本雑綱目 64 小泉武夫 発酵食品と戦争
今回は小泉武夫著『発酵食品と戦争』です。
文春新書、ISBN-13 : 978-4166614219。
NDC分類では383、社会科学>衣食住の習俗に分類しています。
これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。
★図書分類順索引
1.読前印象
発酵食品というとチーズや納豆のイメージだ。戦争、つまり持ち運び食料としての発酵食品というとなんとなく忍者飯という言葉がうかんだ。発酵食品を巡って戦争になったりした……ことはあるのかな。
よくわからないのでとりあえず開いてみよう~。
2.目次と前書きチェック
はじめにを読む。二次大戦後の生活は困窮を極め、様々な食の工夫や代用食品が生まれた。ウクライナ侵攻によって小麦等の価格は高騰のように、戦争による食料欠乏は今の時代も存在する。この本における「発酵」の定義は微生物又はその酵素が人に有益な物質を作り又は有効な手段となること、とする。牛乳は放置すると腐敗するが、乳酸菌が入ればヨーグルトやチーズとなるように有用有益となるのが発酵だ。発酵産業は嗜好品以外でも医薬品や化学製品といった分野も伸びている。
……なんとなく行ったり来たりする文章だなと思った。
目次は『1 戦時下の発酵食品』、『2 戦時下の酒』、『3 戦争と知られざる発酵』、『4 ウクライナとロシアの発酵嗜好品』です。4は戦争あまり関係ない気はするけどあの辺はピクルスとかザワークラウト、チーズやスメタナなど美味しいものが多い印象。
1 戦時下の発酵食品のうち6以下と『3 戦争と知られざる発酵』を読んでみます。ちょっと多いか。
3.中身
『1 戦時下の発酵食品』後半について。
後半(6以下)は食パン、鰹節、チーズ、甘酒、チョコレート、紅茶、缶詰、軍隊調理法について。前半は醤油とか味噌とか日常使いのもの。
享保三年の御前菓子秘伝抄では小麦粉を甘酒で練るというパン様のレシピがあるが、パン食は広まらなかった。江戸末、韮山代官の江川太郎左衛門(反射炉を作った人)が兵士兵糧としてパンを考え、長崎からパン職人を呼び寄せてパン(乾パン)作った。その後横浜でパン屋が開かれ、続き長崎や函館でパン作りが始まり日本にパンが広がっていく。戊辰戦争で薩摩藩は黒ごま入り堅パンを風月堂に発注した。西南戦争では政府軍は木村屋、つたもとパン、三河屋パンにパンを発注した。パンの始まりが軍需というのはなかなかの驚き。
戦時下では節米運動の一環として、野菜や油脂、黒砂糖などが入った興亜建国パンが推奨されたが不味かった。二次大戦中のイギリスでは全粒粉にビタミンやカルシウムが加えられたナショナル・ローフ以外の製パンは禁止された。似たようなムーブを取っているところは興味深い。
鰹節の原型は延喜式の堅魚という素干し保存食だが、燻製法が考案されたのは江戸初期で、以降『勝男武士』として軍事の縁起物として重宝される。黴というのは湿度の高さを要する発酵食品で、西洋にはあまりないそうだ。チーズについてはグルジアの古いチーズのエピソード、甘酒については代用甘酒や思ったより多い種類、チョコレートについてはアメリカでHERSHEY'Sに軍事発注する際の要件として茹でたじゃがいもよりややまし程度の味のオファー(嗜好品として消費が進むことの防止)があったことが興味深い。そういえば劣化したチョコレートの油が浮いたぼさぼさ感は茹でた芋ににていると言えないこともないような。
紅茶についてはイギリスが碌でもないとしか言いようがない……アヘン戦争やボストン茶会事件のあたりのお話で、とても興味深い。多分、これが当時の植民地に対してはなにをしても良いという素の振る舞いなんだろうなと思うけれど。缶詰については開発から戦時の金属拠出による陶磁器缶詰の話が興味深い。『軍隊調理法』については帝国陸軍が編纂した料理の基礎と献立本で、パン食や洋食、おやつなどといったレシピが含まれる。
記載量の多少はあるけれど、それぞれにとても興味深い。その理由は後述。
『3 戦争と知られざる発酵』について。
江戸初期の五箇山では稗殻、腐葉土、蚕糞や鶏糞、人尿を加えて発酵させ、それを加工し塩硝(硝酸カリ)を作った。これ異世界でよく硝酸を自力作成するやつだな。それから糖発酵時に亜硫酸ナトリウムを加えるニトログリセリンの作り方、芋からアセトン発酵によって燃料を作ろうとした話。わりに異世界で使えそうなやつ。
その他抗生物質や海藻発酵によるヨウ素、堆肥、柿渋の作り方について。
全体的に、とても興味深い。前書きを読んだときは話があちこちに飛ぶなと思っていたが、この飛び具合は著者の広い視点によるもので、とても具体的なのだ。この具体性というのは稀有なレベルで、たとえば通常何かのテーマの本があるとすれば、それにどのような種類があるかとか作成方法や機序が書かれるだけの本が多い中、この本は発酵品についてどのような需要がありどのような思想のもとで作られたかという背景事情まで詳しく述べられたとても興味深い本である。普通チョコレートに思想とか発想もしなかったところだが、すべてのものには歴史があるということを実感させる。そして現在と異なる戦時という状況で(洋の東西問わず)、様々な欠乏や問題をどのようにクリアしてきたかという重箱の隅だけをつつくような本は好感度高い。
小説に使えるかというと、ハイファチートにすごく使える。思えば第一次及び第二次世界大戦中って今ほど科学技術が発達していなくて、異世界でも頑張ればきっと再現しうるものがそれなりにあるのだ。まあスキルがないとペニシリンとかは無理だろうけど、一般流通して技術チートするにはよい。こんどまとめようっと。
4.結び
戦争について好意的にも悪意的にも記載していないところが好き。戦争というのは現象であって、タイトルに戦争が入っているのにそこに思想を結びつけない本はとても貴重です。好き。
次回は陳舜臣著『巷談 中国近代英傑列伝』、です。
と思うのだけど、読書ストックが減ってきたので別のエッセイを投げ込むかもしれませんが、あしからず。
ではまた明日! 多分!
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