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イルミの野郎、こんなところに

 キルアは頭を押さえた。脳の奥でちり、と電気が走るような痛み。髪をかき分けて探ると、そこに埋め込まれていたのは細い電極だった。冷たい金属の感触に舌打ちする。
「イルミの野郎、こんなところに電極を入れやがって……」
 怒りを胸に、キルアは部屋を調べ始めた。机の引き出しを開けると、そこから立ちのぼる湯気。具のない味噌汁が一杯、熱々のまま沈んでいる。
「イルミの野郎、こんなところに味噌汁を入れやがって……」
 次は本棚に目をやる。妙に重い一冊を抜き出すと、それは本型の収納だった。中にはびっしりと石ころが詰まっていた。
「イルミの野郎、こんなところに石ころを入れやがって……」
 喉の渇きを潤そうと冷蔵庫を開けると、そこには卵ケースしか入っていなかった。卵ケースには小さな砂時計がひとつずつ収まっている。しかも、砂が上に向かって積もっていく。
「イルミの野郎、こんなところに小さな逆砂時計を入れやがって……」
 布団を敷こうと押し入れを開けると、そこには電車の座席だけがぽつんと置かれていた。
「イルミの野郎、こんなところに電車の座席を入れやがって……」
 枕をひっくり返すと、そこにはアリたちが小さな回転寿司を営んでいた。
「イルミの野郎、こんなところにアリの回転寿司を入れやがって……」
 気分転換にシャワーを浴びようと、服を脱ぎ、風呂場のシャワーをひねると、水の代わりに大量の名刺が降り注ぐ。
「イルミの野郎、こんなところに名刺を入れやがって……」
 床を蠢く奇妙な影に気づき、スケートボードの上に乗って天井の照明カバーを外すと、豆粒ほどの人々が運動会をしていた。徒競走、玉入れ、騎馬戦。
「イルミの野郎、こんなところに豆粒ほどの運動会を入れやがって……」
 ふと違和感を覚えて靴の中を覗くと、枝豆がぎゅうぎゅうに押し込まれていた。
「イルミの野郎、こんなところに枝豆を入れやがって……」
 電池が切れていたことを思い出し、テレビのリモコンを裏返すと、電池の代わりに小さな太鼓が二つ収まっている。
「イルミの野郎、こんなところに小さな太鼓を入れやがって……」
 勉強机のイスに腰掛けると、座面がやけに柔らかい。めくってみれば、イスのクッションの中には生ぬるいプリンがぎっしり詰まっていた。
「イルミの野郎、こんなところに生ぬるいプリンを入れやがって……」
 窓のカーテンを引くと、裏地にホワイトボードが仕込まれており、「今日のキルア予定表」とびっしり書き込まれている。
「イルミの野郎、こんなところにスケジュールを入れやがって……」
 ゴミ箱を覗けば、紙くずの山ではなく、小さな水族館が広がっていた。金魚がごみ袋の中を泳ぎ回り、ろ過装置まで完備されている。
「イルミの野郎、こんなところに水族館を入れやがって……」
 ペン立ての中から鉛筆を一本引き抜こうとすると、なぜか鉛筆の芯がすべてスパゲッティにすり替わっていた。
「イルミの野郎、こんなところにパスタを入れやがって……」
 机の上に積んであるノートを開くと、ページの隙間に生乾きの洗濯物が折りたたまれて挟まっていた。インクが湿気で滲んでいる。
「イルミの野郎、こんなところに生乾きの洗濯物を入れやがって……」
 キルアは頭を振った。部屋の隅々に散らばる不可解な仕掛けを前に、もう笑うしかなかった。だが脳の奥ではまだ、あの電極がちり、と火花を散らし続けていた。


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