロジェクト推進者が有している交渉力や動員力は桁違いとなります。

このような芸当は、大組織内の”ゲームのルール”に精通し、意思決定プロセスに直接関与できる立場の方がコントローラブルです。
「大組織内変革は、近道だが、コツもいる」というわけです。


「重い産業」を動かす

ここまでは、とある産業の中の、特定の私企業の中の、一新事業の話です。
更に視座を上げて、社会の構造/仕組みを俯瞰的にレイヤーで捉えると、以下のように分解することが可能です。

”最上層”である私企業の特徴として、日々顧客と直接対峙しているため、解像度を高く保つことができます。高い解像度に基づき、自社のサービス/チャネルを直接改善することもでき、コントローラビリティも高いといえます。
ただし影響範囲は自社の経済圏に限定され、構造/仕組み自体を全面的に変えることはできない歯がゆさがあります。影響範囲を広げるには如何に広く面(顧客接点)を取れるかの勝負となり、競合他社とのシェア競争は意識せざるを得ません。

では”下層”はどうでしょうか。構造/仕組みに広く影響を及ぼすことができるのが、公的機関(が定めて執行するルール)です。
ただしビジネスにおいては顧客から遠く、各私企業が提供するサービス/チャネルを直接変更できるわけでもないため、あくまで間接的なコントロールしかできない歯がゆさがあります。

というわけで、構造/仕組みを変える観点でバランスがいいと信じているのが、「業界団体/企業間連携」「金融制度/インフラ」のレイヤーです。
実は新卒で入社した「信託銀行」をはじめ、就職活動で希望していたのは「東京証券取引所」や「日本政策投資銀行」等で、金融の中でも”インフラ”として公的な顔を持っている組織に惹かれたのも、同じ理由からです。

ITでいえば、2010年代なら「クラウド」(AWS等)、2020年代なら「LLM」(OpenAI等)が相当するでしょう。日本の私企業の大多数は”最上層”のレイヤーで事業を行っていますが、例えばAWSやOpenAIが仕様変更を行う場合は取り込まざるを得ず、マクロ環境変化を理由にチャージ金額が2倍になる場合も追従せざるを得ないのではないでしょうか。実態として「デファクトスタンダード」は海外のインフラ企業が握っている、まさに”デジタル小作人”と呼ばれる状況かと思います。

というわけで、私企業の範囲を超えて産業を動かすには、「業界団体/企業間連携」and/or「金融制度/インフラ」のレイヤーをおさえることが有効です。


Progmatという「実践」

ここまでの思想的背景を踏まえて、2016年12月の「FinTech推進室設立」から2023年10月の「Progmat, Inc.独立」までの約7年に亘る実践と学びをギュッとハイライトします。

まず、2016年におけるFinTechの要素技術の1つにブロックチェーン(トークン化)がありましたが、その本質は金融のアップデートであり、重い産業の代表例である金融業界を動かす必要があるのでは?という仮説を立てました。

大組織であるMUFG、その中でも特に保守的な向きが強い信託銀行の中を動かすために、レゾンデートルである「”信託”が代替されるリスクがある」「だが今ならまだ間に合う」というナラティブを形成しました。

ブロックチェーンはつまるところ台帳技術の1つですが、信託の本質も台帳管理です。例えば皆さんに最もなじみのある台帳は「株主名簿」だと思いますが、上場株式の名簿管理人は信託銀行です。
「着眼大局」の観点からは、既存金融商品における信託銀行のポジションが代替され得ること、台帳管理に加えて決済プロセスもブロックチェーンに代替することで新たな金融商品を生み出せる可能性も探求できること、の2点を主張しました。

「着手小局」の観点からは、着手時点でROI(投資対効果)をコミットする必要のない予算枠を新設し、この枠組みの中でPoC(概念実証)として既成事実を積み上げていく営みを常態化しました。
”中の人”だからできる、ゲームのルール自体をハックする動きです。

「組織的な慣性」もさることながら、実際に誰よりも解像度が高まっていくことで、社内外からの信頼残高や交渉力/動員力を獲得することにも繋がりました。

こうして、まずはMUFGの中で「Progmat」というブランド/インフラを徐々に形作っていき、2022年春にかけてスコープを「資産→ST」「権利→UT」「決済手段→SC」と矢継ぎ早に拡大/公表することで、「インフラレイヤー」として影響範囲を広げる動きを社内外に対して示していきました。
Progmatのブランドカラーが当初から「青」だったのも、私企業であるMUFG(赤い銀行)の一サービスでは終わらない覚悟があったためです。

また、「業界団体/企業間連携レイヤー」として、コンソーシアムの枠組みを用意しました。20社でスタートし、2022年春時点で設立時の5倍となる100社規模まで拡大しています。
(直近では、15倍となる300社規模まで拡大しています)

このような影響範囲を広げる営みの裏で、最も避けなければならないリスクシナリオが、「インフラ/経済圏の分断」です。こうなってしまうと、インフラでありながら実質的に私企業の範囲しか影響力を行使することができず、全体的な構造/仕組みを変えることはできなくなります。

そして実際、金融市場においては資本系列によって分断が起きてきた歴史があり、これを繰り返すと市場関係者は全員損をすることが明らかでした。

そこで2022年春頃から動き出したのが、”MUFG以外”の競合他社とのJVの形でProgmatを独立会社化する合従連衡策通称「Project Renacer」(レナセール、スペイン語で”生まれ変わる”の意味)です。

重い産業の大組織同士の合従連衡において、やはり意識すべきは「リスク回避の力学」です。提案のタイミングが早すぎると不確実性が高すぎて乗れないですし、逆に遅すぎると既に自社内で一定の投資を実行済みで、サンクコストが高すぎて今さら捨てられない、となってしまいます。

先駆的にST発行実績を積み上げつつ、矢継ぎ早にUTやSCのプロダクトをリリースしDCCを拡大したのは、MUFG内の「組織的な慣性」を強める以外にも狙いがありました。
それが、MUFG先行のシグナリングにより、競合他社による投資=サンクコストを極力発生させずに、不確実性を下げて、意思決定タイミングを早期化することです。3メガ+三井住友信託銀行の4社の座組みを核とすることで、途中離脱した場合の機会費用も大きく見える構造でもありました。各社のサンクコストが高まってしまう前に、ベストなタイミングを創り出したといえます。

約1年半のプロジェクト期間を経て、当初目標である2023年10月に無事設立に至ったのが、Progmatという「ナショナルインフラ」提供会社です。


「VC不在」で上場(公開企業化)する意味

今回の資金調達(プレシリーズA・1st Close)の概要で簡単に触れたとおり、Progmatは「VC不在のスタートアップ」で、「全メンバーにストックオプションを付与」しているとおり「JVだが上場前提」という、なかなか珍しい戦い方を選択しています。当然、狙い/背景思想があります。

まず、対峙しているのが「グローバル金融市場のアップデート」という、世界で最も重く、巨大な産業です。この市場でインフラを構築していく過程は非常に複雑かつ困難で、一朝一夕で動くようなものではありません。

ただし、「あらゆる価値を摩擦なく流動的にする」潮流自体は、歴史的に必然の流れです。ブロックチェーンをはじめとした技術革新を金融インフラに取り込む動きは不可逆で、確実に来る未来です。

つまり、非常に長期的な視座から、短期的な不確実性や経済条件に振り回されず、着実にインフラを拡大していく姿勢が不可欠です。

あらゆる価値が摩擦なく流動的になった世界とは、どんな世界でしょうか?
一言でいえば、「価値の自動運転」が当たり前の世界です。
自動運転に不可欠な要素として、規制に準拠した形でのP2P(Player-to-Player)間の直接的な価値移転が挙げられます。そして、Playerが人間とは限らない(=プログラムであるAI Agent)世界は、未来ではなくすでに現実のものになってきています。

つまり、インフラの利用者/受益者は、最終的に世界中の個人/プログラムとなり、プログラマビリティと共に高い公共性や透明性、検証可能性や説明責任を負うことが不可欠です。

Progmatはインフラとして必要な要素を、すべて自前で開発/提供するのがベストでしょうか?

前述の「影響範囲の広さ」の観点から、上に載っているエコシステムの総和が最大化するように複数のブロックチェーンに対応しています。チェーン間を連携する力がKSF(Key Success Factor)となるため、Datachain社を株主兼パートナーとしてお迎えし、一体で取り組んでいます。

運用基盤(クラウド)レイヤーも、金融業務用の品質と規模の経済がKSFとなるため、NTTデータ社を株主兼パートナーとしてお迎えし、一体で取り組んでいます。

つまり、自社の開発リソースは、ノウハウが最も活き差別化要素となるアプリケーションレイヤー(Dapps)に集中しています。

これらの前提を踏まえ、組織構成/メンバー要件は以下のように考えています。

  • 数千名、数百名、といった大規模なヘッドカウントを要さない

  • 希少なノウハウを蓄積し、唯一無二/代替不可能なメンバーの存在が不可欠

  • 様々なステークホルダー/パートナーと深い関係性を築き、高い連携力を発揮することが不可欠

  • 出向者寄り合いの組織ではなく、プロパー採用が前提

つまり、「少数精鋭メンバー」の「長期コミット」を志向しています。

ここまでの前提/背景思想を踏まえ、そぼぎへの回答です。

Q「スタートアップなのに、なぜVCがいないのか?」

  • 短期的な不確実性や経済条件による意思決定の歪みをなくしたいため、ファンド期限やキャピタルゲインを意識せざるをえない株主は、お互いに不幸になると考えるためです。

  • 長期的な視野と着実なインフラ構築という意味で、インフラ利用者/受益者やパートナー企業による、戦略的出資の方が適切だと判断しています。

Q「VCがいないJVなのに、なぜ上場が前提なのか?」

  • 利用者の拡大と不確実性の低減にあわせて、閉じた寡占的なインフラではなく、開かれた公共的なインフラに昇華すべきだからです。

  • 高い公共性や透明性、検証可能性や説明責任を負うという意味で、ある時点から公開企業化することが望ましいと考えています。

  • 株主=インフラ利用者/受益者 or パートナーという考え方からは、「価値の自動運転」が浸透したP2Pの世界では、一般投資家の皆さまにも受益者として門戸が開かれるという意味でもあります。

Q「なぜストックオプション(SO)を付与しているのか?特徴はあるか?」

  • グローバル金融インフラ構築という、困難ですがやりがいの大きな挑戦に向けて、プロパーで採用した「精鋭メンバー」に「長期コミット」してもらいたいからです。

  • 税制適格SOです。

  • SOプールは、JVとしては異例の、スタートアップとしてもかなり高い水準で、株主間契約で合意されています。

  • 他方、長期コミット&公開企業化が与件のため、最近流行りつつある「退職社員のSO持出許容」や「M&Aエグジット要件」は敢えて取り込んでいません。

  • 少数組織でヘッドカウントが少なく、大きなSOプールで、仮に退職メンバーがでた場合は他メンバーへ付与する余力が高まるため、長期でコミットしてくれるメンバーの一人当たりの権利は、相応に大きくできます。


結び:未来のステークホルダーの皆さまへ

スタートアップ=完全に独立独歩で突き進む、というイメージが常識かもしれません。しかし私たちは「共創による産業変革」という道を選びました。これはグローバル金融のように大きな基盤産業を動かす上で有効なアプローチだと信じていますし、従来のスタートアップ像を再定義する試みでもあります。

キャリアを失い「捲土重来」を誓った20代の私が、その時点で起業していたとしたら、このようなアプローチは不可能だったでしょう。組織の中で、目の前の機会を最大化することを続けた結果、JV形態でのスタートアップ設立という結果に繋がりました。

「まだ何者でもなかった自分」が劣等感を覚えた、「社外で大活躍する、同年代のスタートアップ社長の圧倒的強者感」の代表例は、LayerXの福島さん(https://x.com/fukkyyでした。その後ピボットする前のLayerXと最初期のプロダクトを一緒に創り、「徳」というカルチャーののれんも分けてもらい、現在でも福島さんにはスタートアップ界の代表として取締役になっていただいています。

人生、何が起きるかわかりません。

スタートアップや新規事業に関わる読者の皆さんに、私自身の挑戦を通じてお伝えしたかったこと。それは、「あきらめずに足掻き続けること」の大切さと、「転んだ後に起き上がる過程が、一番面白い」ということです。私は銀行員としてのキャリアは失敗しましたが、「社内にいながら起業家になる」という道を選び、今こうして外の世界で改めて起業家として走っています。その過程では、組織の論理の理不尽さに悩んだり、自分の至らなさに打ちひしがれたりしたことも数え切れません。しかし、信念を持って動けば少しずつでも共感者が増え、道は拓けることを学びました。平坦な道よりも、泥水を啜りながら傷だらけで歩んできた道の方が、今後の人生に対してポジティブになれることも学びました。

これからもProgmatは社内外のパートナーと共に、「プログラマブルな信頼」というビジョンの実現に邁進していきます。日本発のグローバル金融インフラ構築に挑む私たちの物語、第2幕の展開にぜひご期待ください。
「茹でガエル」のまま死んでいくつもりはありません!

そして同じように新しい挑戦をする皆さん、一緒に産業の未来を切り拓いていきましょう。僕らも負けじと突き進みます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

・・・

…さて、この文章、誰が作成したと思いますか…?

答えは、会社アカウントで契約している「ChatGPT(Deep Research)」が、ざっくり88%くらい作成してくれました…!
各スライドや、参考となる「資金調達関連のnote記事」、「過去の私のnote投稿」等をインプットに、5往復くらいラリーして敲きをつくってもらい、残り12%の仕上げを自分でやりました。
note執筆(創業以来、月1以上投稿)の裏目的は、LLMにくわせて「バーチャル齊藤」を実現することなのですが、着実に現実味が増しています。

・・・

そんなAI/ブロックチェーン全盛の時代に、
AI代表のLayerX福島さん、マルチ/クロスチェーン代表のDatachain新田さんと、「重い産業の動かし方とエンジニアのキャリア」についてディスカッションするオンラインイベントを開催します。
(GW明けの木曜夕方、無料です)

・・・

今回調達した資金は、インフラ構築を担っていただくメンバーの皆さんに大きく投資していきます。Progmatで働くことに少しでも興味が湧いた方は、ぜひ採用サイト&CompanyDeckをのぞいてみてもらえると嬉しいです!

・・・

本当の最後ですが、国産SC1号を心待ちにしていただいている皆さまへ。
年度末前後でSCに関する各種報道がなされている間も、私のXアカウントは敢えて押し黙っておりました。
本件を含めて各種調整の鬼と化していたためです。
三菱UFJ信託銀行社長(この春までProgmatの社外取締役)の窪田さんのインタビュー記事のとおり、全ての準備は完了しており、あとは金融庁さん次第です。
相手あってのお話であり、最速で発行するためには、私から軽はずみな発言は控えざるをえない点、ご容赦いただければと思います。

が!流通のネットワーク含めて「共同検討ではなく商用化」の段階です。
コンソーシアム/プライベートチェーンではなく、パブリックチェーンです。今回、資本業務提携と合わせてあおぞら銀行さんとのお話が公開されましたが、国内外の様々な金融機関とお話が進んでいます。

皆さまの応援の声が力になっていますので、引き続き見守っていただけますと幸甚です。

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