ジークアクスはなぜ衝撃的なのか!?その特異性とTV版への期待|ネタバレあり
2025年1月17日の公開直後からSNSを席巻し、ガンダムシリーズ最大の興行収入も期待されている『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』。
本作について、僕たち2人(批評家・伏見瞬とライター/編集者・照沼健太)が感想を語り合った対談をお届けします。
YouTube「てけしゅん音楽情報」など、ポップ音楽を語ることが多い僕らですが、アニメについてのお仕事もしています。こちらの書籍は2人も参加した一冊。
さて、「富野由悠季によるガンダム」原理主義者的な要素も強い照沼健太(てけ)と、それよりは距離感のある伏見瞬(しゅん)は、本作をどう観たのか。
ぜひお楽しみください。
てけ:『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』どうでしたか?
しゅん:おもしろかったですよ!端正なんだけどカオス、みたいな、なんとも言えない感覚になりましたね。
てけ:まさに「今まで感じたことのない気持ち」になる作品というか、「他にない感覚を得られる作品」ですよね。
しゅん:前半と後半があんなに違うアニメ、見た記憶ないです。後半のシャリア・ブルの違和感が凄くて(笑)。
てけ:同じ作品の中で、同じキャラの絵柄が変わるってのはなかなかないですよね。僕としては期待以上の出来で本当に大満足でした。こんなに手放しで「最高!」と思ったアニメ映画は『エヴァ破』『君の名は。』『天気の子』以来ですね。
しゅん:「最高!」に新海誠ふたつ入るんだ! 僕も満足でしたが、ちょっと冷静に楽しんでいましたね。「すごい!」というより「おお、なるほど〜」という気持ちが強い。この辺りは、ファーストガンダムやカラー作品への距離感があるかもしれないですね。
てけ:実は本作って『エヴァ破』『君の名は。』と似てる部分があって、それは思い入れが強いほどに感動が増幅されるということ。『エヴァ破』でシンジが綾波レイを諦めないとか、『君の名は。』のラストで「すれ違わない」なんかはその典型。
『ジークアクス』は新世代の『SDガンダム』か?
てけ:しゅんくんはそもそもガンダムって観てましたか?
しゅん:僕は劇場版三作を大学生の時に観ていて、アニメシリーズでは未見です。ただ、子供の時SDガンダムが大好きだったので、身近には感じるんですよね。ちなみにエヴァは旧劇・新劇全て観ています。

てけ:SDガンダムは本当に発明。僕らもそうだし、ちょっと下の世代である米津玄師さんもSDガンダムから入ったと言ってる。オリジナル世代からすると完全に邪道だろうけど、間違いなく大きなゲートウェイになってたんですよね。ここ20年くらいのガンダムは一見ライトな作品を作ることで、ずっとネクストSDガンダムを作ろうとしていた印象だけど、『水星の魔女』以外はあまり上手くいかなかった。でも、今回の『ジークアクス』はそうなる可能性があると思う。
しゅん:僕にとってのガンダムってまずは「騎士(ナイト)ガンダム」や「武者頑駄無」なんですよね。あるいはバンプレストのゲームの、ウルトラマンや仮面ライダーと闘うガンダム。

しゅん:だから、子どもにとってのガンダムのゲートウェイがSD以降なかった、というのはわかります。『ジークアクス』は何故うまくいっているんですかね?今までの作品と何が違うのか。
てけ:そもそもガンダムが45周年を迎えていることもあって、90年代を中心としたSDガンダム時代よりも「新規層」が示す年代が上がっていると思うんですよね。具体的に言えば、SD時代は幼稚園児〜小学生がその対象だったものが、2025年においては10代〜20代になっている。ジークアクスはそうした世代に対してアピールできる、明確な「今のアニメ」になっていたと思うんですよね。
しゅん:10代〜20代が楽しめる、というのはその通りですね。その上で、前半をシャア中心にしたのも若年層のためには正解だったかもしれない。シャアってパブリックドメイン感があるというか、アムロ以上にアイコニックな存在。10代でもあの顔とキャラクターを知っている。故に、マニアックに見える前半も世代関係なく楽しめる可能性高い。
てけ:さらには異世界転生、俺TUEEEE、マルチバースなど、ラノベ的なのも含めて、今っぽい要素全部入ってますからね。ただ、その上でなんですけど、今回の劇場版の序盤約30分はTV版には含まれないんじゃないかと思います。少なくとも1話ではやらないんじゃないかなと。
しゅん:そのポイントは?
てけ:シンプルに第1話であの一年戦争パートをやったら放送事故レベルだし、新規視聴者層が置いてけぼりすぎる。
しゅん:それはそう。
てけ:実はめちゃくちゃ脚本が練られていて、『THE FIRST SLAM DUNK』よろしくアレが初見でも、注意深く観ればファーストガンダムで描かれた一年戦争の全体は理解できるようになっているんです。でも、不特定多数の人が観るTV作品としてはいくらなんでも厳しい。そして、実は映画の第2幕パートが完全に第一話として作られてるんですよ。あそこから観ても普通に成り立っている。
しゅん:『THE FIRST SLAM DUNK』感はありますよね。この後のTV版でシャアは出てくるのか。その時、絵柄はどうなるのか。
てけ:今回、オフィシャルサイトで情報リークがあって、「どうやら宇宙世紀パラレルっぽい」ってことは事前に噂されていたんですよね。その上で僕は、本作は話が進むにつれてどんどんその世界設定が顕になって「実はシャアがガンダムを鹵獲してました」みたいな衝撃な事実が明らかになるって流れだと思ってたんですよ。「黒歴史」という言葉の発祥である『ターンエーガンダム』もそういう仕組みだったし。
しゅん:うん。
てけ:でも、まさかの最初に全部を明かしてきた。これはTV放映作品の劇場先行上映を見に行く熱心なシリーズファンにぶつける情報としてはプロモーション視点でも最高。その上で「TV新規には前提情報はあえて見せない」選択をとるならば、コアファンも「昔のガンダムなんて観てません」っていう人も含めた、パラレルな視聴者層を総取りできるっていう、斬新な手法が実現できるんじゃないかと。
躍動する主人公・マチュのとてつもない魅力

しゅん:ただ、テレビ版は面白いかどうかはまだ不安なんですよ。
『Beginnig』の面白さは、前半と後半の落差にあると思うんですよね。前半の、とにかく速いテンポで均等に突き進むリズムがたまらない。脚本を庵野さんが書いている情報は知らなかったけど、あれは庵野の作家性だと思った。そこからのテンポチェンジにも魅力があった。後半だけに絞ると、そこまで驚きはないのではないか。劇場版後半の魅力は、てけくんとしてはどのあたりでしょうか?
てけ:いろんなポイントはありますが、とにかく主人公マチュですね。SNSの反響を見ても、ここまで盛り上がっている主人公キャラはここ10〜20年いなかったんじゃないかと思うくらいです。
しゅん:マチュの魅力はどこにあります?
てけ:圧倒的なスピード感と直感力、行動力。それは「こうだった」ではなく「こうあってほしい」を描く宮崎駿マインドを体現するキャラクター性とも言えるのですが、同時に「門限があるので帰っていいですか?」というセリフに代表されるように現代のキッズらしさが随所に溢れている。このバランスはこれまでなかったと思います。
しゅん:行動力はまさにその通りですよね。「悩む」ことでの動きの停滞がない。元々はアニメーションのキャラクターって行動力のかたまりだと思うんですよね。そのお約束を変えたのが、ガンダムとエヴァのキャラクター造形だった。アムロ、カミーユ、さらにはシンジですね。

てけ:そう。なかでも碇シンジほど最強の「初期アバター」はいない。彼らの葛藤や逡巡に90年代〜00年代の若者はシンクロすると同時に、彼の「本気を出せば最強」感に憧れた。でも、それによって巻き込まれ型の主人公が完全にテンプレ化してしまい、「物語」の躍動にどこか歯止めをかけてしまっていたと思うんです。それに対してマチュは完全に躍動している。巻き込まれる前から、世界に疑問を抱いている。差し込まれる逆立ちシーンはその象徴ですね。あの飛び込み台がホワイトベースに見えるのも良かった。
しゅん:エヴァの影響力が強すぎて、それまでのカウンターだった「葛藤するキャラクター」がメインに来てしまった。今作はその揺り戻し、あるいは原点回帰ともいえるんですが、サンライズとカラーが組んだ結果がアムロとシンジの逆になる、というのがいいですよね。
てけ:あきらかにエヴァがなければ存在しないガンダムなんだけど、エヴァへのカウンターにもなってるんですよね。「バリアーを破れるのはバリアーだけ」とか「使徒に勝てるのは使徒と同じ力を持つエヴァ」というのは庵野さんお得意の論理ですし、今作でもその延長のセリフは出てきますが、「エヴァに対してガンダムで戦う」みたいな文脈も読み取れると思います。
ボカロとキラキラとファーストガンダム
てけ:他に「劇場版後半の魅力」というか「TV版がもし本作の第2幕から始まったときの魅力」としては、音楽もあるかなと思います。
しゅん:同感です。音楽がひたすら良かった。
てけ:NOMELON NOLEMON、星街すいせいといったボカロ/Vtuber文脈アーティスト起用は絶対に意図的で、これはやっぱり「SDガンダム的」な戦略だと思うんですよね。下手したらチェンソーマンみたいに毎話ED曲が違うみたいな感じになるのかも。
しゅん:後半はボカロカルチャーのリズムなんですよね。テンポ速いんだけど、ちょっとシティポップ味がある。そう考えると「キラキラ」は、ボカロと出会った若い人が感じるもののメタファーにも響きます。
てけ:「キラキラ」は本当にうまい表現ですよね。まさに「よくわかんないけど、なんかわかる」感じ。しかもあれって「過去との接続」でもあるわけで。
しゅん:「ニュータイプ」は過去との決別、「キラキラ」は過去との接続、という対比もできそう。
てけ:もしも冒頭の一年戦争パートが後々TV版で明らかになっていくのだとしたら、マチュたち同様に新規視聴者は「昔なんかすごいことがあったらしい」という感じになるわけですよね。それって「昔ファーストガンダムっていうすごい現象があったらしい」っていう、ガンダムにおけるメタ視点とも繋がるわけで。
しゅん:「よく知らないけど、なんか知ってる」話ですよね。
てけ:で、それをファースト観てる人は「うんうん」と見守る。名作ゲームの初見プレイ実況を観て、あの名シーンにどう反応するのか楽しむみたいな感じ(笑)。ま、実際にTV版がどう構成されるのかは分かりませんが、どちらにせよ、新しいガンダムの時代が幕を開ける作品になるんじゃないかなと期待しちゃいますね。本来は第1話のアバンとして一年戦争パートを構想したそうですけど、絶対に入る尺じゃないですからね。
新たなキャラ造形が描く物語と、驚異的な脚本

しゅん:マチュはカラーリングも良かった。赤と緑の組み合わせはとても新鮮で、新しさを宿していました。
てけ:髪に入ってる緑のハイライトは一体なんの光の反映なのかマジで謎ですけどね(笑)。
しゅん:あの謎加減が主人公の証ですね。
てけ:下手したら別の世界線や時間軸のリフレクションって可能性もあるかも。で、カラーリングでいえば他に気になったのは、ジークアクスに乗る新米パイロットの瞳の色がエヴァ初号機の紫・緑カラーだったこと。「おや」って。
しゅん:エグザベ少尉?
てけ:そうそう。彼の名前ってザビエル=グザビエのアナグラム的だし、聖書要素ここでも出てきたよ!って感じです。
しゅん:エグザベはローマ字表記だと「Xavier」なので、まさにザビエル=グザビエですね。 色の話から少しずれますが、シャリア・ブルとエグザベの会話のシーンは良かったですね。あれが戦闘シーンを面白くしていた。論理化できないが、観客の会話が戦いを盛り上げる良い例だなと。
てけ:戦闘の実況・解説をしながら、世界観や専門用語を視聴者に伝え、同時に二人の性格や関係も伝える見事な会話ですよね。本作、本当に無駄な会話がどこにもなくて、脚本ハンパないなと思いました。ほんとにまた名前出しちゃいますが、『THE FIRST SLAM DUNK』レベル。
しゅん:脚本はマジで端正でした。三幕全てが綺麗。あとシャア×シャリア・ブルもそうなんですが、若干気配がエロチックなんですよね。
てけ:媒体としてのシャリア・ブルの優秀さは特筆すべきものがありますね。彼本人はかなり危うい部分もあるんだけど、彼がいるだけであの『エヴァQ』のヴィレみたいなアマチュアっぽさ溢れるジオン兵たちもまとまるし、シャアもオリジナルみたいな危うさを出さない。そんなシャリア・ブルがオリジナルのガンダムでは捨てキャラだったことを考えると、今作の意義が見えてきます。

しゅん:今作、シャリア・ブルが主人公というか中心ですよね。最も「仮想戦記」性が出ています。
てけ:シャアとワインを飲むシーンの妙なエロさは誰もが気になるところだし、かなり同人誌が盛り上がりそうです。
しゅん:シャリア・ブルは絶対人気キャラクターになりますよ。というか僕が好きになった。
てけ:右手にワイングラスを持ってるシャリア・ブルに対して、右手で握手を求めるシャア。それに対してワイングラスを置いて握手するシャリア・ブル。これだけで関係性や性格が表現されてますからね。マジで凄まじいなと思います。
バトルの「落差」は今後どうなっていく?

しゅん:今回あえて不満を言うなら、ガンダム戦闘シーンの躍動感は弱かった。シャアの戦闘シーンは面白かったけど、あとはそこまで興奮しなかった。脚本として、最初はコンビネーションが悪いまま勝つみたいな設定があるからかもしれないですけど。その辺りがTV版でどう演出されているか気になります。
てけ:まあ、エグザベの「ジオンの元パイロット?」とかシャリア・ブルの「大佐ではない」みたいなセリフからも、パイロットの違いによる戦い方の違いにはかなり意識的なので、そこは伏線でしょうね。マチュが駆るジークアクスの動きを見て、エグザベが「サイコミュだけで操作してる?(手動では何も動かしてない?)」みたいに見切ってたのもその流れかと。
しゅん:動きを不器用にするか器用にするかに迷いがあるようにも見えました。シンジ的な不器用さと、シャア的な器用さ、そのどっちをマチュの操縦において強調するかに迷いがあったように見えた。まだ一回観ただけなので、二回目以降で印象変わるかもしれませんが。
伝説の「第一話」が2回も入っている映画

てけ:さっきのTV版第一話どうなる?って話に戻ると、本作の特徴って、第一話を2回やってるところも大きいと思うんです。というのも、一年戦争パートでは初代ガンダムの第一話を超丁寧に、というかほぼそのまんま、シャアとアムロが入れ替わる形でやり直している。
しゅん:カット割もセリフも初代を踏襲している、というやつですね。
てけ:さらには、第2幕もそうなんです。マチュたちも実は初代ガンダムの第一話とほぼ同じ流れを踏んでいる。
しゅん:そうか、2幕もなんですね。
てけ:むしろガンダムに飛び乗って2機の敵MSを倒すという点では、マチュの方がちゃんと「アムロ」してる。だから、やっぱり第2幕がTV版1話になるんじゃないかと思うんですよね。で、その上でなんですけど……
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