週刊アンチ・ドーピング通信 #2|「所持」だけで違反?知らなかったでは済まないルール
## はじめに
こんにちは、TechKeepです。今週のアンチ・ドーピング情報をお届けします。
創刊号では2026年禁止表の変更点と冬季五輪直前の停止事件を取り上げました。
「ドーピング」という言葉は広く知られていますが、「正確に説明できますか?」と聞かれると意外と答えにくいものです。「禁止薬物を使うこと」「試合中にズルをすること」というイメージはあっても、具体的な定義やルールの全体像を把握している人は多くありません。
今週は第2号として、アンチ・ドーピングの「基本のき」——ドーピングとは何か、誰がルールを作っているのか——を丁寧に解説します。アスリートの方も、サポートスタッフの方も、ぜひ読んでみてください。
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## トピック①:ドーピングの正式定義——「使用」だけじゃない
多くの人が「ドーピング=禁止薬物を使うこと」と思っています。しかし正確には違います。
世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が定めるルールブック「WADAコード(世界アンチ・ドーピング規程)」では、ドーピングを次のように定義しています。
> ドーピングとは、アンチ・ドーピング規則違反の1つ以上が発生すること。
つまり、「禁止物質を使う」だけでなく、以下のような行為もすべて「ドーピング(規則違反)」に該当します。
現行のWADAコード(2021年版)では、11種類の違反行為が定められています。
1. 競技者の検体から禁止物質・代謝物・指標が検出されること
2. 禁止物質または禁止方法を使用すること、または使用を企てること
3. 検体採取の拒否または回避
4. 居場所情報義務の違反
5. ドーピング・コントロールのプロセスに対する改ざん、または改ざんの企て
6. 禁止物質または禁止方法の所持
7. 禁止物質または禁止方法の不正売買
8. アスリートへの禁止物質投与・企て、または不正売買の幇助
9. 禁止された共謀行為
10. 禁止された関与(制裁中の関係者との協力など)
11. 内部告発者への報復行為
注目してほしいのは「6番:所持」です。「使っていない」「試合では使わなかった」という状況でも、禁止物質を持っているだけで違反になります。これは多くの人が知らない重要なポイントです。
> 薬剤師ポイント:薬剤師の実務でも「この薬を持っていくだけでアウトになる可能性があります」という説明が求められます。スポーツファーマシストとしての相談対応では、旅行・遠征・海外試合前の持参薬チェックが特に重要な場面です。
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## トピック②:WADAとは?——なぜ「世界共通」のルールが必要なのか
アンチ・ドーピングのルールは、なぜ世界共通なのでしょうか。昔は競技団体ごとにバラバラのルールがありました。「この競技では違反でも、あの競技では違反にならない」という状況では、スポーツの公正性が守れません。
こうした問題を解決するために設立されたのが、WADA(World Anti-Doping Agency:世界アンチ・ドーピング機構)です。
WADAの概要:
- 設立:1999年、スイス・ローザンヌ
- 組織形態:政府とスポーツ団体が共同で運営する独立機関(IOCではない)
- 主な役割:禁止表(どの物質・方法が禁止か)の制定・管理、WADAコードの策定・改訂、各国アンチ・ドーピング機関の監督
WADAが2003年に「WADAコード(世界アンチ・ドーピング規程)」を採択したことで、全ての国際競技連盟・各国のアンチ・ドーピング機関(NADO)が同じルールのもとで活動できるようになりました。
ここで誤解されがちなポイントがあります。「アンチ・ドーピングはIOC(国際オリンピック委員会)が管轄している」と思っている方もいますが、それは誤りです。1998年のツール・ド・フランスでの組織的ドーピングスキャンダルをきっかけに「競技団体が自らを管理する構造」の限界が露呈し、独立した国際機関としてWADAが必要とされた経緯があります。
日本では、WADAコードを実施する国内機関として、JADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)が活動しています。アスリートへの教育・啓発、検査の実施、違反の調査・審理などを担当しています。
> アスリートへのヒント:「禁止表に載っているかどうかわからない」という場合は、JADAが提供するGlobalDRO(https://www.globaldro.com/JP/search)で検索できます。薬の名前を入力するだけで、その薬が禁止されているかどうかを確認できます。
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## トピック③:WADAコードは「生きたルール」——改訂の動きにも注目を
WADAコードは一度決まったら永久に変わらないわけではありません。社会情勢や科学技術の進歩に合わせて、数年ごとに改訂が行われます。
現行は2021年版ですが、2026年3月にはJADAが「2027年版世界アンチ・ドーピング規程のページを開設した」と発表しました。2027年1月1日には次の改定版が発効する予定です。
また、WADAは2026年4月1日から「検査・捜査に関する国際基準」の改定版も発効させています。血液採取前の競技者の安静時間に関するルールが変更されるなど、細かい部分も随時アップデートされています。
「禁止物質を確認した」「以前は大丈夫だったから今回も大丈夫」——こうした判断は危険です。禁止表は最低年1回改訂され、物質の分類が変わることもあります。最新情報を確認する習慣が、アスリートとサポートスタッフの両方に求められます。
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## まとめ
今週のポイントをまとめます。
- ドーピングとは「アンチ・ドーピング規則違反全般」のこと。使用だけでなく「所持」も違反
- WADAコードでは11種類の違反行為が定められている
- WADAは1999年スイス・ローザンヌ設立。IOCではなくWADAが国際的な統括機関
- 日本の実施機関はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)
- WADAコードは定期改訂される。最新情報の確認が不可欠
「知らなかった」では通用しないのがアンチ・ドーピングの世界です。疑問がある薬・サプリメントがあれば、ぜひスポーツファーマシストや薬剤師に相談してください。
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## 著者プロフィール
**TechKeep_pharma**
JADA認定スポーツファーマシスト・薬剤師
アスリートへのアンチ・ドーピング相談・教育活動を行います。
Kindle書籍「薬剤師・薬学生のためのアンチ・ドーピング入門」準備中
X:https://x.com/TechKeep_pharma
note:https://note.com/techkeep_pharma
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## ご利用にあたって
禁止表国際基準は最低年1回、WADAコードも随時改訂されます。
当アカウントは正確な情報発信を心がけていますが、最新情報は必ずGlobalDRO・JADAの公式情報でご確認ください。
ドーピング違反に関わる最終判断は、アスリート自身の責任において行われます。
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