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【短編小説(コント)】チュパカブラの見えるメガネ 2000字

[HL:メガネをかけたらチュパカブラが見える]

 放課後、隣の席の幹高みきたかが声をかけてきた。
遠町とおまち、ちょっとこれかけてみて。変なものが見えるんだ」
「変なもの?」
 そう言って幹高は俺にメガネを差し出した。躊躇した。だって今まで幹高がかけてたやつだし? 幹高にこれまで話しかけられたことないしさ。
「なんで俺」
「だってお前、眼鏡かけてるじゃん」
 かけてるから何だっていうんだ。
 けど気弱な俺は勢いに押されて思わず受け取ったものの、その細くて赤いフレームはどことなくパリピ感のある幹高の明るい髪色にこそ似合うのであって、俺みたいなボッチでモブい黒髪がかけたところで浮くとしか思えないっていうか。そもそも幹高と俺はクラスメイトだがただ席が隣だというだけだ。初めての会話がこれかよ。

「ほら、はやく」
「お、おう……」
 けれど幹高は妙に圧をかけてくる。陽キャは苦手だ。うまく断る言葉も思い浮かばず、仕方がなく自分の紺縁のメガネを外してかけてみた。細いゆえか、思ったような生暖かさはなかった。けど視界がクラリとゆれた。
 ……乱視が強すぎる。
「かけたけど、なんだって?」
「変なのが見えるんだってば、二足歩行する爬虫類みたいな」
「そんなんいるかよ……」
 壺でも買わせようっていうのかと思いつつ視線を窓に向け、そうして俺は見つけた。教室の外のベランダのところに緑色の爬虫類っぽい頭部と赤いとさかのようなトゲ。慌ててメガネをとると何も見えなくなり、再び鼻頭に引っ掛けるとその緑の頭部が。
「や、ちょ。幹高。アレ何だよ」
「何ってわかんねぇよ。だからお前に聞いてるんじゃん」
「なんで俺」
「や、お前陰……不思議なものに詳しそうだし」

 今陰キャって言おうとしたな。否定はしない。否定はしないが陰キャが全てUMAや妖怪が好きと思うな。ん? 妖怪? 改めて見つめれば、どことなく妖怪というよりはUMAに見える。なんかカラフルだし。両方とも実物を見たことはないが。
「どうしていいのかわかんないからさ」
「俺だってわかんないよ。つか見なきゃいいじゃん」
「だって視界に入ってくるんだぜ、ちろちろと」
 幹高はふてくされたように唇を尖らせた。意外と子供っぽい。
「無視すれば?」
「お前、無視できる? あれ」

 再びかけてみれば、頭部のとさかがピョコピョコしている。無理かもしれん。
「あれが見えるのようになったのはここ1週間くらいなんだけどさ、多分チュパカブラだ」
「チュパカブラ……って南米にいるやつじゃないの?」
 うろ覚えの記憶を喚起する。UMAだった気がするからいると断言してよいのかよくわからないが。
「ホラ」
「ほらっていわれても」
 幹高がスマホの画面を表示すれば、胡散臭い画像がたくさん出てきた。確かに先程の爬虫類的な頭とびょんびょんするトサカは矛盾しない。矛盾しないけれど、全体像がわからないからそうとも言いきれない。
「それでチュパカブラって血を吸うんだって。見えるってわかったら血を吸われそうな気がする」
「はい?」
 改めてみた幹高の顔色が少々悪いことに気が付いた。ペディアで調べるとたしかにそんな内容が書かれている。

「や、だってUMAだろ? 本当に血を吸うかわかんないじゃん? 未確認だからUMAっていうんだよ」
「だから今確認してんじゃん。で、本当だったら? 本当だったらお前責任とれんのかよ!」
「落ち着けよ……」
 幹高は基本人当たりの言い明るいやつで、こんなふうに切れるのを見るのは初めてだ。どうもあのぴょこぴょこしたトサカで愉快な印象が強いが、確かに変なものが見えるというのは強いストレスになるかもしれん。
「あれは教室の中に入ってくんの?」
「いや、ベランダの外をうろついてるだけ。誰かがドア開けても入ってこない」
「じゃあ安全じゃん?」

「見えてるときだとわかんないじゃんか、目があったらとか」
 目があったら? うーん。まあわからんもんはわからん。
「とにかく返すよ。乱視酷い」
「わかった」
 外せばやはり見えなくなる。だから眼科に行けっていう問題でもないかもしれない。あの眼鏡がヤバイのか?
「悪かったな」
「いや、別に」
 幹高はシャツにメガネを引っ掛け、鞄を担いで教室を出ていく。
 一体何だったんだ? そう思いながら俺も家路についた。

 翌朝、登校すると幹高は緑の細いフレームのメガネをしていた。それがなんとなく気になった。そしてベランダに目を向けると、ピコピコととさかが動いているのが見えてギョッとした。
「幹高、俺にも見えるようになったんだけど」
「え、そ、そうなのか?」
 幹高は不自然に目をそらし、わかりやすく挙動不審だ。
「や、お前気にしなさそうだったし?」
 気にしなさそうだったし? 気にするだろ普通。
 その言葉からわかるのは、幹高が俺が見えるようになることがわかってたってことだ。
「あ、あの、本当にごめん。俺はもう限界でさ」
 幹高は俺を拝みながら上目遣いで見る。いや、限界そうではあったけど。
「お前も嫌になったら他のやつにメガネかけさせて、そのメガネかけずに新しいメガネに変えたら見えなくなるからさ」
「俺が?」
「そうそう」
「どういう理屈だよ」
「わかんねえよ俺だって。でも誰かいるだろ?」
 ボッチなのに? つかそこまでがUMAならこれはどっちかっていうと都市伝説とかそういう類いでは。
 そう思っていると、幹高はそそくさと教室を出ていって、その日は帰ってこなかった。
 俺はといえば視界にチラチラ映る謎のぴょんぴょんに困惑しながら、窓から入ってこないならいいんだろうかと思っている。

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