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加速は「船首角」じゃない

― 展示では見抜けなかったトルクの正体

(2025/12/12 下関12R 優勝戦)


はじめに|展示で“不安”に見えた艇が、なぜ本番で強かったのか


2025年12月12日、下関12R優勝戦。
結果は 2–1–5。

1マークで②号艇が鋭く差し切る、印象的な決着だった。

だが、展示を見ていたとき、私は②号艇に 少しの違和感を覚えていた。

「船首、けっこう上がってないか?」

競艇ではよく
「船首が上がる艇=不安」
と言われる。

展示の見た目だけなら、②号艇は決して“完成形”には見えなかった。
それでも本番では、1Mで明確な加速を見せ、差し切った。

なぜか。

このレースは、
「加速とは何か」「トルクとは何か」
を考えるうえで、非常に良い教材だった。


結論|船首が上がること自体は、問題ではない


先に結論を書く。

船首が上がる=悪い、ではない。

重要なのは、
👉 「上がった“あと”に、どう戻るか」
👉 戻った瞬間に、艇が前へ出ているか

ここに、
・モーターの性格
・プロペラの噛み
・レーサーの操作
がすべて表れる。


船首が上がる理由|それは“トルクが出ている証拠”


まず物理的な話を整理する。

推進力は、どこから生まれるか

ボートレースの推進力は、
プロペラ後方の水中で発生する。

その力の作用点は、艇の重心よりも下。

すると何が起きるか。
• 前に進む力
• 同時に、艇を回転させるモーメント

結果として、
船首が持ち上がる方向の力が発生する。

これは車で言えば、

強い加速時に、フロントが浮く

あの現象と同じだ。

つまり――
船首が上がる=トルクが出ていない
ではなく、
トルクが出ているからこそ起きる現象でもある。


良い船首上がりと、悪い船首上がり


問題は「上がること」ではない。
**上がった“後”**だ。

❌ 悪い船首上がり
• 船首が上がったまま戻らない
• 船底が水を掴めない
• 回転数だけ上がり、前に進まない

これは
空転に近い状態。

見た目は派手でも、
実効的な推進力は小さい。



✅ 良い船首上がり(今回の②号艇)
• 船首が一瞬だけ上がる
• すぐ自然に落ちる
• 落ちた瞬間、艇が「スッ」と前に出る

ここで何が起きているか。

👉 船底が水を掴んだ瞬間に、実効トルクが最大化している

これが、
差しが「刺さる」瞬間だ。


トルクは“一発”ではない|3フェーズで考える


トルクを、時間軸で見ると分かりやすい。

フェーズ①:トルク第1ピーク
• アクセルON
• 瞬間最大トルク
• 船首が上がる

フェーズ②:姿勢制御フェーズ
• トルクを一度“抑える”
• 船首姿勢を整える
• 推進力を殺しているわけではない

フェーズ③:トルク第2ピーク(実効最大)
• 船首が水面に戻る
• 船底が水を掴む
• 見た目以上に前へ進む

②号艇が1Mで見せたのは、
この③の入り方が極端に良かった。


なぜ展示では見抜きづらかったのか


理由はシンプルだ。
• 安定板使用
• 追い風条件
• 展示は全開走行ではない

これらの条件では、
②→③の「ドン」という加速が隠れやすい。

結果として、
船首が上がっている“見た目”だけが強調されてしまう。

展示で違和感があっても、
本番で化ける理由が、ここにある。


レーサーの腕が出る場所


同じモーターでも、
差が出る理由はここだ。

上手いレーサーは、
• トルクを
出す → 抑える → もう一度出す
• これを 0点数秒単位で制御する

結果として、
• 船首の上がりが短い
• 戻りが速い
• 差しが刺さる

モーター性能だけでは説明できない部分に、
人間の操作が入ってくる。


次から使える展示チェックリスト


今後、展示を見るときは
「船首が上がるか」ではなく、これを見る。
1. 上がっている時間は短いか
2. 自然に落ちているか
3. 落ちた直後に前へ押されているか
4. 2Mでも同じ挙動が出ているか
5. 差し腹を決める選手か

これが揃っていたら――

👉 「本番で一気に来る加速型」


まとめ|見ているのは“角度”ではない


最後に、一文でまとめる。

船首が上がるかどうかじゃない。
上がった“後”に、どう落ち、どう水を掴むか。
そこにトルクと、レーサーの腕が出る。

競艇は、
ギャンブルである前に、
極めて物理的なスポーツだ。

この視点があるだけで、
展示も、レースも、まったく違って見えてくる。

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