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書斎#風まかせ文芸部


父は、売れない物書きさんだった。
ほんの少しだけ原稿を読んだことがある。
正直、何を言いたいのか分からなかった。

そんな父の書斎には、大きな木製のデスクがあり、
両側には本棚がずらりと並んでいた。
まるで、重厚な文筆家の部屋のようだった。

父が鬼籍に入り、使う人がいなくなったその部屋は、どこか寂しげに見える。
けれど、私はこの部屋が好きだ。

机の引き出しを開けると、
インクの匂いと、少し黄ばんだ原稿用紙の束が顔を出す。
ペン立てには、使いかけのボールペン。
もうインクは出ないのに、なぜか捨てられずにいる。

癖のある筆跡が残るノートには、
書きかけの文章が途中で止まっていた。
「この先に、何を書こうとしてたんだろうね」
誰に言うでもなく、つぶやいてみる。

机の前に座ると、思っていたよりも椅子が低い。
手を置くと、木の感触がやさしくて、
まるで父が「ようこそ」と言っているように思えた。

ペンを一本借りて、真っ白な紙を広げてみる。
何も書かなくても、しばらくはそれでよかった。

ただ、この机に座ってみたかった。
それだけで、今日は十分だと思えた。



#書斎
#風まかせ文芸部

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