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ミステリー小説『誤認逮捕状』第四章 二十一

第四章
二十一
「配膳だ」
 日曜日の朝が来た。
 遠山が死んで、二週間が経った。
 元哉は、木曜日の朝に連行された。
 ということは、逮捕から丸三日が経過したことになる。
 朝食後、池守が面会に来てくれた。
「まずは、契約書についてです」
 昨日、頼んでいたものだ。
「寄居さんを契約者として、作り直しました。窃盗の件を含めて、今後はなんでも私にご相談ください」
「ありがとうございます」
「新しい契約書は、後ほど差し入れ品として、警察から寄居さんの手に渡ると思います。内容を確認いただき、署名して警察に返してください」
 元哉は、面会前に渡されるいつものペンを見つめた。
 契約書へのサインも、この書きにくいペンでするのだろうか。
「ちなみに、新しい契約書には、安田さんとの旧契約が失効する旨を明記しています。彼女にもその旨を伝えて、合意解約の書面を交わします」
「何から何まで、ありがとうございます」
「契約に関して、何か質問はありますか?」
「ありません」
 軽く咳ばらいをして、池守が姿勢を正す。
「その後、警察の取り調べはありましたか?」
「昨日の夕方、ありました。藤村という若い刑事だけでしたが」
「どんな質問をされましたか?」
「藤村は、どうしても私が遠山を殺したと思っているみたいです。動機は、美崎さんと結婚したいからだと。そういえば、取り調べの前に彼は群馬県の太田市まで、美崎さんに会いに行ったそうです」
 昨日の様子を、事細かく池守に伝える。
「そういえば、尋問の中で不可解なことがありました」
「なんですか?」
「私と美崎さんの連絡です。普通にやり取りをしていたのに、彼女は私のメッセージを受け取っていないと刑事に伝えたそうです」
「……それは不思議ですね」
「ええ。最初は刑事が鎌をかけてきているのかと思いましたが、そうでもなさそうで」
「メッセージをやり取りしていたのは、間違いなんですね?」
「はい。百パーセント確実です」
「でも、警察なら寄居さんのスマホを調べれば、すぐにわかることだと思いますけど」
「……それがですね」
 元哉は、会話の履歴はすべて消していたことと、その理由、そして警察がまさにスマホデータの復元をしていることを告げた。
「削除されたデータを復元するとなると、時間がかかりそうですね」
「ええ」
「他に、気になったことはありますか?」
 少し考えて、元哉は補足する。
「これは逮捕される前のことですが、遠山と知り合った経緯を警察から聞かれたとき、偶然だって、嘘をついていたんですよ」
 池守は、メモを取りながら聞いている。
「でも実際には偶然ではなく、彼女から情報をもらって、僕から近づいたんです。それを刑事の前で白状しました」
「どうして、嘘を?」
「面倒なことになるのが嫌で」
「まあ、そうおっしゃる方は珍しくはないです」
 真剣なまなざしを向けて、池守が助言する。
「ただ供述に虚偽があったり、二転三転したりすると、信用できない人物と見なされてしまいます」
「はい」
「今後は、一貫した説明を心がけましょう。それから、答えたくない質問には黙秘権を使うことで、自分を不利にすることを防げます」
「……わかりました。ところで、先生にお願いがあります」
「なんでしょう?」
「メッセージのやり取りの件を、先生から彼女に確認してもらえませんか?」
「つまり、本当に美崎さんがそのような証言を警察にしたのかどうかを、私から直接聞くということでしょうか?」
「そうです。だって、僕は絶対にやり取りしていましたから」
「でも、警察の解析が進んで、スマホのデータが復元されれば、寄居さんの言っていることが正しいと証明されますよ」
「それはそうですけど……」 
「それでも、確認を要望されますか?」
「はい。納得いかないんですよ。たとえばデータが復元されて、僕が正しかったと証明されたとします。だとすると余計に、なぜ彼女が警察に嘘をついたのか。その真意を知りたいんです」
「わかりました」
「やっていただけますか?」
「できる範囲で確認してみます」
「ありがとうございます」
 池守は、どうやってコンタクトしたらいいかと聞いてきた。
「困ったな。携帯番号は、覚えていないんですよ。スマホは取り上げられちゃったし」
「では、会社のどなたかに聞いたらいいんですかね?」
「そうだ。石橋さんはどうですか?」
「大丈夫です。安田さんから依頼を受けたときに、自分と連絡がつかない場合は、石橋さんに連絡してくださいと、携帯番号を教えてもらいましたので」
「よかった。あともうひとつ、これも彼女に聞いてほしいことなんですけど」
 元哉は、逮捕前から気になっていたことを池守に話した。
「どうして、そのような質問を希望されるのですか?」
 探るような表情で、池守が尋ねる。
「たいした理由はないです。個人的なことでして」
「寄居さん」
 池守が、真剣な顔つきで呼びかけた。
「はい?」
「我々弁護士は刑事事件を扱うとき、知らぬ間に犯罪に加担してしまうことを避けなければなりません。伝言や質問に暗号が潜んでおり、それゆえ加担のリスクがあると判断した場合、たとえ依頼者であっても、お断りすることがあります」
「あ、そんな大それたものではありません。ただ、事実かどうか知りたいだけです。無理なら、別にやらなくていいです」
 軽い気持ちで依頼したことが、そんな風に認識されるとは予想もしていなかった。
「質問や伝言はせずに、そのような事実がありそうか探るくらいなら可能です」
「それで構いません。よろしくお願いいたします」

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