『レジスターに願いを』
……ごめんなさい」
儚げで崩れ落ちそうな声。買い物かごを渡すときに手が触れただけにしては仰々しく思える。
多分、僕のせいでもあるから申し訳ない。
世界で一番のドラッグ大国は?アメリカ?メキシコ?いや、ドラッグストアが一本の国道に情熱的に建ち並ぶ日本である。
同じ炭酸水、同じスナック菓子、同じタバコ。いつも同じものを購入する。何度も経験している、ただの会計だ。
若い女性の店員が、タバコを取るために後ろを振り向いた時、黒い艶のある長髪が揺れる。
嗚呼、糞みたいな人生かもしれないけど、生きていることに喜びを感じる。この逢着が終わらなければいいと、僕はセブンスターに願った。
レシートと一緒にクーポンが音をたてる。こういうクーポンは取得後行方不明になり、いつもポケットには存在しない。
「こちらのクーポン……次回からご利用ください」
そう言って彼女は、僕にクーポンを渡す、
……ことができない。
すでにクーポンは原型をとどめていない。余白が本体になり、クーポン部分は地べたをさまよっている。紙を切断する機能が死んでいる。
オートマティックな作業中に起きたイレギュラー中のイレギュラー。学生時代、あのイレギュラーバウンドを取れていたら、レギュラーになれていただろうかと、何度も夢にみる光景が、ふと頭をよぎる。
いつのまにか彼女の両腕は紙に覆われている。田舎に移住して農家のお隣りさんから食べ切れないほどの野菜を渡されたように。
「なんか、凄いことになってますね」
「はい……こんなのマニュアルになかったと思います。あの……これ持っててもらっていいですか」
かつてクーポンだったものは、すでに人間の腸、数人分を超える長さだ。彼女がレジを傾けると方向が変わり、紙々波は僕にめがけて飛んできた。
カウンターというグランドキャニオンを越えてきた万里の長城は僕にぶつかって地上絵を描く。昨夜観たクイズ番組の回答が湧き出てくる。
畜生、脳がマチュピチュだ。
放出された紙は次第に僕の視界を奪っていく。
60秒経過。
鼻と口が塞がれ息が止まりそうになる頃、ついに紙は止まった。
世の中、途切れると悲しい紙ばかり。途切れると喜ばしい紙は少ない。
では、この現象は僕にとってどっちなんだ?
目があった瞬間、僕たちの微笑が重なる。言葉はなくともお互いの心が太陽に透かされたようだった。
刹那、
彼女は、
自然に、
滑らかに、
そして美しく、レジロールを補充した。
毎日レジに立つものの悲しき習性なのか。
案の定、再び紙が放出され始める。
紙が吹雪く。
僕はイエティ化する。
彼女が目を細めて、両手で口を覆っているのが見えた。
そして、ホワイトアウト。
………………
………………
………………
視界が晴れ、まばゆい光とともに声が聞こえる。
「こちらのレジへどうぞ」
僕は炭酸水とスナック菓子が入ったかごをレジに置く。黒い艶のある長髪の彼女の白い手が、僕の手に触れた。
「……私のせいで……
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