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denwa_uranai1
書斎#風まかせ文芸部
父は、売れない物書きさんだった。
ほんの少しだけ原稿を読んだことがある。
正直、何を言いたいのか分からなかった。
そんな父の書斎には、大きな木製のデスクがあり、
両側には本棚がずらりと並んでいた。
まるで、重厚な文筆家の部屋のようだった。
父が鬼籍に入り、使う人がいなくなったその部屋は、どこか寂しげに見える。
けれど、私はこの部屋が好きだ。
机の引き出しを開けると、
インクの匂いと、少し黄ばんだ原稿用紙の束が顔を出す。
ペン立てには、使いかけのボールペン。
もうインクは出ないのに、なぜか捨てられずにいる。
癖のある筆跡が残るノートには、
書きかけの文章が途中で止まっていた。
「この先に、何を書こうとしてたんだろうね」
誰に言うでもなく、つぶやいてみる。
机の前に座ると、思っていたよりも椅子が低い。
手を置くと、木の感触がやさしくて、
まるで父が「ようこそ」と言っているように思えた。
ペンを一本借りて、真っ白な紙を広げてみる。
何も書かなくても、しばらくはそれでよかった。
ただ、この机に座ってみたかった。
それだけで、今日は十分だと思えた。
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