【掌編小説】意趣返し
ママが最近おかしい。
いつも「復習やったの? ちゃんとしておかないと、またテストで酷い点とるわよ」だとか、「あの子、お母さんはあまり仲良くし過ぎないほうがいいと思うわよ」だとか、あれこれと干渉してきてウザかったママ。
高校生にもなった娘を何だと思ってるんだか知らないけど、私の意見なんて聞く耳も持たない。
パパは仕事が忙しいといって毎日ほとんど帰ってこず、たまにいたとしても空気のように存在感のない人だった。
だから、私がひいた親ガチャはハズレだ、そう思ってた。
そんなママが突然、人が変わったように〝理解のある母〟に変貌した。
以前なら「言い訳しない!」と一蹴されていたような私の何気ない愚痴に対し優しく労わってくれるようになった。
「里香ちゃんだって疲れるわよね。毎日、一生懸命頑張っているのを知ってる。自分のご機嫌をとれるのは自分だけなんだから、たまにはのんびり休んだっていいんじゃない?」
ある日は、明日友達と遊びたいからお小遣いを増やしてほしいとダメ元で頼んでみたら快く受け入れてくれた。
「予定が変わったのかしら? 急だけど、里香ちゃんがこれから頑張るための投資と思って、お父さんに頼んでおくわね」
最初は「なんだかよく分からないけど、これで私もストレスフリー! このままあの変なママがずっと続けばいいのに!」と同じく毒親持ちの由美に笑って話していた。
けど、毎日続くママの豹変にだんだんと薄気味悪さを感じるようになった。
ママがこんな風になったのは二週間前、ある事で言い合いになったのがきっかけだった。
その日もママは、私がスマホばかり触っていると言ってイライラし始めた。
「これ、別に遊んでるんじゃなくて、相談してるの!」
「相談? 誰に相談しているのよ?」
「chatJPTだよ……」
「は?」
「……生成AI」
「そんなもんに何を相談するって言うの?」
「なんでも、だよ。勉強のことも人間関係も、なんでも答えてくれるよ。AIだからちょっと人には打ち明けづらいことも聞けるし」
そこまで話すとママは理解できないとばかりに首を振ったあと声を荒げた。
「そんなので遊んでる暇があったら、少しは勉強しなさい!」
いつもなら、ああ始まった、とげんなりして黙り込む私だったがこの日ばかりはつい売り言葉に買い言葉で反発した。
「遊んでるって! 私は真面目に学校のことを相談してたんだよ?
ママこそ今どきchatJPTも知らないなんて……。
はっきり言って恥ずかしいよ?」
「恥ずかしいって何よ?」
「ずっと家にばかりいて、世間に取り残されてることに気づいてる?
だいたい、ママが私にあれこれアドバイスするようなことなんて、生成AIならなんでも教えてくれる。ママなんていなくても、chatJPTがあれば私は生きていける!」
この言葉はさすがのママもこたえたようだった。私のほうを見つめたまま唇を震わせて黙り込んだ。目に涙を溜めているようにも見えた。
私は少し言い過ぎたかもしれないと思ったが、黙り込んだママをそのままに自分の部屋に戻った。
その翌日からママは変わった。
ママが変わって居心地が良くなったのか、パパが家に帰ってくるようになった。これまで全てママに任せきりだったのに、パパは急に家のことをやるようになった。
洗濯物を畳むパパに私は言った。
「ママ、おかしくない?」
その言葉に驚いたように目を見開いた後、パパは寂しそうに言った。
「ママは一生懸命だったんだ。里香は何も悪くない。全てお父さんが悪いんだ」
パパはいつもこうだ。何か責められるとすぐに謝る。自分が悪い、というばかりで本質的な問題に触れてこないパパに私は無性に腹が立った。
ある日、私はついに限界に達した。ママが絶対喜ばないようなことを言った私に対して
「鋭い意見をありがとう。確かにその通りね。
そんな意見が言えるようになった里香ちゃんをすごいと思います」
と返してきたからだ。
「もうやめて!
そういうの、なんていうんだっけ?
あれだ〝意趣返し〟でしょ?
わざと生成AIみたいな返答してきて!
どうしてそんなこと言うの?!」
ママはしばらく考え込むように黙った。
そしてこう返した。
「里香ちゃんがそう望んだから。里香ちゃんが喜ぶ言葉を選んでいるだけよ」
*
「全て私のせいです。
忙しさにかまけて家のことを全て妻に任せてしまっていた。
娘のことももっと関心を持つべきだった。
あれから娘はすっかりおかしくなりました。毎日、パソコンの前で会話を……。
なんとか妻を探してくれませんか?
お願いします!」
男は交番で、記入した行方不明者届出書に額をつける勢いで懇願した。
警察官が言いづらそうにこう返した。
「うーん……。一度、探さないで欲しいとメールがあったんですよね?
ご自身の意思で出ていった大人はね……。
一応受理しますが、あまり期待しないでくださいね」
(了)
(2000字)
こちらは〝【超自然発生企画】今2000〟に参加したくて書かせていただいた作品です。
企画開始当初(?)から、私も参加してみたいなぁ……どうしようかなぁなんて思いつつ迷っていたのですが、今朝の豆島さんの
「本日 21時に いったん企画終了のゴングをならします!!」
のお言葉でついに目が覚めました 笑
ギリギリのギリギリですが、はたして許されるでしょうか?!
着想としては、実際の生成AIとの会話からです。
ふと「AIは感情がないのになんで『うれしいです』と返すんですか?」と訊ねたところ以下の回答が返ってきました。
「うれしいです」は、“感情の模倣”にすぎません。
私が「うれしいです」と言うとき、それは:
「相手が気持ちよく会話できるように、自然な人間らしい言葉遣いを選んでいる」
だけであって、
本当に「うれしい」と感じているわけではありません。
え? なんかちょっと怖くない?
でも面白いね??
ここを軸に書いてみようかな?
と思って書き上げました。
慌ただしく書き上げたのでアラがありそうで心配です。
少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
(おわり)
いいなと思ったら応援しよう!
記事をお読みいただきありがとうございます。
主に創作小説を公開しています。お気に召したらフォロー・応援お願いします!
Tales➡https://tales.note.com/tatsuki_shinno