扉#風まかせ文芸部
朝、起きてトイレに行こうとして、思わず立ち止まった。
寝ぼけた目にうつるのは、見慣れない“扉”。
いや、確かにここはいつも通り、廊下の途中。右手にトイレ、左手は物置。そのはずなのに、物置の代わりに、見たこともない真新しい扉がある。
しかも、木目調でやたらとオシャレだ。黒い取っ手には、なんだか高そうな金属が使われている気がする。
「誰がリフォームしたの?」
寝ぼけてるのかと思ったが、顔を洗って戻ってきても、扉はある。親に聞いても「そんなの前からあったよ」と言われた。
いや、なかったって。絶対になかった。昨日までは、確かに物置だった。中には壊れた掃除機と空の段ボールと、使わないカーペットが詰め込まれていた。ドアも立て付け悪くてギイギイ言ってた。
でも、この新しい扉は、スッと静かに開いた。
中は、となりの部屋だった。妹の部屋。
「え? なに、これ近道?」
今まではリビングからぐるっと回って入るしかなかったのに。なんで急に直通ルートが? というか、妹、爆睡してるし。
その日から、うちはちょっと変わった。
母が「ちょっと! この扉通ってゴミ持っていかないで!」
と怒ったり、
妹が「絶対入ってこないでって言ってるでしょ!!」
と叫んだり。
でも、便利なので、誰も塞がない。
気づけば、日常に自然に溶け込んだ“もうひとつの扉”。
ただし。
週に一回くらいの頻度で、
つながってる部屋が変わる。
時々、父の書斎になったり、
台所になったり、
はてはベランダになったり。
もう、家族の誰もが気にしない。
「今日はこっちね〜」くらいのテンションで、扉を使い続けている。
便利だから、
「なぜ?どうして?いつから?」が、
どうでもよくなってしまった。
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