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富山はどう「すし県」になったのか。富山県のクリエイティブディレクター・高木新平氏から学ぶ、地方創生を成功に導くブランディングメソッド「VISIONING」とは?

こんにちは!TCA事務局の吉田です。

日本の各地域が独自の魅力を活かして自立的・持続的な社会を築く「地方創生」。
キーワードとしてよく目にするものの、具体的にどのような方法で盛り上げていけば良いか?については、さほど語られていない印象です。

今回紹介する講義は、2025年8月にTCA大分校にご登壇いただいたNEWPEACE代表の高木新平氏による「地方創生を推進し成功に導くプロセス」や、「その過程で重要となる考え方」を講義レポートとして一部公開します。

高木さんは富山県のクリエイティブディレクターとして2023年からビジョン開発とブランディングに携わり、現在も“すし県構想”「寿司といえば富山」をリードしています。

今回は一連のお仕事を軸として、多くの人からの関心を得にくい「行政」や「地域」にクリエイティブがどう関わり、どのような形で地方創生に貢献してきたのかについて紐解きます。

▼登壇者プロフィール
高木新平
株式会社NEWPEACE 代表取締役CEO / クリエイティブ・ディレクター
1987年富山県出身。早稲田大学を卒業後、(株)博報堂に入社。2014年独立、NEWPEACE Inc.を創業。未来志向のブランディングメソッド「VISIONING®」を提唱し、これまでスタートアップをはじめ様々な企業のビジョン開発、ブランド戦略の立案・実装に携わる。また、地元である富山県の成長戦略会議委員、クリエイティブディレクターとして変革の一端を担う。その他、(株)ワンキャリア社外取締役、シェアリングエコノミー協会アドバイザーなど。三児の父親。



「ブランディング」より「ビジョニング」という概念

従来のブランディングを発展させた、高木さん独自のメソッド「ビジョニング」

講義の序盤では、高木さんがクリエイティブの道を志すに至った、象徴的なエピソードが語られました。

「出身地である“富山”県が、早稲田大学の“戸山”キャンパスに知名度で負けている」

高木さんが早稲田大学に入学して間もない頃、同級生から聞かされた衝撃の事実に、驚きを隠せなかったと振り返ります。

そこから、
「人は脳内の曖昧なイメージを頼りに生きている」「そうであるならば、イメージを作る側の人になりたい」と考えるようになったそうです。

後に大学を卒業し、大手広告代理店の博報堂に入社するものの、想像していた仕事と現実との乖離を感じ、わずか1年ほどで退職。知人から仕事の相談を受ける中で、既存のブランディングの枠組みを超えた未来志向型の「ビジョニング事業」を自身で手掛けるようになります。

ビジョニングとは、創業者の事業に懸ける意思や思い、未来にありたい姿など「なぜやるのか」という企業の存在意義をヒアリングによって深く掘り下げ、言語化し、あらゆる企業活動において一貫性を持って体現し続けることです。


強烈な印象をつくり浸透させる、“世界観”の創造プロセス

では、実際に「ビジョニング」を実装するためには何が必要なのか。
それは「言語化」「視覚化」「表現化」の3つのステップです。

今回は、高木さんが実際に富山県のブランディングに携わる中で行った事例について解説いただきました。

【STEP1.言語化】
言語化とは、地域や企業の潜在的な価値を拾い上げ、世間が共感・納得できる「明確な文脈」として定義することです。

高木さんはまず、富山県の人工流出に対して、関係人口(その地域と継続的に関わる人口)を増やすことを最終的な目標(ビジョン)として設定し、その一環として地域の文脈をブランドへと昇華させる戦略をとります。

そこで一番に押したい、ブランドになりうる地域独自の文脈を抽出。
高低差4000mの地形がもたらす食の豊かさ、とりわけ富山の海産物に着目します。

【STEP2.視覚化】
視覚化は、定義した「物語(ビジョン)」を、組織内のゴールとして定義し、人々が日常で体験できる「具体的な状態」へと落とし込む工程のことです。
高木さんはそれまでの富山の魚介類などを卸す一次産業で勝負をしていた状態を、観光業やサービス業が価値を上げている今の時代に適応する形にするため、価値の源泉を「寿司を食べる体験」をベースとした三次産業へと転換する方針を掲げます。

産物そのものではなく、「体験」として顧客に提供することで富山の関係人口を増やしながら、より「自分ごと」として価値を感じてもらえるようになり、付加価値を大きく上昇させることにつながる、というわけです。

そこで、10年後には「富山=寿司」というイメージが定着するためにはどうすれば良いかを逆算し、そのための施策を行っていくことにします。

高木さんたちが10年後の目標として掲げたことは2つ。

①「寿司」でイメージする都道府県で富山県を回答する方の割合:90%
②富山の「寿司」を友人などに積極的に勧める県民の割合:90%

「誰もが達成した時の状況が想像できるくらい具体的な最終イメージ」を視覚化し、共有された意識として持つことも、関係者の目線と思いをひとつにしてプロジェクトを押し進めるために重要なポイントだと感じました。

【STEP3.表現化】
表現化とは、言語化・視覚化したビジョンを現実社会の中で触れられる「具体的な事象や体験」として実装するプロセスを繰り返し行っていくことを指します。

寿司をキーワードとして富山県庁名刺のデザインや、寿司のラッピングを施したバス・電車の実装、北九州市との「寿司対決」のキャンペーンなど、「寿司のまち」としての印象を徹底的に馴染ませていきました。

富山県庁職員の名刺を「寿司モチーフ」のデザインにリニューアル
北九州市と合同で行った「すし合戦」のキャンペーンでは富山が勝利

一貫した表現を地道に継続することで、スローガンや取り組みに共鳴した人材や新たな情報を呼び込んでいくシステムを作り上げ、県全体で“寿司といえば富山”という機運が高まり、大きなムーブメントへと発展していくきっかけになりました。

結果として、寿司という要素で徹底的な一点突破を図り、人々の脳内に強固なイメージを浸透させながら実態までつくり込んでいくことに成功。

県内のみならず、全国的に“すし県”としての認知度を上げ、県全体を巻き込んで「寿司といえば富山」という「ビジョン」を作り上げていくことに成功しました。


クリエイターが地方創生の文脈で活躍するには?

地方や行政のプロジェクトでは「どう言うか」以上に「何を言うか」が重要

富山県のプロジェクトにつけ加える形で、高木さんはクリエイターの役割や能力についても触れました。

「クリエイターは、組織の縦割りすらも超えて発言して影響をもたらせる役職。
だからこそ行き詰まった状況をその手一つで打開できる力がある」

つまり、クリエイターは従来の定型的な組織の枠組みに収まることのない役割であり、既存の秩序を破って窮屈な状況を打開する「トリックスター」のような存在になり得る、ということです。

また、地方ならではの傾向として、「過去の出来事は具体的に想起できるが、未来のことは抽象的に描きがちである」といったことがあるそう。

50年後や100年後の目標など「未来」の文脈を強調するより、その地域が積み上げてきた「過去」の事実や文脈をリフレーミングすることが、合意形成においては最も効率的かつ力強い突破口になるということです。

そのような背景から、地方かつ行政と協働するプロジェクトにおいては「測れるKPIをスローガンとして打ち出す」ことが重要であり、「その事物をどのような言い方で表すか」よりも「何を伝えるか」を重点的に考えることこそが、ビジョニングを実装する際のポイントなのだと思いました。


まとめ

「寿司といえば富山」の戦略まとめ

高木さんの「寿司といえば富山」の戦略が示す通り、地域創生の鍵は2つ。

地域の文脈を深く読み解き、一貫したビジョンとして具現化する
究極のオリジナルを見つけ出し、それをブランドへと昇華させるまで組織全体で一体となって取り組む

重要なのは、この2つのプロセスが単なるプロモーションではなく、「どのようにして人々を当事者として巻き込み、記憶に残る体験に変えていくか」に力点を置いている、ということです。

“自分の地域や所属する組織に眠る、「独自の文脈」とはなんだろうか?”

まずはこの問いと愚直に向き合い、丁寧にほどいていくことが、地方創生をクリエイティブによって成功に導く第一歩と言えるでしょう。


講義の全編は「TCA UNLIMITED 」でご視聴いただけます。
14日間無料で利用可能ですので、ぜひお試しください!

【編集後記】
今回の講義は、ブランディング・ビジョニングの教科書的な知識以上に、「どう地域と向き合い、どう未来を描くか」という心構えについての講義だったと感じました。富山での高木さんの一連の動きは、どれを取っても「県民の視点」「県民の捉え方」に強くフォーカスされており、寿司というわかりやすい文脈を浸透させるための地道な努力や施策が実を結んだ事例だと感じました。もちろん、視点の転換やアイデア力も大事ですが、高木さんの鋭い洞察力があるからこそ実現した地方創生の例だと言えます。今後はさらに深く対象を観察し、組織に眠るオリジナルの文脈を探ってみようと思いました。
(文:THE CREATIVE ACADEMY インターン 吉田長人)

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