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sado774
月を歌ったスタンダード It’s Only a Paper Moon —— 紙の月
It’s Only a Paper Moon を聴くと、私は時々、2007年のシンガポールを思い出す。
RTO の準備に追われていた頃だ。
昼間は、数字と契約書と説明資料。
まだ形になっていない価値を積み上げ、
人に「これは本物だ」と信じてもらう仕事だった。
“It’s a Barnum and Bailey world,
just as phony as it can be…”
この曲の少し皮肉っぽい響きが、妙に好きだった。
夜になると、私は Boat Quay のジャズクラブへ向かった。
浴衣に着替え、
アイラ・モルトをグラスへ注ぎ、
時にはマイクを握る。
昼間とは別の世界だった。
けれど今振り返ると、どちらもどこか似ていた気がする。
人は、「本物」だから信じるのではない。
信じようとするから、
そこに本物が生まれてくる。
ジャズもそうだ。
ほんの数小節の即興が、
その夜だけの真実になる。
酒を置き、静かな暮らしになった今でも、満月の夜にこの曲を思い出すことがある。
すると時折、
昔の自分が、ボートキーの湿った夜風の中で、少し照れたように笑っている気がする。
“It’s only a paper moon…”
案外、人生もそんなものなのかもしれない。
