drake 3枚は驚いた話
Drakeは世界を動かす|『ICEMAN』三部作と“Not Like Us後”のヒップホップ
2026年5月15日
Drakeが突然、世界をDrakeの話に戻した。
『HABIBTI』
『ICEMAN』
『MAID OF HONOUR』
まさかの三部作同時リリース。
しかも、ただ曲数が多いだけじゃない。
YouTubeではEpisode形式の映像が公開され、Pinocchio、不穏な氷、裏切り、人間不信、孤独、夜の街。
完全に“映画”だった。
正直、ここまでやるとは思わなかった。
去年、Kendrick Lamarの「Not Like Us」が世界を飲み込んだ時、空気は完全に変わった。
あれは単なるディス曲じゃなかった。
カルチャーそのものを書き換えた。
「Drakeはカルチャーを利用している」
「Atlantaに寄る」
「West Coastを利用する」
「本物じゃない」
Kendrickは、Drakeの現在だけじゃなく、“過去の見え方”まで変えてしまった。
正直、勝敗だけで言えば、あの時点で空気は決まっていたと思う。
Kendrick Lamarは男だった。
言うべきことを言い、背負うものを背負い、ComptonやWest Coastの歴史、ヒップホップの地元性、カルチャーへの敬意まで全部を乗せて戦った。
「Not Like Us」は、もう“曲”ではなく現象だった。
だから今回のDrakeの三部作を聴いた時も、勝敗がひっくり返ったとは思わなかった。
正直、“後出し感”はある。
Kendrickが先に歴史を書き換えて、その後にDrakeが巨大なアンサーを返してきたようにも見える。
でも。
それでも思う。
Drakeはやっぱり凄い。
悔しいけど、聴いてしまう。
しかも普通に良い。
3枚とも方向性が違う。
『HABIBTI』は夜。
多国籍な空気、女性、甘さ、湿度。
Torontoの夜景みたいなアルバムだった。
『MAID OF HONOUR』は傷。
タイトルの時点でDrakeっぽい。
“花嫁”じゃなく“花嫁介添人”。
主役になれなかった側。
恋愛、未練、届かなかった関係、愛情不足。
今回のDrake、強がってるというより、傷ついた後の人間に見えた。
そして『ICEMAN』。
これが今回の核だと思う。
氷。
普通ヒップホップで“ice”と言えば、ジュエリーや成功の比喩だ。
でも今回のDrakeは違う。
感情を凍らせた男。
「What Did I Miss?」で見せた、人間不信、裏切り、両側につく仲間たちへの怒り。
Pinocchio演出もかなり意味深だった。
嘘。
操り人形。
本物になれない存在。
あれは、業界や世論に振り回されるDrake自身にも見えた。
だから今回の『ICEMAN』は、“勝利宣言”というより、“後遺症アルバム”に近い。
Kendrickとの戦いを経て、Drakeが人格ごと変化したような作品だった。
ただ面白いのは、そんな状態でもDrakeは世界を動かす。
これは本当に凄い。
良い悪い関係なく、全員がDrakeの話をしている。
SNS、YouTube、TikTok、ニュースサイト、配信者、DJ、ヒップホップファン。
全部がDrake。
これって単なる人気じゃなく、“重力”に近い。
普通のアーティストはヒット曲を作る。
でもDrakeは、空気そのものを変える。
そして今回、個人的にかなり面白かったのが客演。
まずCentral Cee。
正直、今回かなり良かった。
しかも面白いのは、“Drakeが勝った”というより、“Central Ceeの良さがさらに上がった”感じがしたこと。
Central Ceeって、UKドリル以降の“世界型ラッパー”の象徴みたいな存在だと思う。
ロンドンの空気感を持ちながら、世界中で成立する。
そのCentral CeeとDrakeが並ぶことで、Drakeの“グローバルヒップホップ”感がより強く見えた。
Kendrickが「地元」を背負うなら、Drakeは「世界」を接続する。
その象徴みたいな曲だった。
そしてFuture。
これは普通に驚いた。
去年の「Like That」以降、Futureって完全に“向こう側”の象徴みたいになっていた。
Kendrickのディスが世界を変えた瞬間、その起点にはFuture & Metroがいた。
だから今回、FutureがまたDrakeと並ぶっていうのは、かなり意味深。
もちろん完全和解なのか、ビジネスなのかは分からない。
でも少なくとも、“絶対に戻れない関係”ではなかったということ。
しかも、Futureとの曲を聴いて改めて思った。
この二人、やっぱり相性が異常に良い。
『What a Time to Be Alive』の頃からそうだけど、DrakeとFutureって、“都会の孤独”を音にするのがうますぎる。
派手なのに寂しい。
豪華なのに空虚。
今回も、その空気がかなり戻っていた。
他にも印象的だった曲はいくつかある。
まず「What Did I Miss?」。
タイトルからして痛い。
「俺、何を見落としてた?」
でも実際は、
「いつの間にみんな向こう側に行った?」
という意味に近い。
この曲、かなり生々しい。
去年のビーフでDrakeが感じた、“裏切られた感覚”がかなりそのまま出ている。
特に、Kendrick側イベントに行った仲間たちや、両側につく人間への怒り。
ここまで露骨に“人間不信”を出すDrakeも珍しい。
あと、今回改めて昔の曲も掘り返されていた。
YG feat. Drakeの「Who Do You Love?」。
昔は、普通にWest Coastクラブアンセムだった。
Mustardビートで、LAのパーティー感全開。
当時は誰も「DrakeがWest Coastを利用してる」なんて空気で聴いていなかった。
むしろ、YGやMustard側がDrakeを歓迎していた。
でも今、「Not Like Us」以降の世界では、その見え方すら変わってしまった。
Kendrickは、Drakeを“colonizer”と呼んだ。
カルチャー利用者。
そして今、昔の曲まで“伏線”のように読み返されている。
これはかなり面白い現象だと思う。
つまり今回のビーフって、単なる勝敗じゃない。
ヒップホップの価値観そのものがぶつかった。
Kendrickは、土地や歴史を重視する。
Compton、West Coast、地元、カルチャー。
一方でDrakeは、世界を接続する。
Toronto、Atlanta、London、Caribbean。
どちらが正しいかなんて簡単には決められない。
実際、自分もKendrickの言っていることはかなり正しいと思う。
でも、その一方でDrakeの音楽を普通に聴いてしまう。
それが現実。
結局、好きな音楽は人それぞれでいいと思う。
SNSではすぐに、
「どっち派」
「どっちが正義」
「もう終わり」
みたいになる。
でも、本来ヒップホップって、もっと自由だった気がする。
ヤバい曲があれば聴く。
面白ければ盛り上がる。
かっこよければ食らう。
それで良かった。
だから今回のビーフも、もちろん面白かった。
歴史的だったと思う。
でも最後に思うのは、仲良くしてほしいってこと。
昔の「Fuckin’ Problems」みたいに。
A$AP Rocky、Drake、Kendrick Lamar、2 Chainz。
あの頃は、“誰が勝つか”より、“この組み合わせヤバい”が先にあった。
2010年代前半のヒップホップには、未来感があった。
Drakeも、Kendrickも、Rockyも、Futureも。
全員が同じ時代を作っていた。
だから今回のビーフって、単なる対立というより、“あの夢の時代が壊れた感じ”も少しある。
もちろん現実は簡単じゃないと思う。
もう完全に戻れない関係もあるかもしれない。
でも、いつかまた。
DrakeとKendrickが並んで、Rockyが笑って、Futureがいて。
そんな曲を聴けたら、ヒップホップファンとして普通に嬉しい。
勝敗を超えた場所で、また全員が並ぶ瞬間。
それが、自分の思う一つのゴールだったりする。
