値段じゃなかった。DX投資の稟議が"通らない"本当の理由
「通したことのない稟議なので、進め方が分からないんです」――商談で、そう言われたことがあります。
DX投資の稟議が通らない理由は、金額が高いからではありません。決裁者の手元に、判断できる材料が届いていないからです。値引きをしても通りません。足りないのはお金の調整ではなく、説明の材料です。
システム開発会社でCOOをしているaki.mといいます。経歴は総務・労務と経理で、コードは書けません。発注する側と同じ目線で、システム開発の話を書いています。
今日は、うちが実際に経験した「見送りになった商談」の話から始めます。担当の方は乗り気で、予算の話もしていて、それでも通らなかった。あの案件で何が起きていたのかを、発注する側の視点に置き換えて書きます。
なぜ「予算内の提案」でも稟議は通らないのか?
担当者は乗り気だった。それでも通らなかった
ある繊維を扱う専門商社さんとの商談でした。手書きの帳票をスプレッドシートに手入力する業務があって、担当の方は「AIで効率化できないか、上からも問われている」と前向き。ヒアリングを重ねて、先方が口にされていた予算感の範囲内で提案を出しました。
結果は、「予算が合わない」での見送りでした。
……予算の範囲内なのに、予算が合わない。変ですよね。わかります。私も最初は「?」でした。
「予算が合わない」は、本当の理由ではないことが多い
振り返って分かったのは、こういう構造です。
窓口の担当者さんは乗り気。でも、その方に決裁権はない。提案の内容は、窓口→判断する立場の方→最終決裁者、と伝言リレーで上がっていきました。私たちは最後まで、最終決裁者にお会いすることができませんでした。
伝言リレーの中で、費用対効果の説明も、「なぜ今この会社に頼むのか」という理由も、少しずつ薄まっていきます。決裁者の手元に届いたのは、おそらく「数百万円かかるらしい」という金額の情報だけ。課題の深刻さも、効果の見込みも届かないまま、金額だけが独り歩きすれば、答えは「高い」一択です。
「予算が合わない」は、正確に言えば「承認する材料がないので、金額を理由に止めた」だったのだと思います。
担当者は、何としても通したかったはずなんです
担当の方が「何としても通したい」と思ってくださっていたことは、商談の雰囲気から伝わってきていました。
ただ、決定的に決裁者に伝えられる術を見つけられていない。そのことへのもどかしさがあったのかなと、今考えると思う部分があります。
そしてたぶん、担当の方も開発会社である私たちに何を聞けばいいのか、分からなかったのではないでしょうか。「稟議を通すために何が要るのか」を私たちに相談していい、という発想自体がなかったのかもしれません。
だからこれは、発注する側だけの問題ではないんです。開発会社側としても、もっと「担当者の気持ちになって商談を進める」ことが重要なんだと実感した商談でした。
稟議が止まる3つの構造とは?
見送りになった商談を深掘りしていくと、DX投資の稟議が止まる理由は、だいたい3つに整理できます。
構造1:社内で承認を通す「材料」がない
初めてのIT投資、つまり「通したことのない稟議」の会社は、金額の妥当性より先に、社内で説明する材料がなくて止まります。
実際、商談で窓口の方からこう言われました。「通したことのない稟議なので」。金額のことは分かった、でもこれをどう上に説明すればいいのか分からない、と。費用対効果の試算、1枚で分かるサマリー、同じような会社の事例。こういう材料がないと、良い提案でも社内で前に進みません。
これ、担当者さんの能力の問題ではないんです。初めてなんだから、材料の作り方を知らないのは当たり前。問題は、材料づくりを担当者ひとりに丸投げする構造の方です。
構造2:伝言リレーで提案の価値は必ず劣化する
窓口の担当者と、実際にハンコを押す決裁者は、別人であることが多い。そして間に人が挟まるほど、提案の価値は薄まって伝わります。
担当者が理解した100の価値は、判断者には70、決裁者には40しか届かない。逆に「数百万円」という金額だけは、劣化せずにそのまま届きます。価値は薄まり、金額はそのまま。この非対称が、稟議が落ちる典型パターンです。
(この「窓口と決裁者は別人」問題は根が深いので、対応のしかたは別の記事で詳しく書く予定です)
構造3:現場の予算感と、決裁できる金額はズレている
もうひとつ、見落とされがちなのがこれです。現場の担当者が言う「これくらいなら大丈夫だと思います」という予算感と、決裁者が実際に承認できる金額のラインは、ズレていることが多い。
先ほどの商談でも、先方の予算感の範囲内で提案したのに通りませんでした。現場感覚の予算は、あくまで現場感覚。「予算感を聞けた=その金額なら通る」ではありません。発注する側も、受注する側も、ここを混同すると空振りします。
決裁者は、何を見ているのか?
では、最終的にハンコを押す人は何を見ているのか。
決裁者には時間がありません。担当者向けの分厚い資料を読み込む時間はない。見るのは「いくらかかって、何がどれだけ良くなって、何年で回収できるのか」。つまり費用対効果が1枚で分かるかどうかです。
担当者と決裁者では、見ている視点がそもそも違います。担当者は「このプロジェクトが失敗しないか」を気にする。決裁者は「この投資が会社の利益になるか」を見る。同じ資料で両方を説得しようとするから、どちらにも刺さらない資料になるんです。
そしてもうひとつ。商談で上長の方がぽろっとおっしゃった言葉が、今でも印象に残っています。「削減効果は分かるんだけど、それをどうやって見える化するか、が難しい」。効果があることは分かっている。でも、それを紙の上で証明できない。決裁者が欲しいのは"効果の実在"ではなく"効果の見える化"なんですよね。
上長を説得するのに、熱意は要りません
社内のDX担当者の気持ちというのは、どこの会社にもあるジレンマなのではないでしょうか。本当はこれをやった方がいい。現場の感覚ではそう分かる。ところが経営判断としては「やらない方がいい」となる。こういう経験は、多かれ少なかれ誰にでもあると思います。
これは開発会社の視点というより、一般の会社員としての視点なのですが――上長を説得する、決裁者を説得するときに必要なのは、熱意でも効率化でもありません。まず第一に数字です。
このシステム導入にかかる予算。導入によって生まれる導入コスト。導入後に分かる費用対効果。効果が表れて、利益が投資額を上回る損益分岐点。この辺りが重要な判断材料になると思っています。
特にIT投資が初めてという会社さんだと、「よくわからない」で止まったりします。だからこそ、この数字の部分は特に注意して上長に伝えるべきなのだと思います。
発注する側は、明日から何をすればいいのか?
ここまでの構造を踏まえると、やることはシンプルです。3つあります。
手順1:最初に「最終的に誰が承認するのか」を確認する
社内でシステム導入を検討し始めたら、まず「この金額規模だと、最後は誰の承認になるのか」を確認してください。稟議のルートが見えていないまま検討を進めると、最後の最後で「そんな話は聞いていない」が起きます。ベンダーとの商談にも、可能なら決裁者に一度は同席してもらう。難しければ、決裁者向けの短い説明の場を別に設けるだけでも通り方が変わります。
手順2:説明材料は、開発会社に要求していい
費用対効果の試算、1枚サマリー、同業の事例。こうした稟議の材料づくりは、担当者がひとりで抱え込む仕事ではありません。開発会社に「社内説明用の資料が欲しい」と言っていいんです。
冒頭の商談で、担当の方はおそらく「私たちに何を聞けばいいのか」が分からなかったのだと思います。聞いていいんです。「稟議を通すために何が必要ですか」と。
先ほど挙げた導入コスト・費用対効果・損益分岐点といった数字は、正直、発注する側だけで組み立てるのは難しい。そこを一緒に組み立ててくれるかどうかは、開発会社を見極める材料にもなります。発注が決まる前の段階から社内の通し方まで一緒に考えてくれる会社と、見積書を出して待っているだけの会社。どちらが導入後も伴走してくれそうかは、明らかですよね。
手順3:言葉と数字で通らないなら、「動くもの」で見せる
「削減効果の見える化が難しい」問題への、いちばん強い答えがこれです。文章と数字の資料で伝わらないなら、実際に動く画面を決裁者に見せる。手元の帳票が読み取られてデータになる瞬間を目の前で見せられたら、分厚い説明資料は要りません。
商談でも「まずシステムを一度見せてもらえれば、イメージしやすい上に、予算的にも出しやすい」と言われたことがあります。動くものは、担当者が決裁者を説得するための最強の稟議材料になります。契約前の段階でそれを用意できる方法があるなら、使わない手はありません。
よくある質問
Q1. 動くデモは、決裁者への説明材料として使えますか?
使えます。動くデモがあると、社内稟議や決裁者への説明が格段にスムーズになります。文章で「効率化できます」と書くより、実際に動く画面を見せる方が、費用対効果のイメージが一瞬で伝わるからです。決裁に上位層が絡む案件ほど、「言葉の資料」より「動くもの」が効きます。
Q2. 費用は初期費用ですか?それとも毎年かかるものですか?
システム開発の費用は二層構造です。開発費は一時(初期)費用。運用が始まると、保守費と、利用量に応じたAI・インフラの費用が別途かかります。稟議に載せるときは、初期費用だけでなく「月々いくらで、何年使う想定か」までセットにすると、決裁者が判断しやすくなります。
Q3. 要件がまとまっていない・予算が確定していない段階でも相談できますか?
できます。「こんなことがやりたい」レベルで大丈夫です。要件書も企画書も要りません。むしろ稟議を通す前の段階から相談して、説明材料を一緒に作ってもらう方が、社内決裁はスムーズに進みます。
最後に少しだけ宣伝です。
「効果は分かっているのに、上にどう説明すればいいか分からない」「通したことのない稟議で、進め方が見えない」――もしそういう状態なら、言葉で説明する材料を増やすより、一度"形になるもの"を見て(見せて)判断するのが早いです。
私たちテックビーンズは、契約前に無料で動くプロトタイプを作る「ゼロスタート」というサービスをやっています。実際に動くものは、あなた自身の判断材料になると同時に、決裁者への最強の説明材料になります。
導入に対する費用対効果の指標を出すためのツールもご用意していますので、担当者の方が決裁を貰うためのポイントも含めてお伝えできます。
話を聞くだけでも、辞退していただいても大丈夫です。気になったら覗いてみてください。
▶ ゼロスタート:https://techbeans.co.jp/lp/zerostart
筆者プロフィール 株式会社テックビーンズ COO。総務・労務・経理出身の非エンジニア。システム開発を「発注する側と同じ目線」で書いています。
