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【蝦夷幽世問わず語り】雷神

アイヌ伝承では、雷を司るカムイをカンナカムイと呼ぶ。字義は【上方のカムイ】。クンネカムイ(暗がりのカムイ)またはシカンナカムイ(真の上方のカムイ)とも呼ばれる。パセカムイ(重いカムイ)の中でも最も気性が激しい一柱とされ、畏れ敬われた。

〈容姿〉
ヒトの姿で下界に降りる事が多いが、その本相は丸木舟の材料になりそうな大木程に胴が太く巨大な蛇、または龍だとされる。龍の姿を取る際、そのイメージは概ね中国や日本のそれと変わらない。
またこうした背景から、アオダイショウはカンナカムイの眷属とされる。

〈性質〉
邪悪な存在では無く、寧ろ位の高い善なるカムイであるが、非常に気性が荒い。下界の様子を見る為に【シンタ】(※)と呼ばれるカムイの乗り物に腰を降ろして空を飛び回るが、この際人間がわざと乱痴気騒ぎをしたり、無礼な振る舞いをしたりしようものなら、怒りに任せて大嵐と雷を用い下界を滅茶苦茶に破壊してしまう。こうした伝承は日高地方や沙流川の上流域に特に多く伝わる。
一方で特定の人間の守護神となり、良い運を授ける事もある。沙流川流域には貧乏な若者が、カンナカムイのツノを秘宝として授けられ、良い暮らしを送った話が伝わる。

また、カンナカムイには息子や娘が沢山居たが、その中には父親に似ず性の悪い者が多く、中には人間に岡惚れして誘惑したり強奪しようとして、別のパセカムイの助けを借りた人間に退治される者も多かった。そうしたカンナカムイの娘のひとりが退治された後、切り刻まれた骸がマカヨ(フキノトウ)になったと言う伝承があり、フキノトウが成長した蕗(アイヌ語では【コルコニ】。茎を食用にするのみならず、葉を狩り小屋の屋根を葺くのに用いる)の茎が蛇のようにひょろ長いのは、カンナカムイの娘から化身した名残りだからだ…と伝えられている。

〈備考〉
カンナカムイを【人間誕生に関わった重要なカムイ】とする伝承は有名である。アイヌモシリが誕生して間も無い頃、モシリにハルニレ(アイヌ語では【チキサニ】)とオヒョウダモ(アイヌ語では【アッ二】)のカムイである美しい娘が住むようになり、カンナカムイはそのふたりの美しさに見とれていた。そこへ別のカムイが悪戯をしてカンナカムイを突き飛ばした為、カンナカムイは地上のふたりの姫の上に落ちてしまった。カンナカムイの神気によりふたりの姫は懐妊し、やがて生まれた子はアイヌの人々の始祖になった…と言うものである。
因みに、ハルニレは火を熾す時に役立ち、オヒョウダモは樹皮から繊維を採って着物を作る事から、アイヌの人々から特に聖なる木とされていた。

〈附記〉
カンナカムイについて、アイヌ文化継承に多大な功績を残した故・萱野茂さんの著書に興味深い記述があるので、以下、引用させていただきます。

カンナカムイ(竜の神)はアイヌ民族が生みだしたものか、外来のものを取り入れたのか、よくわかりませんが、外来説は次の二つのコースをたどってアイヌ社会に入ってきたものと思われます。一つは日本本土から渡ってきた漆塗りの器に描かれた絵から想像したのでしょう。もう一つは、日本本土との交易以前にカラフトを経て中国との往来があったらしいので、中国製の竜の絵を見たと思います。しかし、一方でアイヌ民族の想像性の豊かなことは日本語に訳していて、驚くようなことがありますので、アイヌ民族が創作したものとも考えられ、断定はできません。

萱野茂【アイヌと神々の物語】収録【七人目の婿】より

※本来はアイヌの人々が用いた、赤ん坊を寝かせる為の揺り籠の事

カンナカムイ
(テクパン・クリエイト筆)

参考資料
アイヌの物語世界(中川裕著、平凡社)
アイヌと神々の物語(萱野茂著、ヤマケイ文庫)
アイヌ民話集(更科源蔵著、青土社)

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