【劇場版銀河鉄道999】リューズが歌う劇中歌「やさしくしないで」【紹介と感想】
松本零士先生の作品「銀河鉄道999」をご存知でしょうか。この記事はアニメ版の「銀河鉄道999」のネタバレを大きく含みますので、これからこの作品に触れたいよ〜という方は読まないほうが良いです。
わたくしの好きな作品の一つですが「銀河鉄道999」がございます。今回は原作版、アニメ版ではなくあえて劇場版の方の話とさせてください。
あらすじと言いますか、物語の冒頭部分を書き起こしますと以下の流れです。
高価な機械の体を手に入れた富裕層である機械化人が、生身の体のままの貧しい人々を迫害している未来の地球が舞台です。
そんな地球のスラム街で暮らす貧しい孤児の少年・星野鉄郎は機械の体をタダでくれるというアンドロメダ星に行くことを望んでいます。
冒頭で鉄郎は999号に乗れるパスを得るために機械化人から盗みを働きます。結局パスは回収されてしまうのですが、逃げている最中に母親の面影と重なる謎の美女と出会います。それがこの作品の顔でもあるメーテルです。逃げ回る鉄郎を助けてくれたのも彼女でした。
回想シーンで鉄郎と母親のシーンが挟まります。
最初は貧しい生活の中で母親が鉄郎のこれからを思って「機械の体があったらいいのにね」というお話をしており、鉄郎も機械の体に対して憧れ程度でそれほど強い望みがあったわけではないと思いますが、この後二人は機械伯爵による「人間狩り」で襲われ、鉄郎は目の前で母親が殺されてしまいます。
そんな体験をしてしまったために、己も機械の体を得て強くなることで機械伯爵を殺す…復讐をしたいと口にします。そのために機械の体をくれるアンドロメダ星を目指すと言うのです。
その目的を聞いたメーテルは、鉄郎にアンドロメダ行き超特急列車銀河鉄道のパスをくれます。そして二人は999号に乗車しアンドロメダ星を目指し共に出発します。
途中駅で様々な人々と出会います。
その出会いを通して成長したり、同じ目的を持った人々と手を組んだりします。特にアンタレスはわたくしの好きなキャラクターです。
今回はその点については割愛し、鉄郎の仇である機械伯爵の話を中心に展開します。
アンドロメダ星に行くより前に鉄郎は機械伯爵と対峙することになります。
機械伯爵の拠点である時間城が現れるのはトレーダー分岐点のある惑星ヘビーメルダー。景色としては西部劇のような街並みです。
その街の寂れた路地裏の酒場ではリューズという女性が弾き語りをしており、この劇中歌がとても心に沁みました。酒場にいるのは歳を重ねた男性や女性…。人間もいれば機械化人もいます。
リューズの歌の歌詞はそんな人々の若かりし頃の輝かしい時間…過去を思い出させ、みな酒を呑みながら涙ぐんでいます。
当時はこの歌はとても哀しく感じて、なのに惹かれました。慰めているのか、寄り添っているのか、そんなこと思い出しても仕方ないのにね…と突き放しているのかわからなかったのです。
何が欲しいというの
私 それとも 愛
つばさいやす鳥たちも
私を欲しいと さわがしい
こわれた おもちゃ箱を
子供みたいに
抱えてこんで 涙ぐんで
それでどうなるの
何が欲しいというの
私 それとも 愛
疲れはてた心には
やさしくしないで させないで
誰でも昔話 ひとつやふたつ
大事そうに語るけれど
それでどうなるの
誰でも昔話 ひとつやふたつ
大事そうに語るけれど
それでどうなるの
鉄郎はこのあと最初の停車駅タイタンで機械化人を倒すことができる特別な銃や帽子をくれたお婆様の息子さんであり女性宇宙海賊のエメラルダスの想い人である男性トチローに出会うことで、機械化人の弱点を教えてもらったり、機械伯爵と同じように生身の人間を迫害するような機械化人に襲われている最中にキャプテンハーロックと出会うといった経験をしてから時間城に乗り込みます。
忍び込んだ時間城の中には信じられない、信じたくない物がありました。鉄郎の亡き母親の遺体が剥製として飾られていたのです。
これを初めて観た時はあまりにも酷く衝撃的でした。
この光景により鉄郎の機械伯爵への復讐心にさらに火がついたその時、彼の前に現れたのは酒場で歌っていた女性、リューズです。彼女は鉄郎の仇である機械伯爵の愛人だったのです。
機械伯爵もリューズを愛することができる程度には情というものを持ち合わせていたのがうかがえて、誰かを愛することと、自己と対等でないとみなした相手のことは迫害したり差別したりできてしまう冷酷な心は同時に存在するのだと思い知りました。
リューズもまた、機械伯爵を愛していたのです。
どんなに憎い相手でも、その人のことを愛している人がいるんですよね。
この後、わたくしの好きなキャラクターであるアンタレス(彼は機械伯爵による人間狩りで親を失った孤児たちを世話しているおじさんです。)が加勢しに来てくれます。
機械伯爵は追い詰められた時に命乞いをする素振りを見せて情に訴えかけて鉄郎を油断させ、隙を見せた瞬間攻撃してきます。これが彼の本質だと思いました。そんな姿を見せたからなのか、リューズは機械伯爵の命令に背き、その一部始終を少しの躊躇いもある様子で見守っていました。
アンタレスがその命を散らし戦ってくれたおかげで、鉄郎は機械伯爵を討ち倒すことができました。
機械伯爵が死に時間城が崩れ落ち始めると、リューズは鉄郎に逃げるよう促します。
そのシーンでの台詞が忘れられません。
私の青春を思い出していたの。
その頃の私はあなたのように温かい生身の体だった。でも、機械伯爵の望むままに機械の体に変身して改造に改造を続けて私は私でなくなった。
時間を操れる魔女になってしまった。
でも、操れないものが一つだけあった。
それは温かい血の通った人の心。
この話を聞いた後に「やさしくしないで」の歌詞を思い出すとリューズが酒場で歌っていた歌は機械化人でありながら生身の人の心に寄り添おうとしていたのかもしれません。
また自分自身も過去の血の通った生身の体に戻りたかったのかもしれません。
機械化人は本来は人間でした。でも機械化したことで人間だった頃の温かい感情を失い人間に危害を加えることを厭わなくなってしまった者たちが多いのです。それが人間狩りなどの行為に現れています。
この後朽ちゆく時間城の中で機械伯爵の亡骸のそばでギターを奏でながら彼女は共に朽ちていきます。
崩落した時間城。
錆が降り積もった場所にリューズの持っていたギターがぽつりと残されています。
鉄郎はそれを手に取りギターを弾こうとすると、弦がパチンッと切れてしまいました。
リューズがこの世から消えてしまったことを表しているかのようでした。鉄郎はそのギターを錆びた砂の上にまるで墓碑のように立てます。
その姿を見てハーロックが
「これでお前の復讐も終わったようだな。鉄郎。」と声をかけるのですが鉄郎はそれを否定します。目標だった機械伯爵への復讐が達成したことで、次なる目標を見出していました。
機械化人たちと対峙することや機械化人と対立している人々たち、機械化人になってしまったことを後悔している人、生身の体のまま有限の命を散らしながら道半ばで死んでしまった人々との出会いのなかで、鉄郎の価値観が変わります。
永遠に生きることが幸せじゃない。限りある命だからこそ人は精一杯頑張るし、思いやりや優しさがそこに生まれるんだと。
機械の体なんて宇宙から全部なくなってしまえと。
「僕たちはこの体を、永遠に生きていけるからという理由だけで機械の体になんかしてはいけないんだと気がついたんです。だから僕はアンドロメダの機械の身体をタダでくれるという星へ行ってその星を破壊してしまいたい。」
わたくしは忘れっぽくて好きな作品のことを「好きだった」というのは覚えているのに場面の詳細まで覚えていることが少ないのですが、リューズのシーンとこの劇中歌だけはずっと心に残っています。
命に限りがあることは悲しいことのように思いますが、鉄郎の言った通り、限りある命だからこそ頑張れるという考え方が好きなのです。
その後の999号の最終停車駅に着くラストは是非観てほしいです。まさかこんな展開になるなんて…と初めて観た時は驚きで唖然茫然でした。
