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探偵助手

依頼人を前に小噺少年はいつになくイライラしていた。
そもそもアポイントなしで来た依頼人だった。
「だはんで、知り合いからここを聞いて…」
探偵の留守を伝えると「だはんで、そう言われても」と小声で言った。
聞き慣れないアクセントと「だはんで」という聞き慣れない言葉が気になった。
小噺少年は探偵と一緒にいる渡邊に連絡を入れた。
探偵に直接連絡しないのは、探偵は携帯端末を所持しないからだった。
1時間せずに戻ることができる。依頼人が待てるのならば待っていてもらって構わない。その旨を依頼人に伝えると「だはんで、待たせてもらいます」と言った。
小噺少年の頭の中で「アムロ、行きまーす」というセリフが一瞬浮かんだ。
何か話し始める時必ず「だはんで」と言う。
「ダハンデさんとは珍しい名前だ。日本人に見えても外国の方なのかもしれない」などと思ったが、いい歳をしていちいち名前を言うのか?とイラつき始めた。
依頼人は男性で、見た感じ30代後半から40代。スーツは少しくたびれた感じではあるが、依頼人にフィットしていない感じもある。普段あまり着ることがないのではないか?
名前でなかったら、口癖?だとしたら「だはんで」とは何だ?小噺少年は気になって、お茶を淹れる時、密かに「だはんで」を調べた。
「だはんで」は津軽弁で「だから」「ですから」に相当する言葉だと知った。
「だったら『だはんで』から話が始まるのはおかしいのではないか?」小噺少年は思った。
唯一「だはんで」がつかなかったのは、お茶を出した時だった。
「ありがとうございます」
小噺少年は相手に気づかれないようホッと息を吐いた。
しかし次の瞬間「だはんで、気を使わず」と言われ、フンっとこれまた相手に気づかれない程度に荒くした。
小噺少年はあまりイラつかないためにも依頼人に話を訊くのはやめようと思った。しかし、探偵が戻ってくるまでどうしてたらいいのかわからない。
津軽の人はみんな依頼人のように「だはんで」「だはんで」と煩く言うのだろうか?などと考えていたが間が持てない。
「あのう。お名前をうかがってよろしいですか?」
「だはんで、佐藤と申します」
小噺少年は少し意地悪を言いたくなった。
「ダハンデ・サトウさん?」
依頼人は「あ、いや…」と慌てて「佐藤。佐藤弘明と申します」と言った。
小噺少年は「失礼しました。佐藤ヒロアキさん。漢字をおうかがいしてよろしいでしょうか?」と今更のように名前の確認をした。
「だはんで…弘前のヒロ」と言いながら依頼人はテーブルの上に指で字を書く。
「ヒロサキ?」
「だはんで…弓矢の弓書いて、カタカナのム」指でもう一度「弘」の字を書く。
「と、明るいです」
「あぁ。はい。ありがとうございます」
「だはんで」以外はアクセントの違いにもだいぶ慣れてきた。
方言を悪く言うつもりはない。だけど口を開くたびに同じ言葉が出てくるのに閉口する。「ダハンデ・サトウ」と小噺少年が言った時の慌て方を見ると言っている本人は無意識に言っているのだろう。と小噺少年は思った。
探偵もきっとこの「だはんで」が気になるに違いない。
「だはんで」と聞くたびに片眉をひくりとさせる探偵の姿を想像することで、気になる口癖をやり過ごしながら、小噺少年は依頼人と共に探偵が戻ってくるのを待つこととなった。

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