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どうか縛らないでください#アマノ文筆クラブ

友だちの紹介で付き合うようになった彼から、LINEが頻繁に来るようになったのは、付き合い始めて二週間が経った頃だ。

別に用事がある訳ではなく、
「今どこにいるの」
というLINE。

最初の頃は、まめな人なんだな、と思った。
けれど、毎日、何度も送ってくる。
同じ大学内にいるのだから、
「どうというわけでは無いのでは」と思う私は、
彼からLINEが来るたびに、
胸の奥に小さな重石を置かれたような気持ちになっていた。

彼は優しい人だ。
会って食事をする時は、いつも私を気遣ってくれて、
私の好みの店に連れて行ってくれる。

でも、逆に言えば、
私の話から私の好みを拾い上げ、
私の輪郭を自分の中に写し取るように見えた。

ある日、私は彼にLINEを送った。
「あなたは、何が好み? 何か好きな食べものってある?」

返信は、
「キミの好きなものが、僕の好みだ」

その一文を見た瞬間、
どこか遠くで扉が閉まる音がしたような気がした。

私たち、これからどこに向かうんだろう。

木の葉が散らばる歩道を歩きながら、
私は彼の思いが自分の足に絡みつくように重く感じられ、
ため息が自然とこぼれた。


ある日の夜、大雨が降っていた。
すごい音を立てて雨が降るので、
カーテン越しに外を見た時、
彼が傘を差して、私の部屋が見える場所に立っていた。

彼は、私が見たことに気づいていないようなので、LINEを送った。
「今、どこ? こっちはすごい雨が降ってるよ」

すぐに返信が来た。
「僕もアパートの部屋にいるよ。こっちは大した雨じゃないよ。気をつけてね」

心臓の奥で、冷たいものが静かに広がった。
なぜ嘘をつくの。
なぜ、そんなふうに私を見ているの。


次の日、彼と会って話した。

「昨夜、私の部屋の近くにいたでしょ。
大雨の時、カーテン越しにあなたを見たの。
でも、あなたは部屋にいると言ったわ。
何故、そんなことを言うの」

「キミをいつも守りたいからだよ。
でも、僕がキミにそのことを話したら嫌がるだろう?
だから、黙って見守っているんだよ」

「……私にそんなこと、しなくていいわ。
ごめんなさい、あなたが正直言って、怖い」

「心外だなぁ。僕はキミを守っているだけなのに」

「だから、それをやめて欲しいの」

私の手は震えていた。

「わかった。キミがそんなに嫌がるなら、辞めるよ」

「ありがとう、分かってくれて」

「いいのさ。これからはキミを縛って、僕の部屋にいてもらうよ」

空気がひと息止まった。
その瞬間、私は走り出した。


彼は追って来る。
けれど、陸上部にいた私の方が速い。
夜の道を走る足音が、すぐ後ろまで迫っては離れていく。
そして、大学の門外にある交番に駆け込んだ。

「助けてください!」

そう言って、さっきの会話を録音していたテープを差し出した。

彼はいなかった。

警察に話したことで、ようやく息を吸い込めた気がした。


次の日の朝、玄関を出ると、彼が立っていた。
驚いた私は、昨日交番でもらったブザーを鳴らした。
金属が悲鳴を上げるような音が響き、彼は逃げだした。
アパートの住人たちが外に出て来た。

「今度、また来たら家に逃げていらっしゃい」

「おー、みんなで連帯しようぜ!」

その声が、冷たくなっていた心に灯をともすように聞こえた。

「ありがとうございます」
と言いながら、私は泣いていた。


彼を紹介してくれた友にも話した。

「そっか。あの人はそんなことをしてたんだ。
それ、私がそうだから、あの人にも感染したのかも……ふふ」

その笑みが、ひび割れた鏡を見ているようで、
私は何も言えなくなった。




※アマノ文筆クラブ、初参加させていただきました。
m(_ _)m


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