【イベントレポート】Claude Code(クロードコード)を"社員"にする組織論。渡邉勇輝氏が実践するAI駆動組織のつくり方
2026年5月21日、THE CREATIVE ACADEMY(以下TCA)では、卒業生を招いての勉強会を、対面とオンライン(TCA UNLIMITED)の同時配信で開催しました。登壇者は、TCA超実践コース2期の卒業生で、株式会社いいんじゃ代表の渡邉勇輝さん。テーマは「Claude Code(クロードコード)を基盤としたAI駆動組織の構築」です。

Claude Codeとは、Anthropic社が提供する、自然言語で指示してタスクを任せられるAIエージェントツール。渡邉さんは、これを"コードを書く道具"としてではなく、組織の中で社員のように自律して働く存在として運用しています。
今回の勉強会は、クリエイティブの領域にとどまらず、旬なテーマを学ぶ機会を増やす試みのひとつ。マーケティングと開発の両輪をAI駆動で支援する渡邉さんが語ったのは、AIをツールとして使う段階の、さらに先の話でした。AIが社員のように自律して働き、組織の構造そのものを変えていく――そんな現場のリアルです。
自分の仕事はAIにどう変わるのか。組織にAIをどう根づかせるのか。そんな問いを持つ人にこそ読んでほしい記事になっています👀
Claude Codeで動く"AI社員"たち――秘書「イーロン・マスク」とスクラムマスター「ええんちゃう君」
渡邉さんが代表を務める株式会社いいんじゃでは、AIがまるで社員のように働いています。
たとえば社長秘書の名前は、「イーロン・マスク」。プロジェクト管理ツールAsanaのタスクを監視し、週次で進捗を報告するAIエージェントです。スクラム開発の朝会をファシリテートし、報告の遅れたメンバーに督促する「ええんちゃう君」というスクラムマスターも在籍しています。チャットの中で、複数のAIが役割を持って立ち回っている状態です。

マーケティング領域でも、AIが組織を組んでいます。同社のサービス「ADiOS」では、ストラテジックプランナー・メディアプランナー・クリエイティブプランナー・広告運用者という4つのAIエージェントが、広告データを常時蓄積しながらディスカッションします。人間はチャットで依頼を出すだけ。クライアント向けの戦略資料やファネル分析といった、本来は人間が時間をかけて組み立てるアウトプットを、4つのエージェントが連携して仕上げます。

「対話していたらプロダクトができていく、そんな仕組みを作っています」
渡邉さん自身は、常時4〜5セッションのClaude Codeを並行して走らせ、AIに作業を任せている間に別の業務や会話に時間を使うといいます。AIが「指示を待つツール」から「自律して動く存在」へ移った姿が、ここに表れています。
AI化が進まない本当の理由は「中間層」にある
多くの企業でAI活用が進まないのはなぜか。渡邉さんは、その原因を「使い方の構造」にあると指摘します。
個人がそれぞれプロンプトを試行錯誤してAIを使う――多くの企業や社員が実践する一般的なやり方には、3つの落とし穴があるといいます。属人化して使える人と使えない人の差が開くこと、人が辞めるとノウハウがリセットされること、そしてタスクの粒度が小さすぎて仕組みとして定着しないこと。
「AIを末端のツールとして使う限り、組織はなかなか実装が進まない」
そのうえで、「一番大変なのは“中間層”ではないか」という問題提起をされました。末端の作業をAIに任せて外注を減らす発想は広まっていますが、本当に負担が重いのはマネージャーやディレクター層。現在のAIは「指示待ち人間」に近く、指示を出さなければ動きません。プロンプトに必要な要件を整える作業(リファインメント)はPMレベルの思考を要し、上流の負担として残り続けます。
だからこそ求められるのは、能動的に提案し、先回りしてたたき台を用意する働き方だ――渡邉さんは、AIにも私たち人間と同じ能動性を求めます。
カギは「ハーネス」――AIに"壁"をつくるという制御設計
能動的なAIを組織で安全に動かすために、いいんじゃが独自に構築しているのが「ハーネス」という仕組みです。
ハーネスとは、ひとことで言えば「AIの箱の壁」。複数のAIやデータベースが存在する中で、「この範囲で自由にやってよい」とスコープを区切る制御設計を指します。壁がなければ、AIは権限外のデータを参照したり、アウトプットが的外れになったりしてしまう。壁があることで暴走を防ぎ、学習する範囲を絞れるため、その内側での精度が高まります。
「これまではAIに『⚪︎⚪︎をやらせる』という立ち位置だった。『AIをどう動かすか』を規定できれば、意図した学習をAIが積んでいく。そこがツールとAI基盤の違いです」

ハーネスの中で最前線に立つのが、自律型AIの「OpenClaw」です。人間と対話しながら、次にどの仕組みを動かすかを自ら判断します。Claude Codeを使うのか、既存のアプリを呼ぶのか、社内データベースから情報を取ってからエージェントを動かすのか――一連の段取りを自動で組み立てる。人間に残るのは、上がってきたアウトプットへの確認と修正だけです。
「ほとんど部下が仕事をして、上がってきたものをレビューする。そこにフォーカスした働き方に変わってきました」
「誰かのセーブデータから始められる」スキル基盤
ハーネスと並ぶもう一つの軸が、「スキル基盤」です。渡邉さんは「誰かのセーブデータから始められる仕組み」と表現します。
従来、AI活用に成功した人のノウハウは、口頭やドキュメントで共有されてきました。伝達には手間がかかり、全員に行き渡る保証もありません。スキル基盤では、先駆者がAI化に成功すると、その手順が「スキル」として基盤に自動でインストールされ、全員が呼び出せる状態になります。似たタスクに直面すれば、先駆者のスキルが自動で起動する。課題が出ればフィードバックを返し、スキル自体が更新されていきます。

効果は数字に表れています。社員約20人に展開して1か月で、生まれたスキルは88個。マーケティング部門では、半数ほどの案件で事前準備が不要になったといいます。

副次的な効果として語られたのが、業務プロセスの可視化です。スキルとは仕事の手順を言語化したもの。暗黙のうちに進めていた作業がテキストになることで、アウトプットをやり直すのではなく、プロセスのどこが弱いかを見て修正し合えるようになります。
「正しい思考プロセスをAIが理解していないと、クオリティは上がらない。そこへ意識が向くようになったのは、AIがもたらした良い効果です」
「AIを使う組織」から「AIが動く組織」へ
講義の後半、組織構造そのものの変化が図で示されました。AIをツールとして「使う組織」と、AI基盤が能動的に「動く組織」では、仕事の構造が大きく異なります。

ツールとして使う段階では、AI化のインパクトは作業者層の一部にとどまります。一方、組織に適したハーネスを組むと、ディレクターやPMの仕事までAIが肩代わりするようになる。先回りして考える状態が生まれ、意思決定層は上がってきたものを承認する役割に近づきます。作業者層が一段なくなり、その間にAIエージェントが入る構造です。
「資料も分析も戦略も、ゼロから考えることはほぼなくなりました。7割のたたき台が上がってきて、もう少しこういう観点があるといいよね、とフィードバックするだけ。全員がある種、上司になる仕組みです」
実際にいいんじゃでは、高い水準のデザインやLP、バナーをAIで制作できるようになり、ディレクションができる人は残しつつ、制作だけを担う人とは契約しなくなってきたといいます。クラウド費用が人件費を上回る局面も生まれている、と渡邉さんは現状を明かしました。
最後に残るのは「人間をどう育てるか」
AIが仕事を担うほど、新たな課題も見えてきます。メンバーがすべてを深く理解しているわけではないため、クライアントとの場で質問を受けた時に咄嗟の回答に窮する場面が出てくる、というギャップです。
解決策として試行しているのが、人間側へのフィードバックをAIが担う仕組み。高精度の音声認識デバイスをマネージャークラスに配り、ミーティング後に「この知識が足りないかもしれない」「こう言えるとよかった」というレビューが届くようにする構想です。AIを育てるだけでなく、AIが人を育てる――相互にメンタリングし合う関係へと向かっています。
では、AIに触れたことのない人は、何から始めればいいのか。質疑では、渡邉さんが「必修科目になった」という見方を示しました。高度なエンジニアリングは要らないものの、Claude Codeをインストールして動かす程度のリテラシーは、算数や国語と同じ必須領域に入ってきたという捉え方です。かつてグローバル化の波の中で「英語は学ぶべきか」が問われたのと、構図は同じだといいます。
「AIにハードルを感じることなく、まずインストールして、触ってみてほしい」
まとめ
今回の講義から持ち帰れるのは、次の視点です。
AIは「使う」から「一緒に働く」段階へ移りつつある
AI化の本丸は末端作業ではなく、負担の重い「中間層」にある
AIを組織で機能させるカギは、範囲を区切る制御設計「ハーネス」
スキル基盤によって、個人のノウハウが組織の資産として積み上がる
組織構造が変わり、人間は「判断」と「育成」に集中していく
AIが作業を担うほど、人間の仕事は「どこまで任せ、どこで線を引くか」という設計と判断に寄っていく。その輪郭が、現場の実例とともに立ち上がる講義でした。
今回のレポートはここまで。講義の全編は「TCA UNLIMITED 」でご視聴いただけます。14日間無料で利用可能ですので、ぜひお試しください!
【編集後記】
今回は、TCA超実践コースの卒業生で、株式会社いいんじゃ代表・渡邉勇輝さんのイベントレポートでした。私が最も印象に残ったのは、「AIをどう動かすかを規定する」という、ハーネスという発想です。これまでTCAの講義では、AIで「できること」が均一化する時代に、人間の価値はどう向き合うかに宿る、という話が繰り返し語られてきました。AIに壁をつくり、どこまで任せるかを設計する行為もまた、その企業や個人の思想そのものなのだと感じます。技術の話のようでいて、結局は「人間が何を選ぶか」に行き着く。そこにTCAらしい問いの深さがありました。ぜひ次回以降の記事もお楽しみください。(文:THE CREATIVE ACADEMY インターン 岡野万之葉)
