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【作品紹介】心磨・心を磨く

ここ数日、冷たい雨が降り続いておりました。
月形半平太の「春雨じゃ 濡れてまいろう。」なんて粋なセリフが似合わないほど寒くて閉口しておりましたが、週末を迎えてからの温かさたるや!

三寒四温とはよく言ったものですが、こうまで気温差が激しいのも如何なものかと。どうやら、今年も『春たけなわ』は一瞬で過ぎ去ってしまうのでしょうね。おっと、無駄話はここまでにしておきましょう。それでは、七転八倒の末に仕上げた拙作をばご覧じあれ(低頭)。


§ 心磨・心を磨く

どこかで見たことのあるような後ろ姿
この御仁が お武家さん であることに疑う余地はないでしょう。

根付には4~5頭身くらいが丁度よさそうです。

では、このお武家さんは一体何をしているのでしょうか?

髷は武家が好んだ大銀杏で。

何やら大切な物でも磨いている模様。右手には『ささら』の様なものを握り締めています。お世辞にも相応しい得物えものとは言えませんよね。なにしろ、二本差しを常とする武家の得物と言えば『刀』なのですから。

根付もそうですが、動物の毛や植物の繊維で磨くと、想像以上に艶が出るものです。この御仁が手にしている物は、刈萱かるかや棕櫚しゅろ等を束ねた『棒たわし』のようなものだったと推測しております。

それは正に 一心不乱
腹に力を込めて磨いています。

それでは、答え合わせと参りましょう。

袴姿のお武家さんが『似つかわしい道具』を手に磨いている物・・・その正体は『心』でした。

『心』の文字を左右反転してみてください。

といった具合に、此度は『謎解き』から始まりましたが、本稿をご覧になった方にありましては、『心』の文字が『鏡文字』になっていることにを感じて頂ければ何よりです。(お武家さんから見て『心』と読める状態。)

そんな答え合わせをしたところで作り手の本音を綴らせて頂きますれば、この『後姿の御仁』を何とか仕上げ、そして無事にお披露目できたことに、それは深く安堵を覚えているところなのです。それ即ち、本作が『無謀に過ぎる挑戦』であった事の証だったと。(元より五里霧中と七転八倒を得意技とする私も、此度は降参寸前まで追い込まれました。)

おっ! 真剣に磨いている間に妙案でも閃きましたか?

かような時間の中にも、作り手ならではの愉しみも在りました。それは、考証的な愉しみと言い換えられるでしょうか。

これまで漠然と捉えていただけの武家のイメージをより克明に掴み取ること、そして衣類や道具を紐解くこと・・・こうした匙些末な作業の積み重ねは、製作の時間を充実させるのみならず、自分自身の思慮や技量の不足を教えてくれるのです。

『髷』以外は可能な限り凹凸を少なくしました。

作品を手掛けるたびに感じる『自分の現在地』
考証の質を問われる時代物、且つ、技量を問われる微細な表現に七転八倒していた・・・というのが実際の姿舞台裏だったと。

いずれにしても『手掛けた以上は最後まで仕上げる』という極々初歩的な責務を果たせたことに満足することなく、更なる考証力と技術の向上に努めるべくおのやいばを研いで参ります。

さて、この辺で話の向きを少々変えさせて頂きましょう。
拙作心磨しんまですが、同様の意味を含ませた先例が幾つか存在していることに触れておかねばなりません。それらの中にあって、私が心奪われたのは『伊勢派の正直まさなおの手による『字を磨く若者』と呼ばれている根付作品でした。この正直まさなおの作品を目にした瞬間、不遜にも『いつか作ってみたいリスト』に入れてしまったのです。

正絹紐は『心』に掛けます。

因みに、正直まさなおの作品では、総髪の若者が『心』を磨いている姿を活写していましたが、21世紀を生きる私は、あえて髷を結った大人の武家に『心』を磨かせることにしました。

その真意は、成熟しているはずの大人達権利と責任の双方を担うべき立場の人間達の看過することができない見苦しい有様を目にすることが増えた今・・・心を磨くべきは大人だろうと。そんな思いが『立場ある者』の手に『棒たわし』を持たせたと捉えて頂ければ幸いです。

此度もピンポン玉を目指して彫り上げました。

かく言う私とて『大人』と呼ばれる立場の人間です。それ故、常日頃から自身の足元と身の処し方を見つめながら生きていかねばならないと自戒を込めながら彫り上げました。

さて、そろそろ粗放な話は終わりにしましょう。
本稿に最後までお付合いを賜った方々にありましては、縁起を担ぐことを主眼においた根付とは異なる本作『心磨しんま』の妙と可笑しみを感じ取って頂けたなら喜ばしい限りです。


§ ご案内

興味をお持ちになって頂けた方は、本稿と併せて Creema の拙ショップもご覧になって頂ければ幸いです。

【作品名】心磨・心を磨く(しんま)
【製作年月】令和7年3月完成
【使用材料】
 本体:黄楊(ツゲ:御蔵島産)
 仕上げ材:染料(ヤシャブシ・茶粉)、イボタ蝋
【サイズ・長さ】 ※最大部分で計測した凡その寸法 
 本体サイズ:正面から見て 縦 38㎜ × 幅 33㎜ × 奥行 38㎜

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