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ダイエットに成功したぼくは、東京より父と酒を飲む時間を選んだ

ぼくが上京したのは20歳のころだ。
海と山に囲まれた離島で育ったぼくにとって、都会はそれはそれはキラキラした場所だった。
引越しを繰り返しながら東京と神奈川あわせて約15年暮らした。

人生とは本当にわからないものである。
34歳、「そろそろ結婚したいなぁ」と思って、こっそり婚活なんかを始めていたころ。
まさか自分がこんな選択をするとは思ってもいなかった。

兄妹LINEに入った姉からの連絡

うちには「5人子」という名のLINEグループがある。
長女、長男、次男、次女、そして末っ子のぼく。
男女バランスの整った5人兄妹だ。
ちなみに母は機械オンチすぎてLINEに参加できない。
長女とは13歳差。
1番年齢が近い次女でも7歳差。
ぼくだけ歳が離れている。典型的な末っ子だ。
そのグループに、両親の近くに住む次女からLINEが届いた。

仕事が終わったあと、すぐ父に電話した。
「大丈夫よ、ありがとう」
そう言っていたが、声には元気がない。

父はこれまでも2度、大きな手術をしている。
奇跡的に乗り越えてきた男だ。
だからこそ、父自身も嫌な予感がしていたのかもしれない。
その数日後、父は検査のため入院した。

嫌な予感
まだ安心できない
やはりそうなったか

長い検査の結果、父は大腸がんと診断された。
手術の日に合わせて有給を取り、帰省することにした。
コロナ禍だったので面会はできなかったが、ひとまず手術は成功。本当に良かった。

安心したのも束の間。

この頃から、ぼくはあることを考えはじめていた。

「もう、島に帰っちゃおうかな」

父の手術が無事終わったとはいえ、いつか介護の問題は出てくる。
両親の近くに住む次女は介護福祉士の資格を持っている。とても頼りになる姉だ。
しかし、5人兄妹のうち4人が親元を離れている。
それはさすがに負担が大きいのではないか。

もし誰かもう1人帰るとしたら、年齢的に1番若く、結婚もしていないぼくが適任だろう。
さらに言うなら、兄妹5人の親孝行スコアを数値化したら、間違いなく最下位はぼくだ。
1番何もしていない。
ポンコツ末っ子である。

ここで会社を辞めて島に帰れば、少しはかっこいいエピソードになるかもしれない。
そこまでわかっていながら、

めっっっっちゃ悩んだ。

ぼくは-30㎏のダイエットに成功したばかりだった。やっと普通の人間になれたのだ。

代官山とか。
表参道とか。
今まで入れなかったおしゃれなお店で買い物してみたい。

恋愛だって、今なら前向きになれる気がする。
マッチングアプリにも挑戦してみたい。

仕事はどうする?
今と同じくらいの給与がもらえる会社が離島にあるのだろうか。

いや、そもそもね?

両親が住んでいる島は、ぼくの地元ではない。
父の仕事の関係で、ぼくが育った離島は別の場所。
定年後に、両親のお互いの地元の島(ぼくのばあちゃんがいる島)へ移住している。
つまり、これはUターンではない。
Jターンなのだ。

しかし悩んでいても仕方ない。
父と過ごせる時間は、きっと多くはない。
意を決して、上司に電話をかけた。

「課長、お話したいことがあります」

結論から言うと、ぼくは退職ではなく転勤を志願した。

・父の病気のこと
・両親が住む離島を拠点にしたいこと
・ポジションは降格でいい、給与も下がっていいこと

ぼくの会社の商材は、誰もが使うものだ。
人さえいれば、どこでも仕事はできる。

課長は「任せろ!」と言ってくれた。
そして話は経営層まで届き、
「離島で新規開拓?おもしろいね」
そんなノリで、あっという間に異動が決まった。

そして帰ってきた(地元ではない場所に)

正式な辞令が出るまで、父には黙っていた。
伝えたのは帰る1週間前。
孫が会いにきたときくらい喜んでた。
ポンコツな末っ子も少しは格上げされただろうか。

あいにくの曇り

ぼくなりの親孝行

それからぼくは、毎週の休みに父に会いにいき、一緒に酒を飲んだ。(お医者さんに相談して許された範囲で)

ある日ふと思った。
父の過去をあまり知らない。
そこで、ぼくはインタビュアーとなり父の話を聞いてみる。

父が生まれたのは戦争中。
5歳のとき外で遊んでたら銃弾が飛んできた話。
母(ぼくのばあちゃん)に守られながら必死に避難したらしい。(もし当たってたら、うちら5人子存在してないやんけ)

硬派だと思っていた父が、実は昔バーテンダーだった話。

1970年の大阪万博の建設に関わっていた話。

いや、うちの父ちゃん。
おもしろい話めちゃくちゃ持ってるじゃねぇか。

代官山や表参道のおしゃれなショップは行こうと思えばいつでも行ける。

恋愛だって、マッチングアプリでなくてもできる。

都会を離れることを悩んでいた自分が、ちょっとバカみたいに思えた。
80年生きてきた父ちゃんの人生の話を聞きながら、酒を飲む。
これはきっと、今しかできない体験だったのだ。

自分に正直になって良かった。
ぼくは、Jターンして本当に良かった。

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