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【小説】⚾なろう連載中ラノベのスピンオフ、noteでも投稿してみた(後編)

■ 光人視点③ 本編

 お昼を食べ終えて、再び水族館へ戻ると、ちょうどイルカのショータイムが始まる直前だった。俺たちはスタジアムへ向かい、上段の席に腰を下ろす。

「まだ席空いててよかったね」
「うん、ツイてる」

 車の中よりも距離が近い。隣に座った茉莉子さんの方を見ると、ドキドキしているのがバレそうで、俺はイルカのプールから目を離せなかった。

 ショーが終わった後は、もう一度見たいクラゲなどを巡りながら館内をゆっくり歩き、最後に立ち寄ったのはグッズコーナー。茉莉子さんが真剣にグッズを眺めている隙に、俺はこっそりシャチのキーホルダーを2個購入する。

「じゃあ、デニッシュソフト食べに行こう!」
「おー!」
「おっ、そのノリ好きよ。いいね」

 思わず片手を上げて返事してしまった俺。ちょっと恥ずかしかったけど、茉莉子さんが楽しそうなら、まぁいっか。
 向かったのは全国にも店舗があるチェーン系カフェ。だけどここでは人気が高く、休日には行列ができることも珍しくない。今日は運よく空席があり、すぐに案内された。

「わたしはデニッシュソフトとバナナジュース」
「じゃあ俺はチョコケーキと……ミックスジュースにしてみようかな」
「いつも頼むものは決まってないの?」
「うん、その時の気分で違うかも」

「へぇ、わたしはバナナジュース一択!ちなみに、おじいちゃんも同じ」
「監督、なんかかわいいですね」
「でしょ。講義が午後からの日は、おじいちゃんとモーニング食べに行くんだけど、二人してバナナジュース以外頼まないの」
「仲良しなんだな」

「うん。野球を始めたのも、おじいちゃんの影響だし。楽式の監督をしてるから、高校も翠嶺学園に決めたんだ」
「高校時代の茉莉子さん、見てみたかったな」
「スマホ機種変したときにデータ全部パソコンに移しちゃって、今のスマホには写真ないんだよね」
「そっか。残念……」

「日焼けもしてたし、若さだけが取り柄って感じだったよ」
「まぁ、すっぴんは普段から見せてもらってるし、いいか」
「それはどういう意味かな〜?」

 茉莉子さんは俺の鼻を軽くつまんできた。そういう無防備な仕草、ほんとに可愛い。

「お待たせしました」

 店員さんが注文したドリンクとスイーツをテーブルに置いて去っていく。……あれ、今のやり取り見られたかも?まぁ、いっか。

「そのチョコケーキ、まだ食べたことないの。ちょっと味見してもいい?こっちも分けてあげるから」
「もちろん。じゃあ、俺も遠慮なく」

 こういう何気ないやり取りひとつでも、なんだか期待してしまう。付き合ってもいないのに。焦るな、自分。

「温かいデニッシュにソフトクリームって、合うんだね」
「そうなのよ!だから季節問わず食べたくなるの。そっちのチョコケーキも、すごく濃厚で美味しい」
「俺の好きなもの、気に入ってもらえたみたいで嬉しいです」

「そういうセリフを、さらっと言えちゃうのね」

「え?」
「いや、新藤くんってすごくモテるって聞いてたから、やっぱり慣れてるんだな〜って思って」
「いやいや、俺、今まで野球一筋で誰とも付き合ったことないよ?」
「えっ、そうなの!?」

 そこ、そんなに驚くとこ?

「女の人をデートに誘うのも初めてだったし、家族以外の異性と二人きりで出かけるのも、今日が初めてだよ」
「それじゃあ……まるで、わたしが特別みたいじゃない」

 茉莉子さんが、少しだけからかうように微笑む。

「そうだけど」

 本当は、別れ際にそれとなく気持ちを伝えるつもりだった。でも、もうどうにでもなれ。

「俺、茉莉子さんのこと──一目惚れでした。本気で好きなんです。もし、高校生とは付き合えないっていうなら、卒業まで待たせてください。その間に、もっといい男になります。だから……」

「ご、ごめんっ」

「えっ!?……俺、振られた?」
「あっ、違う!そうじゃなくて!ごめんって、その意味じゃないから!」

 茉莉子さんが、あわてたように手を振って否定する。あたふたしているその様子が、なんだか可愛くて、ちょっと安心する。

「何度もデートのお誘いメッセージをもらって、だんだん新藤くんのことが気になってたの。でも……ちゃんと本気なのかどうか、分からなくて。それに、価値観が合うかどうかも知りたくて……それで今回のデート、OKしたの」

「うん」

「だから……新藤くんの気持ちを試すみたいなことをして、ごめんって言いたかったの」

「うん」

「わたしも……新藤くんのこと、気になっていると思う」

「う……うん!?」

 頭が一瞬、真っ白になる。
 テーブルの上、食べかけのデニッシュソフトのクリームが、ゆっくりと溶けていく。

「でも、私のほうが年上じゃない?だから……余裕を見せたかったというか、大人っぽく振る舞いたかったというか……」

 茉莉子さんは、少しはにかみながら俺の方を見た。
 その顔が、今までに見たどんな表情よりも柔らかくて、あたたかかった。
 もしかしたら今、俺は“楽式の後輩”じゃなくて、“ひとりの人間・新藤光人”として、ちゃんと見てもらえているのかもしれない──そんな気がした。

「俺は俺の幸せのために、茉莉子さんと付き合いたい」

 どんなことがあっても自分軸はブレさせない。

「うん」

 茉莉子さんは背筋を伸ばし、真っ直ぐに俺の目を見返してくる。

「わたし、今はまだ楽式の正式なコーチじゃないから、部員との恋愛って別に問題ないと思ってる。でも……新藤くんが卒業するまでは、基本的に周りには内緒でお願いね?」

 ……“今は”?

 その言葉に少しだけ引っかかったけれど、それはまた今度聞けばいい。

「それって、OKってことでいい?」
「うわぁ……濁したいのになんでそんなストレートに聞いてくるの?」
「俺、気に入らない相手にしか変化球は投げないから」

「もぉ~……」

 口を尖らせてそう言いながらも、嬉しそうに笑う茉莉子さん。
 部活の時には見せない、無邪気な表情がたまらなく可愛い。

「クリーム、溶けちゃってるよ」
「あっ、ほんとだ。急いで食べなきゃ。……デートの時に溶けるもの頼むのって、意外と危険ね」

 そう言いながら、デニッシュソフトを慌てて食べ始める。
 俺も一旦、気持ちをクールダウンさせよう。

「これ食べ終わったら、帰ろうか。家に着く頃にはちょうどいい時間になってると思う」
「うん。……次があるなら、今日はこれで十分」

 野球も恋も、攻めた者勝ち。
 手応えがあるなら、もう後には引かない。

「お昼は別会計にしたけど……ここはわたしに奢らせて。今日のお礼!」
「え、俺が年下だからって気を遣わなくていいのに」
「年下だからってわけじゃないの。対等でいたいのよ。……ずっと一緒にいるために」

 最後の言葉だけ、すごく小さくて、かろうじて聞き取れるくらいの音量だった。

「え?ごめん、今なんて?」
「……恥ずかしいから、もう言わないっ!」

 そう言って、茉莉子さんは急いで伝票を持ってレジへ向かっていった。
 まったく、ずるいな。──でも、次があるなら、今日は奢られてもいいか。

 

 車に戻り、行きと同じ道を走って帰る。
 行きの緊張感はもうどこかへ消えていて、胸の中には確かな手応えが残っていた。

 ちらっと茉莉子さんの運転する横顔を盗み見る。気づかれないように、そっと。

「ねぇ、ふたりきりのときは“茉莉子”って呼んでいい?」
「うん。……じゃあ、わたしは“光人くん”って呼ぼうかな」
「俺も、呼び捨てでいいよ」

「物事には“段階”ってものがありまして」

 段階なんて、すっ飛ばしても構わないんだけど。
 でも、茉莉子がそう言うなら、それでもいい。

「光人くんは、将来の夢とかある?」
「夢というより、“人生設計”かな」
「高一で人生設計って……すごいな。……わたしも見習って、ちょっと考えてみようかな」
「じゃあ、考えたら教えて」

「えー……それ、ちょっと恥ずかしいかも」

「俺は、全部話せるよ。ざっくりだけど──大学は、薬学部があって野球も強いところに入って、薬剤師の資格を取りつつプロも目指す。もし24歳でプロ入りできたら、40歳過ぎまで現役で活躍して……引退後は実家の薬局を継ぐ」
「す、すごいね……」

「俺、一人っ子だから。自分の夢も、親の希望も、どっちも叶えようと思ったら、この道が一番だって思ったんだ」
「だから、勉強も野球も誰より頑張ってるんだね」

「うん。やればやっただけ、ちゃんと結果に繋がるって信じてるから。──あ、そういえばさ。元アイドルでプロ野球選手と結婚した女子アナウンサー、覚えてる?中学でアイドルやって、スポーツもやって、高認合格して大学進学して、アナウンサーになって、野球選手と結婚。今、子どもが4人いるんだけど──」

「うんうん、すごい人生だよね。夢ぜんぶ詰め込んだ感じの」
「そう。俺、その人の人生知ったとき思ったんだ。“なりたいもの、全部なっていいんだな”って」

「……かっこいいな、そういう考え方」
「だから俺も、全部叶えていくつもり。あと──俺の人生設計には、茉莉子も入れたからね。絶対、離さないよ」

「ふぇっ!?」

 驚いた茉莉子さんが、びっくりした顔で一瞬こっちを向く。

「運転中は前見て、前!」
「……はいっ」

 自分で言っておいて、急に恥ずかしくなった。思わず、話を逸らす。

 

 そのあとは、楽式の次の練習試合の話や、秋の新人戦の話……つい野球の話ばかりになってしまって、気づけばもう商店街近くの駐車場に着いていた。

「──あ、そうだ。これ。お揃いで買ったんだ。一個、あげる」

 そう言って、俺は水族館で買ったシャチのキーホルダーを茉莉子さんに渡す。

「ありがとう。これ、車のスマートキーに付けようかな……。あ、そうそう、私からも──はいっ」

 差し出されたのは、小さなペンギンのぬいぐるみ。

「これ、わたしとお揃い。今日の記念にって思って買っちゃった。……でも、同じこと考えてたんだね」
「うん、そうみたい。──今日は、ほんとに楽しかった。……帰ったら、トレーニングも気合い入るな」
「えっ!?このあともトレーニングするの?」
「もちろん。この“毎日の積み重ね”が、結果を生むからね」
「高校生だったころのわたしに、光人くんの姿を拝ませたいわ…」

「拝むより、俺のこと──好きになって」

 

 すこしだけ、間があって。

 

「……もう、好きだよ」

 

◇◇◇◇

「先輩、大卒でプロ目指してるとは思ってたけど──家業を継ぐことも考えてたなんて、やべぇ……すげぇっす」
「って、お前も後藤田先輩も、大卒でプロ目指してるんだよな? なんかさ、同じ匂いを感じてたわ」
「薬学部って、6年だろ? 大変そうだが……新藤ならやれそうだな」
「“やれそう”じゃなくて、“やる”んですよ。“なる”んです」

「にしても……その甘酸っぱいエピソード、なんすか。茉莉子コーチがめちゃくちゃ可愛く見えてきましたよ」
「お前だって人のこと言えないだろ。白瀬のこと、ずっと好きなくせに」
「ちょ、なんで後藤田先輩の前で言うんすか!? それに、知ってるの颯真と大と七海だけのはず……なんで新藤先輩まで……」

「見てればわかる」

「俺も見てて、すぐわかった」
「うわぁ……他の人、特に和佳には絶対言わないでくださいよ……」

「告白しないのか?」

 そう問いかけると、赤星はさっきまでの茶化すような表情を引っ込めて、真剣な顔になった。

「……それは、ちゃんと“時期”を決めてます。今は、和佳が和佳らしく、好きなように過ごしてるのを見ていたいんです」

 
「──だが、将来プロを目指すなら、まずは練習あるのみだな」
「後藤田先輩……真面目すぎますよ……」

 本当は、別の言葉が喉まで出かかっていたけれど──
今ここで言うべきじゃないと思って、飲み込んだ。

 ……茉莉子との馴れ初め。
こうして話してみると、やっぱりちょっと恥ずかしい。けど──
間違いなく、俺にとっては大切な思い出だ。

 

 部活と学業に追われて、まだ数回しかデートもできてないけど……
これから先、あいつに──あっと驚くような景色を見せてやれたらって思う。


ここまでお読みいただきありがとうございました。
頭の中にはこの二人のエピソードがたっくさんあるのですが、脇役なので妄想で終わらせる可能性が高いです。

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