空き地での6人サッカーから全国制覇も「監督は普通の人間」、髪型・身だしなみにみる自制心〈ローカルグッドの視座〉
地球環境や地域コミュニティなどの「社会」に対して「良い影響」を与える活動・製品・サービスの総称を「ソーシャルグッド」と言います。こういったソーシャルグッドな活動をより地域に根を張って活動されている方々を今回、“ローカルグッドな人たち”と定義。彼らはどのような視点でローカルグッドを実現しているのか、本人に聞いた。
2024年に開催された「全日本U-12サッカー選手権大会」で初優勝を果たしたサッカークラブチーム・ソレッソ熊本。熊本をベースに、宮崎・鹿児島・長崎に拠点を構えるチームの在籍者数は総勢700人にも及ぶ。2002年、地域の空き地で6人の児童から始まった街の小さなサッカーチームが、全国制覇に至ったその背景にあるものとは。躍進するチームの原動力に迫る。
オール九州を巻き込んだ独自のリーグ、シャイニングリーグU-12を設立
「日本一を獲る」とは、チーム発足当初から言い続けてきた言葉。立ち上げから22年、全国大会は11回目のチャレンジで見事、日本一の座に輝いたソレッソ熊本。今やU-12のサッカーを語る上で、欠くことのできない存在だ。その土台を築き上げてきたのが、代表の広川靖二さんだ。
「はじめての全国大会に出場したのは15年前。ベスト4を賭けた試合で、ただ耐え続けるだけの試合をする子どもたちの姿をみて、関東・関西のチームとの実力の差を見せつけられた苦い思い出があります」

広川さんは九州各県のチームに声をかけ、独自のリーグ、シャイニングリーグU-12を設立。現在は、九州に拠点を構える全32チームが1年間のリーグ戦を行い、互いに切磋琢磨し合える環境が確立されている。敵も味方につけてしまう、その大胆不敵な行動力たるやー。
「プロのサッカー選手だったわけでもないし、どちらかというと文武両道を目指して、勉強もスポーツも両方を追いかけてきたタイプ。昔から学級委員とかリーダー役は任されてましたけど、いわゆる“普通”の感覚の人間。指導者としての人生は、すべて偶然の産物です(笑)」

昨日の敵は、今日の味方。自らをオープンに話せる広川さんだからこそ、目の前の相手に寄り添い、手を取り合うことができるのだ。
個々の自制心がチームとしての素地をつくる
「大事にしているのは、相手がどんな立場の人であろうとはっきり意見すること。誰が、いつ、どこで、どのタイミングで言うかにもよりますが、今の時代はなかなか勇気が要ることかも知れません。だけど、チームとして関わる以上、言わなければいけないことは、相手が誰であろうときちんと向き合って伝えるようにしています」
ひと学年およそ30名〜40名が所属するチームで、コートに立てるのは11名と厳しい世界。どんなに練習に励んでも、試合に出ることが叶わないことだってある。そうした現実を目の当たりにしても、受け入れて自分を磨くことに意識を向けられるかどうか。その精神力こそ、その後の個人やチームの成長の鍵となる。だからこそソレッソでは、あえて独自のルールを設け、個々の自制心を鍛えているという。
「たとえば、4年生以上はパーマもカラーも禁止。ユニフォームの上着はインするのが基本です。学校では認められているなど、“個人の自由”が認められる部分だったとしても受け入れることができるか。サッカーがチームプレーである以上、それくらいの自制心は、親にも子にも身につけてほしい。何より僕らはサッカーという“好きなこと”を通じてつながっている関係性だからこそ、精神的な鍛錬も促せる場だと思っています」

「サッカーチームだけど、サッカーがすべてじゃない」
熊本に生まれ育ち、ごく普通のサッカー少年だった広川さんの指導方針が形成されたのは、大学時代に端を発する。学内を牽引する大規模なサークルの代表として活動に明け暮れる中、とことん人を“観る”という経験を積む。しかし、勢い余って2回目の大学4年生を迎えた春。思いがけず高校サッカー部の外部コーチを依頼された。しばらく足が遠のいていたサッカーに、再び指導者として再会。やりがいを見出し始めた矢先に卒業のタイミングを迎え、企業に就職したものの程なく退職を決める。
途方に暮れる日々を過ごす中で、ふつふつと湧き上がっていたのは「サッカーの指導者になりたい」という思い。そんな心の声を拾ってくれたのは、かつての大学時代のサークルの先輩だった。「子どもを6人集めるからサッカーを教えてやってくれないか」と依頼を受けたのだ。
幸いにも近所の空き地を使えることになり、広川さんはたった1人で整地をし、グラウンドに線を引き、子どもたちが集える場を作った。持ち前のコミュニケーション力でサッカーの楽しみを教え始めると、評判を聞きつけた子どもたちが続々と加入してきた。
「サッカーの指導者で生計を立てていけるの?」そんな周囲の声を跳ね返すように、20代〜30代はがむしゃらに突き進んできたという。

「ソレッソでは、これまで16名のプロを輩出しています。18歳でベルギーに渡った教え子やJリーグで活躍する選手など、子どもたちにとっての憧れの存在も手を伸ばせば触れられる距離にいます。みんながそこを目指したくなる気持ちも痛いほど分かる。けれども、高校卒業後にプロとして起用されたとして、そこからいろんな事情で実力を発揮できずに、20歳そこそこで社会に放り出される子たちの方が多いのもまた事実。だから僕は、社会性と専門性のどちらも培うサッカーを教えます」

「サッカー好きのサッカー教室じゃなくて、子ども好きのサッカー教室」と称する広川さんの指導の原点は、ソレッソがどんなに強くなろうとも子どもたちとともにボールを蹴り始めた、あの懐かしい空き地にある。
“強化”と“普及”。求心力を増すソレッソはネクストステージへ
広川さんの行動指針は、損得勘定ではなく常に楽しいかどうか。指導においても個々の成長に伴走し、“楽しみ”の質を変えながら課題を提供していくのがモットーだ。最初は、単純にサッカーを楽しんで好きになること。さらにスキルアップして乗り越えて行く楽しさ、仲間とボールをつなぐ楽しさなど、徐々にサッカーの“楽しみ”の幅を広げていく。
「サッカーはあくまで人生経験を積むためのツール。本気でスポーツに取り組むことで味わう、さまざまな喜怒哀楽こそ財産になる」と言い切る広川さんは、サッカーを通じて“個”と向き合うことを決して諦めない。

一方で全国優勝チームとして注目が集まる今、チームのミッションを改めて見つめ直し、強さを生み出す指導の言語化も行なっているとか。また、各種イベントの運営や、競技の普及活動にも力を注いでいる。ソレッソを支えるスタッフのバラエティに富んだ個性が、チームの次なるステージを彩る。
サッカーに限らず、挑戦とリスクは常にトレードオフ。たとえ失敗してもそこを乗り越えられる人間性を育みながら、柔軟かつ骨太にそれぞれのサッカー人生を楽しむこと。広川さん率いるソレッソは、これからもたくさんの笑顔の連鎖を生み出していくだろう。
