映画『8番出口』と、藤井風「満ちてゆく」。
映画『8番出口』が絶好調です。
YouTubeを中心に話題を呼んだホラーミニゲームが原作ということもあり、「どうやって映画化するの?」という興味関心、嵐の二宮和也さんが主人公を演じる信頼感や話題性など、さまざまなトピックがごちゃ混ぜで「一体どうなるんだろう?」という期待が高まっていた作品です。
結果としては2週連続で興行収入1位を記録。早くも累計20億円を突破するなど大ヒット路線に入っています。
そして、僕も本作はものすごく楽しみにしていて、初日に観てきました。
今回はレビューではなく、『8番出口』の「とても印象に残ったシーン」について、そして真っ先に連想した藤井風の楽曲「満ちてゆく」と合わせて書いていきたいと思います。
(と思ってたのですが、かなりエモく、なおかつ藤井風最新アルバム『Prema』につながる話になりました。若干ネタバレありですがぜひ最後までお読みください)
筆者プロフィール:照沼健太
編集者・ライター・YouTuber。テレビ東京やNetflixのメディア運営、レディオヘッドら数々のアーティストのCD封入解説文、HIKAKIN、米津玄師、押井守、藤本タツキなどのクリエイターや多くのビジネスパーソンの取材を担当。2023年末からはYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を運営(2025年8月末時点でチャンネル登録者数約6万人)。
映画『8番出口』でずっと映っているもの

映画『8番出口』が始まって真っ先に印象に残るのは、二宮和也さん演じる主人公が持っているスマホ、喘息の吸入器、そして背負っているバックパックです。
そもそも冒頭からスマホを見ているPOV(主観)視点で始まりますし、しょっちゅう咳き込んでは吸入器を使います。さらにゲームから着想を得ていると思われる、背中越しに主人公を追いかけるカメラワークが続きます。当然、彼が背中に背負っているバックパックに目が行くようになるわけです。
で、映画の中盤、彼を大きな絶望と挫折が襲い、駅の通路に倒れ込んでしまいます。
ここは本作の中でも特に印象に残っているシーン。カットを割らず、倒れ込んだ彼が少しずつ落ち着いて、カッコ悪く立ちあがろうとするまでを長回しで写すショットです。
そして、彼が立ち上がると、画面にはっきりと変化が訪れます。
そう、バックパックを置いていくのです。
(ちなみに、これは映画『1917』と同じく、明確にセカンド・カミング=キリストの復活をモチーフとした展開だと思いました。海外評価からの逆輸入を狙う川村監督の“策士”的な側面が表れているのかとも考えましたが、過去のインタビューでは「聖書のストーリーテリング」について話していますので、彼の作家性と言っていいかもしれません。とはいえ、ここで大事なのは宗教的象徴ではなく決断の方向です)
『8番出口』の進行ルールは「異変があれば引き返す/なければ進む」。
進むか、戻るか。生き方の極小モデルのような二択の反復です。
立ち上がった主人公は、あんなにしがみつくようにしていた荷物を手放し、世界と真正面から向き合い始める。

「異変に気づく」には、ありのままの世界と向き合わなければならない。
他人と向き合わなければならない。
それは、この世界や他人をノイズとしてキャンセルするのではなく、怖いものとも苦手なものとも向き合うことでもあります。
このシーンを観た瞬間、僕はハッとしました。

「……『エヴァ』だ」。

碇シンジ「楽しいことだけを数珠のように紡いで生きていられるはずが無いんだよ、特に僕はね。」

碇シンジ「これは捨てるんじゃなくて、渡すものだったんだね。父さんに」
そして、同時に思ったのが
「藤井風の『満ちてゆく』だ……」。
手を放し、軽くなり、満ちてゆく映画=『8番出口』
「満ちてゆく」は映画『四月になれば彼女は』の主題歌として2024年に発表された楽曲です。
そこで歌われる内容は次のとおり。
明けてゆく空も暮れてゆく空も
僕らは超えてゆく
ああ
変わりゆくものは仕方がないねと
手を放す、軽くなる、満ちてゆく
ここでとくに注目したいのは“手を放す、軽くなる、満ちてゆく”というライン。
これって実は『8番出口』のあらすじ、そのものなんです。
もちろんこれは偶然かもしれません。しかし、少なくとも『8番出口』と「満ちてゆく」には明確な関係があります。
それは「川村元気」。
映画『四月になれば彼女は』の原作は川村元気さんによる小説であり、「満ちてゆく」の誕生にも彼自身が関わっています。
というか、川村元気さんが書いた小説の中のエッセンスから「満ちてゆく」が生まれたと考えれば、「満ちてゆく」と『8番出口』に通底するものがあるのも自然と言えるのではないでしょうか。
さて、どこが通じているのかをこれから書いていきたいのですが、改めて。
“手を放す、軽くなる、満ちてゆく”
『8番出口』の主人公で手を放すのは、荷物だけではありません。彼がこの映画の中で手を放したのは、もっと大きなものです。
さらにこれ、MUSIC AWARDS JAPANで藤井風さんが「満ちてゆく」をパフォーマンスし、そこに彼の“遺影”が飾られていたこととも、おそらくは繋がっています。
『8番出口』の先にあった、藤井風『Prema』

映画『8番出口』の主人公も、藤井風も、大きな決断をしました。
手を、放しました。
何から? それは……
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