見出し画像

夏の音【風まかせ文芸部】

昼下がりの商店街。陽炎が立つアスファルトの向こうから、パタパタとサンダルの音が近づいてくる。

「ねえ、聞こえる?」

小学生の美月は、横を歩く祖母にそう尋ねた。

「何が?」

「夏の音。今、聴こえたよ。あのセミの声の後ろに、なにかいる」

祖母は笑った。

「それはたぶん、美月の心が夏を探してるんだよ」

「どういう意味?」

「人の耳には、季節の記憶がこっそり入ってるの。スイカを割る音、花火の遠いドン、風鈴のチリンチリン、
そんなのを聞くとね、思い出が顔を出すんだよ」

美月は立ち止まり、耳をすませる。
セミ、風鈴、かき氷機のガラガラ。
でもその奥に、確かにいた。
友だちと汗をかきながら遊んだ笑い声。

「やっぱり、いた」

「誰が?」

「夏の音の中に、わたしの夏がいたよ」

祖母は静かにうなずいて、再び歩き出す。
商店街のスピーカーから、古いフォークソングが流れ始めた。



いいなと思ったら応援しよう!

てみ いつもありがとうございます。よろしければ応援をお願いします。これからも分かりやすい記事の投稿に努めてまいります。