【短編小説(民俗系すこしふしぎ)】パンダに追いかけられる 8000字
俺は昔からわけのわからない事件に巻き込まれるいわゆる『巻き込まれ体質』という奴だ。だからいつもお守りを携帯している。腐れ縁の凄腕ぽんこつ陰陽師にもらったやつだから、案外効果はある。
それはともかく今回の話もそうだった。
実にわけのわからない顛末だ。
始まりはある寒い冬の夜。
数日前から俺の後ろをとぼとぼとついてくる者がいた。といっても危険だとか怖い存在ではない、と思う、多分。殺気のようなものは欠片もなく、寧ろ悪戯をしているような空気感を感じていた。
けれど最初にそれを直視したときにはかなり驚いた。なぜなら妙な気配を感じて振り返ると、街灯がスポットライトのように照らすまん丸な光の中心に、それがぼんやりと立っていたからだ。
一番最初の時は、うおっという変な音が口から漏れたものの、例えばこれが日本人形とかビスクドールであれば反応は違ったかもしれない。走って逃げた気もする。
けれどもそれはパンダのぬいぐるみだった。少し汚れた、というか二足歩行の足の裏はおそらく結構汚れている気はするが、ともあれ体長30センチほどのパンダのぬいぐるみだ。何だこれ、意味がわからないぞと思いつつ、飛びかかられたりはしないよな、飛びかかられたら上着が汚れそうだ、というやはり何だかよくわからない心配をしながら、結局は近寄りはせずに家に帰った。
唯でさえわけのわからないものに巻き込まれる質だ。わざわざ近寄るわけがない。
けれどもその現象は一回こっきりではなく連日続いた。
毎晩同じ時間になると、俺の後ろを1メートル半ほど離れてそのパンダがついて来る。気になるような、どうでもいいような、うっとおしいような気分に陥るものの、なんだか煮え切らずだ。
だから、俺は既にこの怪現象には巻き込まれ終わっていると認識した。既に完了しているなら、終わらせないと終わらない。この関係、つまり意味ありげにパンダが夜な夜なついてくる事態が続くのもなんだかもうイライラするわけで、その日はいつもの帰り道の角を曲がったところで待ち伏せして、パンダが角を曲がるところを捕まえた。
「やった! これでおじさんがカブの餌だ! わーい」
「おいお前、何つう物騒なことを言うんだよ。それに俺はおじさんじゃない、お兄さんだ。まだ28だからな」
「えー」
「それでこれは何の悪戯だ」
「悪戯じゃないもん! おじ、お兄さんも早く次の人に捕まらなきゃダメだよ! そうしないとカブに食べられちゃうからね!」
何故だかふんぞり返るパンダに困惑は深まった。
そもそも存在自体が訳のわからないパンダの語る意味不明な話はこうだった。
このパンダの後ろにはたくさんの捕まった者たち、供物候補がいる。それでその最奥にはカブと呼ばれる大きな鬼がいるらしい。
そのカブが歩き出したら一番近くの人を食べようとする。そうすると自分を捕まえた人を前に出して『この人の方が新鮮ですからこちらをお食べください』と言う。そうするとカブは『うむ』と頷きその人を食べようとする。けれどもその人も『この人のほうが新鮮で〜』と続け、自分を捕まえた人をさし出す。これを繰り返して最後尾にいる者が食われるらしいのだが、つまり今それは俺になったわけだ。
カブがうむと頷き?
さっぱり意味がわからないが、俺はカブに食われるらしい。そんなバカなと思うが、そんなバカな話をしているのもそんなバカなと言える喋るパンダのぬいぐるみだ。そんなバカな。
だが俺は『巻き込まれ体質』だ。こんなわけのわからない事態も、残念ながら割とよくある。
そしてその謎の連鎖からなんとなく思い浮かぶ話があった。
「そのカブってでかいのか?」
「そりゃあもう。山のように大きいんじゃないかな?」
「かな? というか逃げればいいんじゃないのか? 俺が全力疾走で逃げて、お前が俺を見失ったらそれで終わりじゃないか」
「そんなことはありません。必ず自分より足が遅いものを狙いますから」
偉そうに腰に手を当てエヘンとしゃくれるパンダのぬいぐるみを上から下まで眺める。こいつが俺より足が速い? そんなバカな。
「試してみますか? 無駄ですよ?」
「こんな往来で全力疾走しなくても目が届かないうちに逃げりゃいいだけだろ」
「僕はずっとおじ、お兄さんを追いかけてますから。学校では自販機のそばでぬいぐるみのフリをして、家に帰ったら玄関の前で嫌がらせもののフリをして」
「ストーカーかよ。じゃあお前も誰かに見張られてんのか?」
パンダは意味深に頷き、今曲がってきた壁の向こうを覗くよう指? 腕? で示す。そっと覗いて今度こそ心臓が凍るかと思った。少し離れたスポットライトよろしく街灯に照らされていたのは、パンダと同じくらいの大きさのブリキのロボットだ。それが斜めにかしげて佇んでいた。
ボロボロに赤錆びている分、パンダよりよっぽど怖い。妙に四角いフォルムを動かせばギギギという音がしそうだ。これに毎晩追いかけれるならお祓いが必要な気がするな。でも。
「あれはそんなに足が速いのか? 逃げられないほど?」
「お、兄さんはまったくわかっていませんね。あれはロケットブースターで空を飛ぶんです。敵うわけないじゃないですか」
「うーん?」
そんなハイテクなものが? 市販のロボットにそんなものがついているはずがないだろうと頭の片隅によぎるが、市販のぬいぐるみやロボットは話したり自立して動いたりはしない。
「つまりお、兄さんはお兄さんを捕まえてくれる生贄を探さないといけません」
「それはつまり俺に俺の代わりに食われる候補を探せってことだろ? 俺を捕まえるような奇特な奴なんているかっていう前に、流石にそれは気がとがめるわ」
「何故です? 弱肉強食でしょう?」
どう見てもかわいらしく首をかしげるパンダのぬいぐるみに弱肉強食いわれてもな。そもそもカブは食いもんじゃないのか。うーん。
「今カブはどういう状態なんだ?」
「地面ですくすくと育っています」
「その間に叩き割っちゃだめなのか?」
「それが恐ろしく硬いのです。どんな武器を持ってしても不可能でした、と思います」
どこかオドロオドロしそうに喋るパンダはやはり、ちっとも怖くはない。
「カブは近づいたら襲ってくるのか?」
「いえ、きちんと育つまでは普通の根菜と同じように地面に埋まって寝ています」
不確定な情報が多い。
それに根菜というものは地面に植わっているのではなく、地面で寝てるのか? よくわからん。
再び角からそっと覗くと、ブリキと目があった。やはりなんか怖ぇ。
パンダの話しぶりを考察すると、ブリキの後ろにブリキを追いかけているやつがいるということなのだろう。けれども終点というのはどのくらい先のことなのか。
この謎の連鎖の先に何が待ち受けているのか。そもそもこのパンダの言っていること自体が伝言ゲームだろうから、元々のメッセージは全く違うものじゃぁないのかな。例えば。
いつもの癖でこの話の構造を頭の中で組み立てる。
「お兄さん、寝るなら家に帰ったほうがいいよ」
「別に眠いわけじゃない」
俺の仕事は民俗学だ。民俗学というものは、特定地域の様々な伝承文化、信仰風俗、慣習や思考を統合し、体系立てて読み解く仕事だ。このようなわけのわからない事象においても一つの物語として成立するのであれば、その独自の世界が構築されて然るべきである。
自分が捕まったら、自分を捕まえるやつを探しに行く。『次の相手を捕まえる』じゃなく『次の自分を捕まえる相手を探す』必要がある。そこに横たわる奇妙なレトリック。通常、代わりの犠牲者を用意するのであれば、自分が捕まえられる必要はない。単純に犠牲者を捕まえて差し出せばいいということだろう?
なんのために捕まえられるのか。不合理で不必要に思える必要合理性こそが、根底の世界ルールに繋がっている。これは次の対象の自発的なリアクションが必要な呪いなのだ。自主的に捕まえるのでなければ、引っこ抜くことなどはできはしない。対象に逃げ出されるのではなく、対象に協力させるのだ。
やはりこれはカブの話だな。
「カブを見に行く」
「えええぇぇぇぇえええぇぇぇえええええ」
「うるさい。行くと言ったら行く」
「カブに近づくとすぐ食べられちゃうじゃないですか!」
「お前の話だと生贄は一本線に繋がってるんだろ? 紐みたいに。それでお前の話を前提とすると、カブが律儀に起点から順番に話しかけていく。それならその起点と終点が近くに存在していたとしても、カブが到達するまでの時間はかわらんだろ」
……このパンダはどうみても理解してなさそうだが別にいいや。
俺はロボットのところに歩いていく。パンダはあわあわと俺の後ろをついてくる。ロボットはまさか向かってくるとは思っていなかったのか、一歩ギシリと後ろに下がる。
「お前が引っ張られたら、捕まえたやつを引っ張れよ」
そう伝えると、ロボットはギギギと音をさせながらアワアワと頷いた。
そのロボットの横を通り過ぎて更にその背後を眺めると、でかい生首が浮いていた。うちの街は一体いつから異界になったんだ。
……まぁ、昔からか。この神津という都市を調べれば調べるほど、訳のわからない事象が連綿と続いているのがわかる。
そのまま仔細気にせずどんどん進み、まさか終点が近づいてくるとは思っていなかったらしい慄く生首の横を通る時、ロボットと同じように伝言を伝えて更に後ろを覗き込むと、長い紐が浮いていた。なんだこれ。一反木綿の亜種か何かなんだろうか。
後ろを振り返ると少し後ろにパンダが、その後ろにロボットがついてきているのが見える。順調で良い。
ゲームではなく直接の伝言を繰り返しながら、いくつもの奇妙な存在を辿る。そのうちにだんだんと世界は奇妙な暗い洞窟に繋がり、それを抜けた先の山を越え、谷を渡っていつのまにかのどかな農村風景にたどり着く。
ホーホケキョとウグイスのなく麗らかな春だった。時空が歪んでいる。ここは既に俺がいた現世ではない。俺がいた街は冬だったはずだが、すでにここは地球の日常で捉えられる場所ではないのだ。だから比べても仕方がない。ただ、この世界の根幹が春というだけなのだろう。カブの旬は春と秋とも聞くからな。
その農村に到達するまで都合132体の何だかよくわからないものの隣を通り過ぎ、ようやくそのネズミにたどり着いた。
ネズミは驚いた顔で俺を見た。
まぁそうだろうな、マウンテンパーカーとニットカーデにジーンズなんておそらく見たことがないに違いない。暑い。
そして俺は長い長い列を引き連れてねずみの隣を通り過ぎ、しっぽを太くして警戒するねこの隣を通り過ぎ、低く唸る犬の隣を通り過ぎ、15くらいの目を丸くする垢抜けない娘の隣を通り過ぎ、口をあけっぱなしのおばあさんの隣を通り過ぎ、苦り切った顔をした皺の深く刻まれたおじいさんの前にたどり着き、その先にこの冒険で俺を待ちうけていたもの、そしてこの世界を構成する根幹を見た。
おじいさんの後ろには、地表に見える範囲だけでも高さ10メートルはあろうかという白い塊が地面に埋まっていた。地中を入れると全長は20メートルに達するのかもしれない。……俺が記憶しているカブの話の表紙ではせいぜい2メートルちょっとくらいだった記憶があるのだが。
厳密に言えば『大きなカブ』はロシア民話だから、蕪の原種であるブラッシカ・ラパかもしれないな。その生態なぞ知らぬが、アブラナと科の植物は核内倍加によって表皮細胞が巨大化するらしいから、そういうものなのかもしれない。
「スタリク、このカブは随分でかいな」
「……何故ここに人間がおる」
「あんたが始めた呪いが俺をここに呼び寄せたのさ」
「……」
「あんたがカブの種を植えたんだろう? 何故こんなことをする」
「それがこの世界の定めなんだよ。これはオバケカブだがこの種を撒かないと物語が始まらない」
「ふん、随分メタ的な話だな」
「物語とはそういうものさ」
おじいさんは両手で野球ボール大の丸を作る。
「最初はこのくらいの大きさの種だった」
種の時点で既に随分大きく見えた。カブの種というものは見たことがないが、その種自体が既に普通のカブ1つ分ほどの大きさに見える。
「俺たちは冬が来たら種を植える。春になったらカブを収穫する。それができずに夏を過ぎたらこのカブは人を食う。そして誰もいなくなる。けれども秋になったらカブは枯れて種になる。この話は繰り返される人とカブの闘争の歴史なんだ。だから大きくなりすぎる前にカブを抜かなくちゃならないのにな」
「うまくいかなかったのか」
おじいさんは長い冬を思わせるような、深い深いため息をついた。
「そうだ。いつだったかな。それまでずっとうまくいってたから、少しだけ油断して、それで抜くのが少しだけ遅くなったんだと思う。その年はネズミの手を借りてもカブは抜けなかった。だからネズミに誰かを呼びにいくように頼んだんだ。ネズミを捕まえてネズミを引っ張る者を。けれどもネズミにそこまでの頭はなくて、そこらへんを走り回っているうちにカブが這い出して全てを食べてしまったのだ」
「ネズミじゃぁなぁ」
ネズミが所在なさげにキョロキョロしている。
カブを見上げる。とてもとても大きなカブだ。これを人3人と動物3体で引き抜くには既に手遅れなのだろうな。
「わしらは新しい物語が始まる時、カブと一緒にこの世界に生えてくる。まずわしが生え、カブの種を撒き、そのあと順番にばあさんや娘が生えてくる。だが情報は引き継がれた」
「情報?」
「そうだ。わしらは毎回カブを食って力を蓄えて終わる。その年はわしらはカブを食えず、カブはわしらを食ったのだ。だから力関係が逆転した」
「食った分だけカブのレベルでも上がったのか」
見上げるカブは、確かに映画で見るような中ボス程度には威圧感がある気はする。
「レベルというものが何かはわからんが、ともあれその次の年は娘が生えた直後でも、犬や、猫や、ネズミが生えた直後でも、わしらはカブを抜けなかった。間に合わなかった。それ以降はずっと食われ続けてる。だがそのうちネズミも学習したのだろう、わしらを真似て、何かを呼びに行くようにはなった。だがネズミを引っ張ってくれる者はいなかった」
「ネズミに伝言ゲームは無理だろ」
「チュウ」
おじいさんははぁ、と再び大きくため息をつき、俺をちらりと見た。それから振り向いて大きなカブを見て、再び俺と、俺とネズミに連なる長い列を振り向いた。
「なんの因果で人間がここにいるのかわからんが、あんたも運が悪かったな。毎年、順番に俺から食われて、繋がったやつは全て食われてそれで終いだ。そしてまた、来年カブは更に強くなる。食われる者が増えるほどにな」
「まぁ俺はいつも運はあまりよくないんだがな。だが今回はあんたらにとってラッキーだ」
「何?」
おじいさんはようやく目をあげ、俺をまっすぐに見た。
「あんたはカブを抜くためにおばあさんを呼んで自分を引っ張らせた。それでも無理でおばあさんは娘を呼んで、娘はおばあさんを引っ張った。けれどもその流れはネズミで断絶して、ネズミが声をかけた者はネズミを引っ張らなかった」
「そう、だな」
「それが巡り巡ってこの話を知っている俺までやってきた。この世界では引っ張れば引っ張るほど、その力は加重又は倍化して前の者に伝わるのだろう? 流石にネズミが引っ張る力が猫に伝わっただけでカブが抜けるってのは物理的におかしいからな」
「うん?」
「つまり俺はあんたがしていたように、カブを抜くために俺を捕まえた者を引っ張って、そいつが更に捕まえた者を引っ張っていけばどんどん力が伝わっていくはずだ。この連鎖がこの世界の理ならば」
ぽかんとしているおじいさんをよそに俺は俺の後ろにいたパンダを持ち上げ引っ張った。パンダからほよよ、という音が出た。不思議なことに引っ張る意思を持ってパンダをつかめば手はパンダにくっついた。『カブを抜こうとする意思』と力がパンダに伝染した、気がする。
困惑するパンダに後ろにいるロボットを引っ張るように言うと、俺をくっつけ俺に引っ張られたままパンダはロボットのところまでとてとて歩き、ロボットを引っ張った。パンダがロボットに近づいた分、俺はおじいさんから少し遠ざかった。けれどもその分、俺とパンダのカブを抜こうとする意思と力がロボットに伝わる。ロボットはうなずいて、俺とパンダをくっつけながらガタガタと歩いて生首を引っ張った。
それぞれの間の距離が少しずつ詰まる。少しずつ距離が詰まる度にその分俺はおじいさんから遠ざかり、いつの間にか俺は再び列の最後尾、おじいさんから最も遠い位置に収まる。
カブを抜く意思と力は俺を起点にして最終的にその力の総体を終点、いや、起点にいるおじいさんに届ける。132体分の意思と力はうねりとなってネズミに届き、おじいさんに届いて集約され、おじいさんに力はみなぎったのだろう。掛け声が聞こえ始めた。
「うんとこしょ、どっこいしょ」
「うんとこしょ、どっこいしょ」
「うんとこしょ、どっこいしょ」
遠くでバァンというカブが爆発四散する音が聞こえた。
流石に力が過多だったようだ。わけのわからんもの132体分の力だしな。途中にめちゃめちゃ力の強そうなやつもいたし、どんなに育ったオバケカブでも1体じゃ太刀打ちできないだろう。
遠くでカブパーティだという歓声が聞こえた。よかったな。
持ち上げていたパンダを下ろすとよろけてコケた。カブの呪いは全て解けたようだ。パンダは尻を叩きながらゆっくりと立ち上がり、俺を見上げた。
「あの、よくわかんないけどもう大丈夫なんですよね?」
「多分な、カブは抜けて、みんなで食べるんじゃないかな」
「へぇ。僕も食べてもいいのかな」
「いいんじゃないか? お前の力も入ってるんだろうから行ってこいよ。食えば力がつくらしいぞ」
「おじ、お兄さんはいかないの?」
「俺はとっとと帰る。相場では、異界の飯を食ったらもうこの世界から出られなくなるからな」
パンダはふぅん? と呟き、ロボットと手をつないでウグイスの鳴き声の聞こえる方向に走っていった。
「バイバイ、お兄さん」
「急げ。急がないと「めでたしめでたし」がやってきて食べそびれるぞ!」
そう叫ぶと、パンダとロボットはきゃぁと叫んでスピードを上げ、パンダはロボットの背に飛び乗ると、ロボットの足裏部分から火が出て轟音と共に飛び去った。。……本当に搭載してたんだな、ロケットエンジン。
そう思ううちに終焉を控えた世界は段々と暗くなり、パンダが向かった一角だけが遠くにポゥと明るく取り残されてた。そのうち世界は閉じて新しい物語が始まるのだろう。次の物語ではねずみの後に大量のわけのわからないものが続くのだろうか。大長編だな。
さて。俺も逃げ出せるうちに帰ろう。
懐に仕舞っていたお守り袋を開けて中から小さな鈴を取り出して鳴らす。そうすると、カブのいたのと反対側の暗闇の奥から、チリンという清凉な音が呼応した。
この鈴はわけのわからないことばかり起こる俺にポンコツ陰陽師の友人が持たせてくれた式神なのだ。俺の知識をもとに書けというまま書かせたから、あいつはこれが式神になっているとはつゆとも知らないだろうがな。
この音を頼りに歩いていけば、そのうちこの闇から現世に戻れるだろう。
了
この話は民俗学者の金井武とぽんこつ陰陽師の土御門太郎がセットの短編連作シリーズです。神津の愉快な人々の群像の1つです。
表紙

神津地図

