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嵐とAKBの時代。2010年前後のJ-POP=「暗黒期」は本当か?

2026年5月31日。嵐のラストライブが大きな話題になりましたが、その流れでこんなXの投稿がバズっていました。

ずっと音楽関係の仕事に携わり、YouTubeでも音楽チャンネルを運営している僕としては、この投稿にすなおに驚きました。

というのも、2000年代中盤〜2010年代中盤までを「J-POP暗黒時代」とする見方は、この界隈では一般的なものとなっているからです。

リアルタイムでこの時代を生きてきた経験から、僕個人としても、この時期のJ-POPを暗黒期だと思っています。

ただ、「あれが青春だった」という人の気持ちもわかります。

そしてこのJ-POP暗黒期については、僕たちが完成させたばかりの〈2026年現在のJ-POPがいかにして最盛期を迎えているのか〉を解説した書籍『J-POP 3.0ディスクガイド』でも大きなトピックの一つとなっています。

そこで今回は、この『J-POP 3.0ディスクガイド』の拡張版として、

嵐とAKBの時代。2010年前後のJ-POPは「暗黒期」だったのか?

というテーマで、著者二人で対談を行いました。ぜひご覧ください!

筆者プロフィール:照沼健太
ポップアート2.0作家、YouTuber、音楽家。テレビ東京やNetflixのメディア運営、レディオヘッドら数々のアーティストのCD封入解説文、HIKAKIN、米津玄師、押井守、藤本タツキなどのクリエイターや多くのビジネスパーソンの取材を担当。2023年末からはYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を運営(2025年9月末時点でチャンネル登録者数約6万人)。

「J-POP暗黒期」と「楽しかった」は両立する

しゅん 前提として。「あの時代のJ-POPが楽しかった」って人がいるのは全然理解できます。僕らのディスクガイドの中の対談でも「暗黒期って言われていますけど」という話をしていたんだけど、収録した後に「暗黒期じゃなかった人もいるよな」と。だから編集段階で「嵐もAKBも、それぞれ好きな曲はあったし、現象としては面白いと思っていた」という留保をつけたんですよね。

そんなふうに「この時代が青春時代で、すごく貴重なものとして感じている人もいるんじゃないか」って想像はあったので、今回のXの投稿を見ても「やっぱりそうだったか」という感じです。

てけ うん。僕は暗黒期だとはっきり思っているタイプだけど、その意見自体はよくわかります。

しゅん 僕は中学生の頃にヴィジュアル系が流行っていて、自分もL'Arc〜en〜CielやLUNA SEAを青春だと思っている。でも上の世代の音楽評論家からは、「ああいうのは音楽的に良くない」とずっと言われ続けていたんですよね。だから「同じことが繰り返されているな」という感覚もあります。

てけ ただ、何を指して「暗黒時代」と言われているかというと、いくつかポイントがあると思うんですよ。最も大きな点としては、ヒットチャートが荒らされていて、J-POPが大衆音楽としての機能をほぼ失っていたんじゃないか、ということ。

しゅん はい。

てけ チャートってただのランキングじゃなく、新しい音楽と出会う場でもあるじゃないですか。そこが嵐、AKB、EXILEらがあまりに強すぎて、それ以外の音楽を見つける場として機能しなくなっていた。その「土壌の貧しさ」から暗黒時代と言われている、というのが一つです。

そして、もう一つは「あの頃のJ-POPはクオリティが低かった」あるいは「保守的な音楽ばかりだった」という視点。

しゅん それについては、2010年前後よりも2000年代半ばの方が感じる。個人的にはとくに青春パンクが流行った時期はキツかった

てけ わかる。ディスクガイドの中でも話してるけど、バンド音楽は本当に保守化したもんね。2003年ごろに決定的に何かが変わった。

しゅん うん。それについてはぜひ本を読んでいただくとして…

てけ 話を戻すと、2010年前後のJ-POPは「チャートの機能不全による土壌の痩せほそり」「品質低下/保守化」があったということ。だから「当時が楽しかった」って人の気持ちはわかるんだけど、一方で「暗黒時代」と呼ばれるのはそれとは矛盾しない。視点が違う話なんですよね。自分が好きなアーティストがチャート上位を独占してたらシンプルに楽しいだろうし、青春時代だったからいい思い出になってるってこともあるだろうし。

しゅん とはいえ、この時代って、相対性理論もSEKAI NO OWARIもサカナクションもandymoriも出てきていた。新しいバンドはたくさんいたんですよね。アイドルではその後にはももクロも出てくるし。ただし、当時主流だったオリコンがある種支配されている中で、チャートには見えてこない。それが暗黒だ、ということなんですよね。

てけ だから、今名前が挙がったアーティストって、当時はまだ「J-POP」じゃないんですよね。

しゅん そうだね。

てけ 後でJ-POPになる。サカナクションやSEKAI NO OWARIは、まさにそう。当時はサブカルとか別の文脈にいた。アイドルも実はそう。当時はアイドル=J-POPではなかった。今は地下アイドルも含めてJ-POPの一部として語られやすいけれど、当時はそうじゃない。

しゅん AKB、嵐、EXILEがあの場所を占拠したことで、J-POPの土俵が狭くなって、そこに上がれない、という感じはあったよね。

J-POPの音楽性が狭まっていた時代?

てけ その狭い土俵の中で、中田ヤスタカが一番奮闘していた。隅っこにいながら、存在感がめちゃくちゃ大きかった。

しゅん そこは、僕らのディスクガイドの中でも話していますね。まず、Perfumeの存在が大きかった。capsuleもあったし、その後にきゃりーぱみゅぱみゅもやる。「J-POPの中で新しいことをやっていると伝わるのは、中田ヤスタカしかいない」みたいに見えていたんですよね。

てけ 実はEXILEもリアルタイムの洋楽を取り込む点では、かなりうまくやっていたんだけどね。

しゅん うん。

てけ 一方でAKBは、邦ロックというか、それ以前からあるJ-ROCKのシグネチャーサウンドを全面に出していた感じ。それをあのシャカシャカした音で鳴らし続けていく。それが今思うと、J-POPのガラパゴス性を高めていた大きな要素なんじゃないか?と感じます。

数字で見る「J-POP 暗黒時代」

しゅん 今、2009年のオリコン年間ランキングを見ていたんですけど、これは確かに暗黒期だなと思いました。

1位 嵐「Believe」
2位 嵐「明日の記憶」
3位 嵐「マイガール」
4位 秋元順子「愛のままで…」
5位 嵐「Everything」
6位 B'z「イチブトゼンブ」
7位 KAT-TUN「RESCUE」
8位 遊助「ひまわり」
9位 KAT-TUN「ONE DROP」
10位 関ジャニ∞「急☆上☆Show!!」

https://natalie.mu/music/news/25394

てけ ベスト10のうち、1位から5位までの4曲が嵐。ジャニーズが7曲入っている。これはたしかに「新しいものがない」という感じがしますよね。

しゅん しかもベスト20まで見ると、遊助がもう1曲、羞恥心も入っている。ヘキサゴンファミリーが3曲です。

てけ 『J-POP 3.0ディスクガイド』の中でも書いたんですけど、テレビ番組主導のノベルティソングが、暗黒期の一つの象徴だと思うんです。90年代からテレビ主導の曲やユニットはたくさんあったけれど、そこには一定の音楽的役割や冒険があった。小室哲哉さんが手がけたH Jungle with tなんかはまさにその好例。でも、この「暗黒時代」は感動ポルノや宴会芸の延長みたいなものがやたら増えた感じがある。好きな人ごめんなさいとは言っておきたいですが。

しゅん そして、たぶん皆さんが思い浮かべている「暗黒期」としては2010年のチャートが一番強いですね。

1位 AKB48「Beginner」
2位 AKB48「ヘビーローテーション」
3位 嵐「Troublemaker」
4位 嵐「Monster」
5位 AKB48「ポニーテールとシュシュ」
6位 嵐「果てない空」
7位 嵐「Løve Rainbow」
8位 AKB48「チャンスの順番」
9位 嵐「Dear Snow」
10位 嵐「To be free」

https://www.j-cast.com/2010/12/10083206.html?p=all

しゅん 本当に、AKBと嵐しかいない。「この曲は新しかったな」と思う曲が全然ないんです。K-POPで少女時代「Gee」が新人賞のあたりに入っていたりはするけれど、新しい動きは本当にちょろちょろっとしか見えない。ぎゅうぎゅうに扉が閉じられている状態でした。

てけ そのぶん、ネットカルチャーや楽曲派アイドル、アンダーグラウンドな動きはありましたよね。ラップもそう。そして、それがJ-POP 3.0の下地になっている。でも、それらは当時まだ「J-POP」ではなかった。

しゅん だから「J-POP暗黒時代」と、「いや、当時はその裏にこういう音楽もあって…」というのは、やはり矛盾しない。

てけ ヒットチャートって、一つの公的な記録じゃないですか。でも、この時期のチャートは完全にノイズになっているんですよね。後から遡った時に、当時の日本の音楽シーンに何があったのか全くわからない。僕らはまだマシなんです。当時の記憶があるから。でも20年後の若者や、100年後の人類がこれを見たら、「この2009年、2010年って何なんですか? この時期の日本人は集団で洗脳でもされてたんですか?」って絶対に思うはず。

しゅん それが2018年、2019年ともなると、米津玄師、あいみょん、Official髭男dism、King Gnuが、どんどん年間チャートに入ってくる。それを体験した後の世界に生きている我々からすると、本当に暗黒期のチャートは別世界ですよね。

てけ 僕たちのディスクガイドでは『J-POP 3.0』フェーズを2015年からとしているんですけど、その前年の2014年でもチャートはまだ硬直してる。Billboard JAPANの年間トップ10で見ると、こうです。

1位 嵐「GUTS!」
2位 AKB48「心のプラカード」
3位 AKB48「ラブラドール・レトリバー」
4位 嵐「誰も知らない」
5位 嵐「Bittersweet」
6位 ファレル・ウィリアムス「Happy」
7位 松たか子「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」
8位 東方神起「Time Works Wonders」
9位 秦基博「ひまわりの約束」
10位 ワン・ダイレクション「Story of My Life」

https://www.billboard-japan.com/common/special/award/2014/chart.html

てけ 「Happy」が入っているだけで、なんかすげえ、みたいな感じです。

しゅん でも、これはBillboardだから。オリコンだともっとやばい。

1位 AKB48「ラブラドール・レトリバー」
2位 AKB48「希望的リフレイン」
3位 AKB48「前しか向かねえ」
4位 AKB48「鈴懸の木の道で『君の微笑みを夢に見る』と言ってしまったら僕たちの関係はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなもの」
5位 AKB48「心のプラカード」
6位 嵐「GUTS!」
7位 嵐「Bittersweet」
8位 乃木坂46「何度目の青空か?」
9位 EXILE TRIBE「THE REVOLUTION」
10位 乃木坂46「気づいたら片想い」

https://www.oricon.co.jp/special/47530/2/

てけ こうやって眺めると、オリコンがチャートとしての信頼性を失って、Billboardがメインチャートになった理由がよくわかりますね。シンプルに「このチャート、機能していませんよ」と。それが誰の目にも明らか。

しゅん もちろん、嵐やAKBの中にも良い曲はあった。それはわかる。とくに嵐には好きな曲も多い。でも、J-POP全体で見た時の貧しさという点では、やっぱり暗黒期と言いたくなる部分がありますね。

てけ この時代、僕はチャートを見ていなかった。何の参考にもならないから。今思うと、これが「オールドメディア」という言葉が広がっていく最初のきっかけの一つだったんじゃないか、という気もします。

先日、とあるJ-POPアーティストにインタビューした時、その人が子供の頃の話をしてくれたんです。チャート番組を毎週100位から全部聴くことで、音楽的な審美眼を学んだ、と。

でも、この時期の音楽チャートだと、それができない。それはやっぱり「貧しさ」なんだと思います。

暗黒期を経て、今J-POPは全盛期に入っている

しゅん 『J-POP 3.0ディスクガイド』は、2010〜2014年の「J-POP 2.5期」からスタートしているんですけど、こうして話すと、その構成にしたのは必然でしたね。

てけ 今回話したJ-POP暗黒時代を僕らは「J-POP 2.0」と呼んでいますが、移行途中の「J-POP 2.5」的なる音楽もあった。とくに中田ヤスタカ周りの仕事はそれを象徴していると思います。

しゅん だから、2010年、2011年あたりのチャートの裏で何が起きていたのかを描かないと、J-POP 3.0がわからない、という話になる。

2000年代がJ-POP 2.0だとすると、2010年代の2014年ぐらいまでは2.5ぐらいの感じがある。2.0期の中で、新しい動きが起きている。

てけ そのあたりも含めて、ぜひ『J-POP 3.0ディスクガイド』を読んでほしいですね。暗黒時代をいかに克服して、ここから良くなっていくのか。どんどん多様性に溢れた音楽が生まれ、チャートを眺めても楽しくなっていく興奮が味わえると思います。

しゅん 時代の変化がストーリーとしてわかる、というのが重要ですね。

(照沼健太)

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