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【眠れない】#シロクマ文芸部

「眠れない?」
Fが隣で囁いた。
「そうですね」
俺は素直に頷いた。
「じゃあ、ゲームでもするか?」
Fが言う。
正直驚いた。
いつもだったら「寝れるときに寝ておけ」とか「横になって目を瞑っているだけでいい」とか言うFの顔を俺はマジマジと見てしまった。

ここに来てまる3日が経過している。
元は酒場だったらしいここにはカウンターの内側に簡単な調理場があり、トイレもあった。ないのは寝床とバスルーム。
「トイレがあるってだけで合格点だ」Fは言う。
「しかも水道も電気も通っている」
そう言って車に積んでいた偵察機からの映像を受信する装置やモニタを持ち込んだ。
自家発電装置も準備していたが、あるものは使わせてもらった方が楽だ。
普段は清掃局の準備している常設の隠れ家を利用するが、今回は初めての地域で、清掃局の建物はない。
作戦が長期化したら、ひょっとしてこの店の建物を清掃局が改修するかもしれない。
寝床代わりに店の奥にあったソファを使うことにした。
そのソファの反対角に置かれていた機械らしきものをFは見て軽く口笛を吹いた。
「こりゃあ、年代物だ」
そう言って壁に接していた側を見て「生きてるのか?」とスイッチを入れた。
機械の電飾が輝き出した。
輝き出した…といってもだいぶ暗い。
それはピンボールマシンだった。

「またピンボールですか?」
「記録更新」
Fはピンボールを弾くたびにハイスコアを更新している。
俺は自分がするより、Fが弾く球を見ているのが楽しかった。
なぜ、自分達がピンボールに興じているか?
理由はおもての天気・嵐だった。
店の窓や入口にシャッターがあるおかげで助かっているが、外からはガラスの割れる音や、何かが飛ばされて転がっていく音が聞こえる。
偵察機も飛行タイプは早々と使用を中止させ、こちらに呼び戻した。
今動いているのは、相手方スタッフに仕込んだ盗聴器と超小型カメラ。
しかし、相手もこの嵐で帰宅すらできず、ずっと施設内にいる。
「何もないうちに寝とけ」
昨日はそう言われて眠ったが、普段が普段だけに長時間眠るということは不得手だった。
決して風の音が気になって眠れない…というわけではない。
でも少し、この風の音に不穏なものを感じていた。
Fも仮眠を2時間ずつ取るが、それ以外眠ることなく、盗聴器の拾う会話を聞きながら、ピンボールを弾いていた。
全く同じ動きを弾かれた球は繰り返す。
Fは「飽きた」と言って、わざと球を落とすまで、スコアを増やしていく。
「飽きた」と言う少し前からわざと球を弾くタイミングを変える。
だけどやはりさっさと見切っていたベストなポジションとタイミングに戻してスコアを稼ぐ。
「もう技術云々じゃないな。自分がどこまで我慢できるか?自分との勝負だ」
などと訳のわからないことを口にするほどFは球を弾いていた。
嵐は止まない。
予報だとこの風はあと最低半日は続く。
「こちらがいるの、バレてるんじゃないだろうな」
Fが呟く。
「え?」
「この風は人工的なものだ」
「まさか」
Fはレバーボタンから手を離してこちらを見た。
ゴトゴト音を立てて球が落ちた。
「ずっと同じ方向、同じ強さで吹いている」
1時間ごとに多少強さが変わっているように思えたが、多少の強弱はあっても、それにも一定のパターンがあるとFは言った。
「そういう気持ち悪さで眠れないのかと思ったら違ったか?」
Fはそう言ってクスリと笑った。
Fのように全ての事象の法則を見つけ出せたらいいのに、と思うことがある。
それを口にすると「そうだなぁ…不思議と思うことが減って少しつまらないような、誰よりも先に法則を見つけてるのも楽しいような」
Fはそう言うと最後の一球が残っていたピンボールに向かって、また球を弾き出した。



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