【小説】同級生になりたい ― スピンオフ 第1話(全4話)
「みんなに協力してもらいたい話があります」
春休みの日曜日、リビングに家族と居候全員が集められた。
「きょうりょくって、なにをするの?」
弟の律希が母さんに首をかしげて尋ねると、父さんがにこやかに答える。
居候の二人はソワソワしているけれど、我が家の人間は誰も驚かない。――これが日常だからだ。
「お母さんのお腹に、四人目の赤ちゃんができました! だから、これからは家事や育児に協力してね」
シンプルで的確な母の言葉。
……って、赤ちゃん!?
僕の名前は長尾春希。
四月から高校一年生になる、ごく普通の学生――と、言いたいところだけど。
うちの家庭環境を知ったら、きっと誰もが「普通じゃない」と思うはずだ。
両親は企業内弁護士で、真面目に見られがちだけど……二人そろって、ちょっと変。いや、だいぶ変だ。
そして僕が引くほどラブラブな夫婦だ。特に父さんの愛は、正直ちょっと重い。
父さんと母さんは、まわりがちょっと驚くくらい若い頃に僕を授かったらしい。
母さんいわく、「できちゃった」じゃなくて「頑張った結果」らしい。――意味わからない。
さらに、ひいじいさんとひいばあさんを中心に、周囲も秘密裏に協力していたらしい。
当時は色々と誤解を招かないように、ごく一部の人しか本当のことは知らなかったそうだ。
至るところに爆弾発言を投げつける母さんだが、今度は「赤ちゃんできました」って……
年齢的に心配しなくていいのか?と戸惑っていると、父さんが僕に向かって微笑む。
「いずれはもう一人どうしても欲しかったんだって。無理はさせないから安心して」
……色々、見透かされているんだよね。
「俺たち、このまま居候していていいのか?」
「今さらアメリカに go back って言われても困るんだけどな」
と、居候二人が不安そうに言い出した。
父さんの弟の光浬くんと、母さんの弟の亮佑くん。つまり二人とも、僕の叔父だ。
二人とも、4月から僕と同じ高校に通うことになっている。
「わたしだって二人と一緒に住めるの、楽しみにしていたんだから追い出したりしないわよ」
「あなたたちもいずれは家庭を持つかもしれないんだから、今のうちに育児経験をしておいたほうがいいと思うし? だから積極的に手伝ってね」
母さんがにこやかに言う。……つまり、ここにいる全員をこき使う気らしい。
「二人とも末っ子だし、小さい子を育てた経験もないだろうから、ちょうどいい機会だと思うよ。一緒に頑張ろう」
父さんは、母さんのことになると暴走するけれど、それ以外は前向きでポジティブだ。
同級生になる叔父さんたち、うちの両親はそんなことで追い出したりしないから安心してほしい。
ただ、母さんにこき使われることだけは覚悟しておいたほうがいい。
「亮がこっちで高校受験するって聞いたとき、俺も祐兄たちと一緒に住んでみたくて受験頑張ったもんなぁ……」
「俺も、ずっとアメリカ暮らしだったから try living in Japan をしてみたかったし、姉貴とも一緒に住んでみたかった。確かに受験はきつかったよ、国語や社会なんてマジヤバかった」
「居候の条件が『県で一番の進学校に合格すること』って決めた母さんも鬼だけど、それでも二人ともちゃんと合格できたんだからすごいと思う」
「その理由も、『高校の行事とか保護者面談とか、あちこち行くのが面倒だから春が通う高校に合わせちゃえ』なんだもんな」
亮くんも光浬くんも、うちに住むようになってまだ一ヶ月も経っていないけれど、かなり馴染んできたと思う。
来たばかりの頃は、兄姉(僕にとっては両親)に対してもぎこちなくて、何かおかしかった。
きょうだいでも、初めて一緒に住むときはそうなるものなのかもしれない。
クラスも一緒になれるかどうかはわからないけど、この二人となら――高校生活も楽しめる気がする。
「おかあさんのおなかに、あかちゃんいるの?」
僕に抱っこされていた美希が、目をまんまるにして聞いてきた。
「そうだよ。美希はお姉ちゃんになるんだ」
「おねえちゃん!? みき、おねえちゃんになる! おにいちゃんしかいなかったし!」
……これから生まれてくる子から見れば、兄も姉もいることになるから、美希が言っているのは正しいのかもしれない。
幼児の発言って、意外と侮れないな。

🌸あらすじ
春休みのある日曜日、長尾家のリビングに家族と居候たちが集められた。
母・星希が告げたのは――「四人目の赤ちゃんができました!」という突然の爆弾発言。
四月から高校一年生になる長男・春希は、
弟の律希、妹の美希、そして居候中の叔父たち(同級生になる予定)と共に、
にぎやかすぎる家の暮らしの中で新しい春を迎えようとしていた。
高校入学を前に、不安もあるけれど――
騒がしくもあたたかな毎日が、きっとこれからも続いていく。

🔖 このスピンオフを書くことになった経緯などについては、下記の記事にまとめていますので、あわせてご覧いただけたら嬉しいです。
